将来医師を目指す医学生や高校生の援助を担当しているS君からの感想文が届きました

今回、5階緩和ケア病棟開設後はじめて症例検討会に参加しました。何度か開催されていましたがやっと参加することができました。検討会では、入院患者さんの様子や、患者への病棟スタッフの関わり方などをあらためて知ることができました。その中で、特に印象的だった内容を書きたいと思います。

【痛みのコントロールへの細かな対応】

まず、緩和ケア病棟では患者さんの疼痛コントロールが重要であり、使用中の薬剤で少しでも痛みが出現した場合は速やかにチームでカンファレンスを行いこまめな対応がなされていたことでした。がんの臨床過程に出現する苦痛は全人的苦痛と呼ばれ、身体的苦痛の他に精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアル的苦痛の4つの「苦痛」が相互に影響し合い、全体として患者さんの苦痛を形成していますが、身体的苦痛のコントロールは、その他の苦痛に与える影響も強いもので緩和医療の中でも特に重要なものであると思いました。5階病棟のスタッフが患者さんの痛みの訴えを聞き、直ぐに薬剤変更の対応ができていたのは、チーム医療が日常医療の中で意識的に行われていたからだと思いました。

【患者さんの選択・希望を尊重したケア】

次に、患者さんが入院中にかねてからファンであったS.M.さんのコンサートに行きたいという願いに対して、厳しい条件の中でも積極的に実現しようとしたスタッフたちの姿でした。介護タクシーの手配や緊急時の対応準備、そして、自宅に同行して送り出すところまで・・・。患者さんの選択・希望に可能な限り叶えてあげたいという姿が、患者さんと医療者との信頼関係を深めていくことにつながったのではないかと思います。

また、病状が進行していく中で食べられる食事も限定的になり食事量も減ってしまいましたが、「元々、大食いだから」「でも寂しくなるから量は減らさないでね」という患者さんの願いに対して、管理栄養士がメニューを日毎に変更するなどして、患者さんの精神的な不安を取り除くサポートをしていたことをはじめて知りました。これらの関わりが患者さんやご家族の方の安心感に与えた影響は少なくないと思います。

【医療者は患者さんに何をするのか】

最後に、今回の症例検討会を通じて一番考えさせられたことについてです。

「そもそも、医療者は患者さんに対して何をするのか」ということです。

患者さんの病気を治すこと?患者さんの苦痛を取り除くこと?患者さんを在宅に返していくこと?...。

考え方は様々あると思いますが、私は患者さんのQOLを尊重し、高めることだと思いました。緩和ケア医療においても苦痛を取り除くだけでなく、人生の終焉の間際まで、その人がその人がその人らしく、過ごせることをサポートすることが大切だと症例を通じて感じました。今回の症例では、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士からの関わりを中心に発表されましたが、その他のコメディカルの関わりもあります。患者さんに関わる全てのスタッフたちが患者さんの選択・希望に最大限応える医療を提供したのだと思います。患者さんのご家族からの「この病院に移って良かった」との言葉が、この症例に対する最大の評価だったでしょう。

私は、日常的に医学生さんや医師を目指している高校生さんと話をすることが多くあります。彼ら彼女らは真剣に「人のために役立ちたい」という思いを持っています。合わせて、医療は患者さんに何をするのか、換言すれば、「医療は患者さんから何を求められているのか」について常に問いかけられ、悩んでいます。私たちはそうした悩みに対して一緒に考えていくようにしています。答えはそう簡単には見つかりませんが、今回の症例検討会に参加して考えることで、多くの参考材料を得ることができました。

若い世代に今回の取り組みを伝えてくれることを大いに期待しています

「最期」の迎え方を支援するときに

平成26年1月、上腹部の痛みが継続するため外来で診察を受けた際に、胆のう癌と診断されたA氏。すでに手術困難な状態であり、本人・家族へ予後3~6か月程と告知された。もともと認知症の夫をA氏が介護していたが、今後のことを考え、夫は老健施設へ入所。その後A氏は娘・ヘルパーの支援のもと、通院・入院を繰り返しながら一人で生活をされていたが、その頃からA氏にも認知症の症状がみられていた。

同年9月、上腹部痛の強い痛みにより救急搬送され、急性膵炎にて入院となった。点滴にて治療を行い、データは改善。癌の進行も認められたが、内服にて痛みもコントロールでき、食事も安定してとれるようになった。しかし入院による環境の変化もあり認知症状が進行。主治医・娘と相談の上、「不安はあるが本人も自宅へ帰る気満々なので…」と自宅退院方向となり、MSWの介入が始まった。娘は他県在住、夫と姑と生活をしており、仕事やA氏の夫の施設へ行ったりもしているため、週2回であればなんとかA氏の自宅へ訪問出来そうとのこと。介護保険ではヘルパー・デイサービスを利用、ターミナル期のため医療にて訪問看護を導入、その他往診、配食サービスも利用し、1日2~3回は誰かが訪問出来る体制を整え、10月に自宅退院となった。

しかし退院後しばらくして、往診担当や訪問看護より「自宅で頻回に転倒しているが、本人は覚えていない」「お弁当は目の前にあっても、ふたをあけて声掛けをしないと食べられない」「失禁が続き、尿臭が強い」と報告があった。MSWも自宅を訪問してみると、古い木造の自宅で、床は古くぼこぼこで歩くと足元をとられ、隙間風も入ってくる家で一人、A氏は不安げな表情をしながらじっとベッドに座って過ごしておられた。訪問中だった看護師に声をかけられて、やっと食事を食べるという状況であった。往診の中でA氏より「一人はつらい」「早く死にたい」などの発言も聞かれるようになり、自宅での生活を見直す必要があるのでは?と往診担当やケアマネと話をしていたときに、再度上腹部痛あり、疼痛コントロール目的で同年11月に再度入院となった。

入院後は、食事や生活環境が整ったこともあり、麻薬等使用せずに痛みなく過ごされていた。娘とも相談の上で、ターミナル期の方の受け入れもしておられる介護施設へ入所することとなった。入所後、施設の相談員から落ち着いて過ごされていると伺ったが、 数ヵ月後痛みで苦しむことなく、施設で亡くなられたとのこと。

人口の高齢化に伴い、癌罹患率も増加し、主な死因別の死亡率をみても、癌は一貫して上昇を続け、昭和56年以降癌が死因の首位であり、日本人の3分の1が癌で亡くなっている状況である。加えて、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は推定15%、認知症になる可能性のある軽度認知症の人も合わせると、65歳以上の4人に1人が認知症または予備軍と言われており、今後A氏のように認知症のある終末期患者は増えると思われる。今回の事例を通しても、A氏にとって過ごす場所が本当にこれでよかったのだろうかと考えた。認知症もあり、なかなかA氏の「最期はこうありたい」という思いを聞きとることが出来なかったが、往診中に言った「一人はつらい」という一言はA氏の本音だったのだろうと思う。

「最期までその人らしく生きる」ことを支援するための様々な機関との連携、サービスの充実。またどのような場所で、どのような「緩和ケア」を行うか。自宅、病院、施設等さまざまな選択肢はあるが、それぞれに基準や制限があり、「最期までその人らしく生きる」支援をすることが難しい場合もある。A氏の事例はこの2つの大きな課題を感じたケースであった。

私も短期間でしたが往診担当としてかかわらせていただいた患者さんでした

MSWさんも書かれているように「最期までその人らしく生きる」ということをたくさん考えさせられました

緩和ケア病棟を開設する以前の出来事でしたが、私たちに何が求められているのか教えられた事例であったと思います

 

――2015/12/15緩和ケア病棟症例検討会「トータルペイン」に参加して――

私の働く内科病棟では急性期から慢性期、終末期の患者様がおられ、疾患も治療も様々です。1人の看護師が多くの患者様のケアを行っており、患者様1人1人にゆっくり関わることが時には難しい場合もあります。そのような状況下でも、チームナーシングで、患者様・ご家族様の思いに沿ったより良い看護を提供できるよう努力しています。

しかし、終末期の患者様・ご家族の方に対する自分自身の関わりを振り返った際、本当にこれで良かったのか、もっと良い方法があったのではないか、患者様は入院生活を穏やかに過ごせていたのだろうか、ご家族様は安心して患者様と最期を迎えることができたのだろうか・・・と毎回のように考え、自分自身の無力さを感じ、看護の基盤を問われているように思います。

今回、緩和病棟の症例検討会に参加させていただき、他職種と協力し、チームで担う患者様・ご家族様との関わりを通し、患者の立場で考え、医療者の立場で考え、双方の苦難や希望、願いなど様々な思いを感じることができました。

苦痛と向き合い立ち向かう希望を持った患者様の強さ・存在の大きさやその患者様の心を支える御家族の大切さ、関わる医療者の役割やあり方について学ぶ機会になりました。

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テーマは「トータルペイン」です。「苦痛」といっても患者様にとっては様々な苦痛があります。それぞれは引き離しては考えることは決してできません。でも、その患者様やご家族の方にとって、一番の苦痛は何か、どうすれば軽減するのか、そのためには何が必要なのか考えていきたいと思いました。その苦痛を取ることができれば、患者様はまた次の苦痛をとることを考えることができる、そのことが可能になることでQOLは向上し明日への希望を持つことができるのだなと思いました。すべての痛みは一度に取りきれないけれど、苦痛に対し患者様家族様と共に解決策を見いだそうとする過程、答えは見つからないとしても医療者の思いを行為で伝えることが信頼関係を構築し「寄り添う医療」ということにつながると思いました。緩和ケアは看護の原点だと思いました。

終末期を迎えられた患者様にとって残された時間は限られているかもしれないけれど、最期の時までその人らしく、患者様・ご家族様に希望を持って充実した日々をおくれるよう、またその希望を支えられるような看護師でありたいと思いました。

彼女はこれまで内科病棟で長く勤務されていました

ちょうど症例検討会を開催する直前に私たちの病棟の仲間となってくれました

これまでも終末期の患者さんへのケアに関してたくさんの問題意識を持ってこられており、私も注目していた看護師さんのひとりです

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症例検討会が終わったあとにお願いしたところ、率直な感想を寄せていただきました

思いはひしひしと伝わってきます

 

ありがとうございました

これから一緒にがんばりましょう!!