これまでも何度か緩和ケア病棟とリハビリテーションに関してブログで書いてきました
今回も最近の出来事を中心に感じたことを載せていきます
内容はいくらか脚色しています
< Aさん>
入院してから歩行がしんどくなりリハビリスタッフ(Xさんと記載します)の援助をお願いしていました
病状が進行し食べると嘔吐を繰り返すようになってきました
それでもAさん「このまま食べれなくなると栄養不良でだめになっちゃうんじゃないかと心配です」と吐いてもいいので食べたい飲みたい思いを口にされました
「吐くことはつらいけど吐いた後は楽になるから」と
ベッドで過ごすことが増えて、それまでの歩く練習は難しくなってきました
Xさんはベッドサイドを何度も訪れてAさんの哀しみや不安を粘り強く聴き、その内容を看護師さんに伝えてくれました
その話をカンファレンスで共有し、Aさんへの関わり方を統一していきました
Aさんは毎日何度も同じ不安を話されます
「わたしはこれからどうなるんでしょうか?」
「わたしはどうすればいいのでしょう?」

時には励ましたり、厳しいことを告げなければいけないことがあります
でもほとんどはAさんの気持ちに寄り添う姿勢でみんなは臨んできました
Xさんもその一人です
Aさんの言葉からはまだまだあきらめてはいないよというメッセージが読み取れるようです
リハビリテーションの役割のひとつには心理支持的な役割があると聞いています
Xさんの関りはまさにそのことの実践のように思いました
<Bさん>
まだ若いBさんはXさんの訪室を心待ちにしています
「Xさん今日は来ないの?」
片方の肺が多量の胸水で同じ方向を向いて休まざるを得ない状態です
痛みが少なく呼吸が楽になるような体の位置を整えることがBさんにとってはとても大切なケアになります
Bさんの大好きなテレビの話などをしながらマッサージやリラクゼーション、ポジショニングを行っていました
Bさんにとってはそのことがいちばん有難かったようです
ある日のことです
いちど車いすに乗ってみましょうとXさんから提案がありました
Bさんはその日を心待ちにしています
当日は病棟のスタッフも総出で(Bさんはむくみがつよく、また体を動かすと痛みを訴えられるため)リクライニングの車いすに移乗です
ベランダに出て初夏の風にあたりながら穏やかな表情をされていました

そのあとはかねてから望まれていた売店に買い物です
Xさんに車いすを押してもらいながら、ご自分の好きなお菓子を選んで袋に詰めてもらいました
ベッドサイドを訪れるとお菓子がいっぱい並んでいました
<Cさん>
動く意欲をなくしてきたCさん
最近は診察にうかがってもいつも同じ姿勢で休まれています
しかしお話は大好きでご自分の病状のことをCさんなりに解釈して話されます
病気のことだけでなく、政治をはじめ日常のいろんなことも
ついつい長居してしまいます
Xさんや看護師さんから外の空気を感じてみませんかと提案がありました
最初はあまり乗り気ではなかったようですが
みんなからのお勧めに根負けして天気のいい日に車いすでお散歩
はじめは不安でしたがいざ車いすに移ると乗り心地がいいよと笑顔
屋上に出てさらに笑顔
「気持ちいいなあ、ほんとに久しぶりです」

屋上からの景色を見ながら昔の出来事や、亡くされたパートナーさんのことを話されました
――涙ぐむ場面もあり、普段の病室とは異なり自然体で会話ができたようです
ご自分からの話がたくさんあり、話題の転換も多く、生き生きされたようすでしたーー
とXさんが記録しています
「次は少しでも自分で車いすに移ってまたここに来たいですね」「こんどはあちらからの景色も見たい」など意欲がでてきた様子でした
翌日も翌々日も看護師さんに「疲れもあったけど、とてもテンションがあがりました」と嬉しそうにそのときのことを話しておられたということです
緩和ケア病棟でも他の病棟と同じようにリハビリスタッフが関わってくれています
歩行の練習やトイレ動作の援助、楽な体位の工夫、嚥下の訓練や食形態の工夫などなど
緩和ケア病棟に入院中の患者さんたちの多くは痛みの緩和や浮腫による症状の緩和が求められており、さらには呼吸困難に対してのリラクゼーションもときには必要です
リハビリテーションにおいては長期的なゴール設定ではなく、短期のゴール設定を行いながら患者さんの状態に合わせてそのことを日々積み重ねていくことが求められています
そして変化が早い患者さんがいるなかではカンファレンスがさらに大切になります
私たちの病棟では、週1回のリハビリカンファレンスを行い、また毎日の昼のカンファレンス(それまでは医師、看護師が中心でした)にもリハビリスタッフができる限り参加してくれており意思統一を図っています
「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の…(中略)…患者と家族のQOLを改善する取り組みである」との有名なWHOの定義があり、また緩和ケアが主体となる時期のリハビリテーションの目的は「余命の長さにかかわらず、患者とその家族の希望・要望を把握したうえで、身体的にも精神的にも負担が少ないADLの習得とその時期におけるできる限り質の高い生活を実現すること」と言われています
この観点から考えたリハビリテーションは、患者さんの身体と心に直接働きかける役割を持っているのでしょう
そして「買い物に行きたい」「自分でほしいものを選びたい」「次はあちらの景色が見たい」という「自律」を支える役割とともに、いつも患者さんに寄り添い味方でありつづける役割もあるのではないでしょうか?
と、Xさんや看護師さんたちの関わり方を見て感じています
