Tさんが亡くなられてしばらくしてから、担当の看護師さんと奥様を訪ねました
病院から自転車ですぐのところにお住まいです
そこが下町のいいところです
まずお線香をあげさせていただきました
見上げるとりっぱな姿をされたTさんがほほ笑んでいました
「私の足が悪いので、息子たちがテーブルを運んでその上にきれいに飾ってくれたんですよ」
「とても凛々しいお姿ですね、でも優しそうな笑顔で」
入院中のこと、それまでのことなど、いくつかお話を聞かせていただきました
診察のためにお部屋を訪れると、いつもにこやかに笑ってくださったTさん
寝ているTさんに優しく頬ずりをされていた奥様をほほえましく見ていました
ご主人とふたりで仲良く暮らされていた奥様は、息子さんたちがそれぞれの日常に戻られたあと、急に一人になってしまいました
その日の夜、
いてもたってもいられなくなった奥様は病院のまわりを一人で歩きました、
とおっしゃっていました
――お父さんと出会えるんじゃないか、と
まだまだ受け入れるまでには時間がかかるかもしれません
でも少しずつ慣れていこうとされている姿をみて、思わず声をかけました
「さみしくなったり辛くなったりしたときには、いつでも病院に来てくださいね」
――私たちは大歓迎ですよ
ふと見ると、奥様はTさんお気に入りの椅子に腰かけていらしゃいました
私の目にはふたりで並んでいるように映っています
私たちみんなの胸に、Tさんの「ありがとう」の言葉と人懐っこい笑顔はいつまでも住みつづけることでしょう