ある本(コミック)に出会いました

緩和ケア病棟の看護師さんたちにも読んでいただきたくて

プレゼントしました

 

何人かの人に読んでいただいています

とてもよくわかりますという声が聞かれました

282-01

水谷緑さんの『大切な人が死ぬとき』

というコミックです

 

ご家族を亡くされ

「もっとできることがあったんじゃ…」

と後悔と罪悪感から

緩和ケアナースに相談をしてわかったことが描かれています

 

 

共感できる言葉が多く

紹介したいので抜き書きをさせてもらいました:青字のところです

(順不同です)

 

☆生きたい

 

死ぬ瞬間まで

生きたい

 

毎日家で

していたことをしたい

 

特別なことじゃない

 

父はただ

「日常生活」を

したかったのか

 

終末期と言われる状態になったお父さんが

主治医に対して突然望みを話されました

ご家族は戸惑われ

無理を言うお父さんを

恥ずかしく感じられました

 

患者さんが

今まで送ってこられた日常の生活を望まれる場面に

少なからず出会うことがあります

 

何かしたいことがありますか?

とたずねると

ちょっとでいいから家に帰ってみたい

と望まれます

 

中にはこのまま家で過ごしたい

とも…

 

ご家族の想いを聞きながら

条件がそろえば

その希望を支えるために

病棟のスタッフたちは努力をしています

 

可能なかぎり

私も往診を引き受けたい

でも遠くに帰られる人には

信頼できるお医者さんを紹介して

 

けれどその希望が叶えられないときも

たくさんあります

理由は様々です

 

そんなとき

私たちにできることは……?

 

 

☆「悲しみ」は波のよう

 

猛烈に押し寄せたと思っても引いていく

そのくりかえし

 

時間とともに

その間隔が開いていく

 

「死」は乗り越えるものでなく

慣れるもの

 

「死ぬ」ということは

ただ「絶対に会えない」

ということだった

 

――絶対に会えない

それはとても重い言葉です

 

しかし

私たちには

大切な人の

記憶があります

 

時間とともに慣れていくことはありますが

記憶も少しずつ薄れていくことがありますが

 

大事なことは

けっして忘れることはないと

私じしんの経験から

言うことができます

そのとき

多少の美化は許されるのではないでしょうか

 

 

☆そうだ…

「残したもの」が

「続き」をやるんだ

 

この先どう考えればいいのか

道筋が見えたような気もした

 

亡くなった人がやり残したこと

それを引き継いでいく

 

大好きな奥様を亡くされたご主人

家の掃除や洗濯

その他たくさんのことを

知人に教えてもらいながら

がんばっています

 

これも日常を引き継ぐということなのでしょう

 

ある人は

ご主人の叶えたかった仕事

後輩を育て上げることを

引き継がれたと

お聞きしました

 

色んなかたちがあっていいのです

 

 

以下は医療者 とくに看護師さんに向けた言葉です

あらためてコメントは不要と思います

 

 

☆自分の悲しみと

 

患者さんや

家族の悲しみは

別のもの

 

同じように

わかるわけがない

 

悲しみを

代わってあげることは

できない

 

悲しみは

患者さんと家族が

引き受けなければ

いけない

 

☆「他人の悲しみは

わからない」ことを

前提にするのは

誠実だと思う

 

「他人事でいい」

と考えるように

なってから

らくになったの

 

私がやることは

 

安心して

悲しめる場を

つくることだと

思ってる

 

 

☆「どう生きたいか」

患者さん自身も

気づいてないことが

多いから

 

時間をかけて

すくっていくしか

ないんだ

 

対話の中にしか

答えはないから

 

 

☆そこに

「いて」

 

「触れる」ことは

 

言葉より

ダイレクトに

伝わるものがある

 

☆本人が

(病気にむかって)抵抗しようと

することを

 

一緒にやるのも

看護だ

 

 

さいごに作者はこのように結んでいます

 

緩和ケアナースに話を聞いてわかったこと

 

それは

“大切な人が 残された時間を『どう生きたいか』を知ること”

282-02

一気に読み終えました

緩和ケア病棟で仕事をしてきて

共感することがたくさんありました

 

一方で

かってに引用して

私のかってな解釈を加えたこと

お許しください

 

 

 

ふたつめのお手紙を掲載します

 

 

B様のご家族の皆様へ

 

拝啓

花曇りの候 皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

 

私達は今もB様が入院されていた時の事を思い出します。

 

苺が大好きで

娘様や妹様が持参された宝石のような苺を

一粒一粒大切そうに味わっていらっしゃいました。

 

「今度娘に会ったら 苺が美味しかったと伝えて下さい。急がなくてもええよ」

 

最初に苺を持参された際は

娘様にて

むせないように潰してお口に運ばれた苺を味わって居られ

娘様が帰られた後でそのように言われました。

 

○月後半では

娘様ご持参の苺を

フォークでカットして一口ずつ介助すると

ゆっくり噛んで味わっていらっしゃいました。

一パック召し上がられた時のB様の満足された表情が忘れられません。

 

お誕生日にはりんごが食べたいと言われ

娘様にてすりおろされたりんごを

美味しそうに召し上がっていらっしゃったのですね。

 

お二人の娘様ご一家が集われ

素敵な笑顔を見せて下さいました。

 

撮影させていただいた写真の皆様の笑顔に

スタッフ一同癒されました。

 

「声が出るようになって嬉しいです。ありがとう」

「お風呂がとても気持ち良かった」

「看護師さん昨日はゆっくり休めましたか」

「ハンドクリームと指輪を持ってきてもらえるよう娘に伝えてもらえませんか」

 

発声できるようになり

B様は沢山お喋りをして下さいました。

 

一言一言ゆっくりお伝えされました。

 

私達にとって

B様との触れ合いのひと時は

とても楽しく 幸せな

そして大切な時間でした。

 

B様からはいつも何か温かいものが

言葉なくても伝わってくるように感じ

B様にお会い出来る事を私達は毎日

とても楽しみにしていました。

 

ご家族の皆様の献身的な愛情に支えられたからこそ

B様は旅立ちの時が訪れても

穏やかに 優しく 

B様らしく過ごされていらっしゃったのだと思います。

 

B様の人生の旅立ちという時間を共に過ごさせていただいた事は

私達にとって

とても大切な思い出となっております。

 

ご家族の皆様にとりましても

B様の思い出がこれからも大きな支えとなりますよう

お祈りしています。

 

季節の変わり目 体調を崩しやすい時候です。

皆様どうぞお身体ご自愛下さい。

敬具

 

 

                       緩和ケア病棟スタッフ一同

看護師○○

280-02

それぞれのレターに対して

たくさんのご家族からお返事をいただきました

様々な心の変化や生活の様子など

書かれています

 

 

いただいたお返事にはいつも

感謝しています

 

この病棟にかかわることができて

幸せを感じるひと時です

 

 

 

私たちの病棟では開設時からプライマリーナーシングの看護方式をとっています

患者さんやご家族との信頼関係を深め、きめ細やかな看護が行なえることを目指しています

 

私たち医師にとっても相談相手がはっきりとしており、助かっています

 

 

プライマリーナースの役割はたくさんありますが、患者さんがお亡くなりになったあと、四十九日にご家族にむけてお手紙を送らせていただいていることもそのひとつです

どの看護師さんの手紙も心のこもった内容で感銘を受けています

 

このたびひとりの看護師さんからのお手紙を拝見することがあり、その内容をぜひブログに載せたいとお願いをしたところ、こころよく受けていただきました

 

 

今回と次回の2回にわけて掲載いたします

なお個人が特定されないように気を配っております

文責はすべて私にありますのでご了承ください

280-01

A様のご家族の皆様へ

 

拝啓 早春の候

皆様いかがお過ごしでいらっしゃいますか。

 

私達は今もA様が入院されていた時の事を思い出します。

 

入院された日 大切にされている事について伺うと

「そうやな 家族が大切やな」

と仰られた事。

 

「家では銭湯に通ってたんよ。つい最近まで…」

娘様の介助で銭湯にて入浴されていた事を話して下さいました。

 

「看護師さん達の仕事は本当に大変やな」

と労って下さった優しい表情が忘れられません。

 

「○月まで生きたい」と言われるA様は

お誕生日まで生きたいというお気持ちだったのだろうと思われました。

 

お孫様と時折携帯電話にてお話をされていらっしゃるA様は

とても楽しいひと時を過ごされているご様子でした。

 

皆様が交替で付き添われ

口腔ケアをされていらっしゃる際

A様が「ありがとう」と言われ

娘様も「お母さんありがとう」と

言葉を交わされて居られるお姿に

母娘の温かい絆を感じました。

 

A様はいつも皆様が傍に居られる事で心強かったと同時に

ご自宅で皆様との団らんのひと時を過ごされているような

安堵感があったと思います。

 

息子様のお嫁様からのご助言 ご指摘に

改めて看護のあり方を振り返り

今後に生かしたいとスタッフにて話し合いました。

 

ご家族の皆様の献身的な愛情に支えられたからこそ

A様は旅立ちの時が訪れても

穏やかに 安らかに

過ごされていらっしゃったのだと思います。

 

A様の人生の旅立ちという時間を

共に過ごさせていただいた事は

私達スタッフにとって

とても大切な思い出となっております。

 

ご家族の皆様にとりましても

A様の思い出が

これからの大きな支えとなりますよう

心からお祈りしています。

 

季節の変わり目

皆様どうぞご自愛下さい。

                                敬具

 

緩和ケア病棟スタッフ一同

看護師○○

 

前回のブログで「私らしく」ということを書きました

今回も同じテーマです

 

 

Bさんは病状が悪化し入院されました

治療の継続が必要な状態でしたが

「どうしても家に帰りたい」という希望がつよく

再入院される可能性がかなり高いことを覚悟で

退院となりました

 

関係するスタッフはみんな

「きっと1週間ほどで病院にもどってこられるのだろう」と

思っていました

 

数日後に体調が悪化

訪問看護師が臨時で訪問

奥様は病院にもどることを望まれました

Bさんはしかし

入院の話をすると険しい表情となり

返事をしてくれなくなりました

 

Bさんには何かつよい思いがあるように感じた看護師は

奥様とよく話し合われることを提案しました

 

 

その結果

「病院にはもどらない」「ここ(自宅)で最期を迎えたい」

とのつよい意思表明があり

奥様は最初のような動揺はなく

「命が長くないのなら、住み慣れた我が家で静かに過ごさせてあげたい」

と落ち着いた様子がみられました

 

 

それからの1年あまり

幸いにも比較的安定した生活を送られました

私も訪問診療担当医として

微力ながら関わらせていただきました

 

 

退院後2度目の冬がきました

Bさんはゆっくりと衰弱してきました

 

もういちど思いを訊ねます

――やっぱり自宅がいいです

 

奥様には

これからたくさんのことが起こってくるかもしれないけれど

気持ちを確かめさせていただくと

――だいじょうぶです

としっかりとした返事

 

Bさんはさいごまで意識がありました

呼吸困難もなかったと聞きました

奥様がそばでずっと付き添われ

しずかに

旅立たれました

279-01

 

経過は以上です

 

この間の1年以上にわたる奥様をはじめみんなのことを

記しておきたいと考え

 

Bさんがいなくなってからすいぶんと経過してしまったのですが

次に残しておきます

 

 

3つの観点から考えてみます

ひとつは患者さんの願い、夫婦の話し合いを経て出した結論

ふたつめに患者さん・ご家族の意思を支える支援の輪

みっつめにはお二人の生活

 

 

Ⅰ.Bさんの願いに沿って

 

病状がよくないことはBさんも奥様もよく理解をされていました

入院中も在宅での闘病中の悪化時にも

「住み慣れた家で静かに過ごしたい

「思い出のたくさんつまった我が家がいちばん」

「病院には戻りたくない」

と気持ちは明確でした

 

看護師の訪問時には

いっしょに写真を見たり

生い立ちやこれまでしてこられたことを聞かせてもらったり

とても生き生きとした印象を看護師は受けたそうです

279-02

 

再入院が必要かと思われたとき

奥様は動揺されましたが

Bさんの胸に秘めた思いを感じた看護師は

すぐに入院へとつなぐことをせず

お二人の会話の時間をとりましょうと

提案しました

私はこの判断をした看護師さんに

エールを送ります

 

一方で

訪問看護師は病院と連絡をとり、緊急入院ベッドの確認を行い

病棟看護師からは受け入れ準備が可能との返事をもらいました

急変時には入院中の主治医であった医師から対応ができますとありがたい返事もいただきました

 

 

再度の訪問のとき

Bさんの意思はかわりません

奥様はしっかりとした面持ちとなられ

夫の気持ちを尊重したい、だいじょうぶです

と心を決められた様子

 

 

看護師は

『自分たちで出した答え』なので

みんなで支えていこうと

決意しました

その思いは在宅医療・ケアにかかわるみんなにも

伝わりました

 

 

Ⅱ.支援の体制づくり

 

介護者が奥様ひとりではとても長続きしません

在宅での療養がどれくらいになるのかは

だれにもわかりませんでしたが

様々な支援の体制ができました

 

 

その前に大切なことがあります

 

「家に帰りたい」

とのBさんの思いを受けとめた病棟の看護師さんがいます

退院に向けてたくさんの準備が必要でした

奥様にケアの方法をアドバイス

在宅酸素の手配

 

退院支援看護師と医療ソーシャルワーカーも力を発揮しました

退院前カンファレンスの段取り

在宅に関わるすべての職種への連絡

ケアプランの作成

などなど

279-03

その上での退院です

 

 

訪問看護

訪問診療

急な入院となったときの受け入れ態勢(病棟や外来)

ケアマネジャー

ヘルパー

のみんながそれぞれの役割を果たしました

 

過去長年にわたる私たちの在宅ケアの基盤があって

可能となったものでしょう

 

 

 

Ⅲ.奥様とともに

 

奥様はBさんの思いを受けとめて

自宅でいっしょに頑張ろうと

決意されました

 

 

Bさん「次の世でもいっしょになりたいな」

奥様 「あなたといっしょになれてよかった。あなたと添い遂げたいです」

 

「添い遂げる」という言葉は、ただ一緒にいるだけではなく、覚悟を持って何があっても側にいるという場合に使うそうです

強い覚悟がないと言えない言葉です

 

 

在宅療養を支える準備が整ったことを話すと、ともにほっとされたことが印象的でした

とのちに看護師さんは話していました

 

 

Bさんは大好きな読書をされ

――書棚にはたくさんの書物があふれていました

ときには奥様と声を合わせて歌われ

親しい人たちとも会うことができ

 

……多くの時間をふたりで穏やかに過ごされました

 

奥様はBさんの好みの食事を用意され

奥様の介護不安には看護師が適切なアドバイスをして

 

 

静かな、自分らしい生活を

きっと送られたことでしょう

279-04

初冬の季節に自宅に帰り

春の桜を愛で

暑い夏も熱中症にならずに乗り切り

台風で不安な夜をふたりですごし

2回目の冬を迎え

次の桜の季節を待たずに

 

天に召されました

 

ご冥福をお祈りいたします