Dさんは超高齢の患者さんです
癌はだんだんと進行していますが目立った症状は現れていません
ある日のこと
それまではご自分の脚でしっかりと歩いていましたが
急に一人で起き上がることがむずかしくなりました
やっとのことでデイサービスには参加
食事は摂れましたが以前と比べると減っています
数日後には寝たきりとなってしまいました
心配したご家族が外来に連れてこられました
意識ははっきりとしています
手足に麻痺は見られません
笑顔で受け答えもできています
微熱があったのでコロナの検査を至急行いましたが陰性
肺炎もなし
尿検査と血液検査の結果尿路感染+脱水と診断され入院となりました
入院後はベッドの上で食事を全部食べました
けれどもリハビリは拒否されます
ご自分でできると思われたのでしょうか?
高齢であるしじっくりと構えていこうと考えました
ところが数日後の夜間不穏が出現
突然の発症であり
リハビリなど意に沿わないことを急かされ
急な環境の変化に戸惑われ
私は一時的なせん妄状態と考えました
翌日にうかがうといつものように笑顔で迎えてくれます
当面の夜間の対応の指示を出しました
それから数日が経過
ADLはなかなか改善しません
食事は全介助となりました
次の見通しが十分に立たない状況で頭を悩ましていたところ
看護師さんから声がかかりました
「Dさんの左手がなんとなくおかしいように見えます」
急いでベッドサイドへ
たしかにわずかですが右と比べて左上肢に力が入りにくくなっているようです
左手がおかしいという意識でみないとわかりにくい程度のわずかな変化でした
麻痺があるというわけでもなさそうでしっかりと左手で握り返してくれます
下肢は左右差もなく動いています
毎日患者さんの元を訪れていたのですが看護師さんたちの観察力にはかないません
最初は経過観察という言葉が浮かびましたが
患者さんや看護師さんの顔を見て
脳梗塞や脳転移という最悪の状況が頭をかすめ
急いで頭部CTをお願いしました
看護師さんから電話です
「CT室から出血があると連絡がきました」
硬膜下血種でした
そこからはご家族と話し合い
救急で脳神経外科の病院に搬送し対応していただくことができました
すべての対応を終えてから反省しきりです
看護師さんたちには「皆さん方のおかげです」とお礼を述べさせてもらいました
毎日の患者さんの変化を見ていないと気づけないことでした
ちょうどその前後のことです
ある看護師さんの書かれた本を読んでいました
――最も大切なのは「気づく力」です
患者さんの気持ちに気づき、体調の変化に気づき、本人も気づいていないちょっとした異常に気づく
そのことが早期の発見につながる
何かいつもと違うなと気づき、情報を共有することが大切
という趣旨のことが書かれていました
ほんとにその通りです
一人の気づきが
チームに共有され
主治医にもすぐに伝わる
この連携がとても大事だと改めて確信しています
そのためには医師も素直な心で報告を受け止めることが前提ですが…
最近大切なことに気づかされることが増えています
これからも多職種のチームを大切にしていきたいと思います