少しずつ涼しくなってきた日曜日
毎年恒例の「生協強化月間」のスタートを飾る集会が開かれました
今年は、神戸医療生活協同組合創立55年、私たちの理念である「三つの輪(健康の輪、助け合いの輪、世直しの輪)」提唱30年の記念の年であり、500名近くの参加でおおいに盛り上がりました
午前中は「ジャーナリストから見た三つの輪」と題して、鳥越俊太郎さんの講演がありました
鳥越さんには東京都知事選挙の裏話から始まり、日本の政治の矛盾、健康づくりなど広くお話をしていただきました
そのあと強化月間の方針提起と組合員が取り組んでいる「つながりマップ」――これは私たちのめざす地域包括ケアへの足掛かりともなります――のモデル報告がありました
午後は4つの分散会に分かれて私たちの実践交流会です
組合員も職員もいっしょになって発表しました
ぜんぶで約50演題ほどが披露されました
組合員さんからの発表
歯科の職員によるリコーダーとギターの演奏
それぞれが工夫をこらしています
さいごに座長賞として8演題が発表され、鳥越俊太郎さんのサイン入り色紙がプレゼントされました
さっそく医療生協組合員への加入や出資金の申込みがありました!
さあ、スタートです!
私も開催のあいさつをさせていただきました
ここに全文を掲載します
今日の集会のキーワードはふたつだと思っております。
ひとつは「三つの輪」です。そしてもう一つは「地域包括ケア」です。
まず私と「三つの輪」とのお付き合いから話しましょう。
(1)1978年神戸医療生協で働き始めて驚いたことがあります。
組合員さんたちが自分たちで「おしっこの検査」をしたり「血圧測定、それも聴診器を使って」していることです。また自主的な健康診断として院所を利用されていました。
こんなことは大学の授業ではまったく教わらなかったことです。
そして医師としては「患者の権利章典」、現在は「いのちの章典」とかわりましたが、その内容に感銘を受けました。「昨日よりも今日が、さらに明日がより一層意欲的に生きられる。そうしたことを可能にするため、自分を変え、社会に働きかける。みんなが協力しあって楽しく明るく積極的に生きる」という健康観は私の仕事の指針となりました。その実践としてのカルテ開示などにみんなで取り組みました。
これが「健康の輪」です。
(2)介護保険がまだ始まる前の出来事です。
認知症の一人暮らしのお年寄り、病気が悪化して入院されますがすぐに家に帰りたいとそわそわ。
帰ってもすぐに悪くなります。
ご家族も遠くにいてすぐの対応ができません。
こんなときどうするでしょうか?
お手上げでしょうか? みなさん方ならどうでしょう?
思い切って地域の組合員さんに話を持ちかけました。
「私たちが交代で家を訪問しましょう」
その言葉にほんとに勇気づけられました。
医学の教科書にはこんな治療法は載っていません。
阪神淡路大震災の直後でした。
患者さん、組合員さんたちの安否が気になってみんなで地域に出かけました。
私は自分の受け持ちの患者さんでもあった高齢の組合員さんについてまわりました。
あるおうちを訪ねました。部屋に入れていただいて顔を上げると青空が見えます。屋根がこわれているのです。
地域に暮らす顔見知りの組合員さんと一緒だからこそそこまで見せていただいたのだと思っています。
この組合員さんが今度は重い病気になりました。身寄りのない方です。
さっそく担当の理事さんが入院の準備から付添いまでどんどんとやってくれました。ありがたくて胸が熱くなりました。
助け合いの輪はしっかりと引き継がれ、発展しています。
組合員の力に確信をもちました。
(3)神戸医療生協が生まれるきっかけともなった小児麻痺のワクチン獲得運動
は当時頑張られた組合員さん、職員にインタビューをしてパンフレットにまとめています。なかなか手に入らないかもしれませんが、その作業を通して先輩方の熱い活動をじかに感じました。
震災後の神戸市政にたいする不満の高まりから私の同級生である医師が市長選に立候補、仕事を忘れて応援しました。結果はあと一歩、残念でした。
その翌年の医療保険改悪阻止の取り組み、みんな燃えました。
わたしもたぶん外来患者さんのほとんどに署名の訴えをしたと思います。院所間での競争もありました。
結果は2か月間で121,915筆とかつて経験のなかった到達、カンパも182万円が寄せられました。
世直しの輪の大きさを実感したときです。
もうひとつのキーワードは私たちのめざす「地域包括ケア」です。
神戸医療生協では専門的に担う部門をつくり新たな課題としてスタートします。
みなさん方が取り組まれている「つながりマップ」との連携が大事です。
憲法25条にもとづき、だれもが安心して暮らし続けることのできるまち。
それをめざします。
90歳を過ぎたお年寄りがいました。
末期の癌の患者さんでした。
入院するよりも家での生活を望まれました。
一人暮らし、身寄りはまったくありません。
介護保険制度の活用だけではまかないきれないことは明らかです。
しかし患者さんをとりまく地域の人たちはすごい力を発揮しました。
「自分たちで見守っていこう!」
ヘルパーさん、訪問看護師さんの合間には地域の人たちが訪れます。
わたしは往診の担当を依頼されましたが、医者の出番はほとんどありませんでした。
比較的穏やかな日々を過ごされた患者さんは、ある朝静かに最後を迎えられました。
自分の望む場所で安心して暮らせる、療養できる、最期が迎えられる
このようなことが地域のいたるところで可能なまちづくりができればいいなあと思いました。
医療生協の事業所も地域の一部です。
そして地域包括ケアの根元に「三つの輪」をしっかりとすえていくことができればそれがわたしたちの目指す地域包括ケアシステムになるのではないでしょうか。
地域包括ケアシステムの構成要素は「住まい」「医療」「介護」「予防」「生活支援」に分類され、基盤は「住まい」と言われています。
しかしわたしはもっと重要なことはそれを担う「人」だと思います。
ケアを担う人づくりをないがしろにしたままのシステムはいずれ破たんします。国の責任が大きいと思います。
もういちど言います。
38年間、ほかの病院にいたとすれば決して経験できないことがいっぱいありました。
前理事長が提唱された「三つの輪」、これはわたしたちのオリジナルです。全国に自慢できるものです。
この理念を真ん中に据えて、これからも事業と運動を誇りと自信をもって進めていきましょう。
そして記念すべき年の生協強化月間を成功させましょう。