梅雨が明けたはずなのに

湿気が多く寝苦しい夜のこと

 

病棟からの電話で気持ちが引き締まりました

 

――患者さんが急変されました

 

すぐに駆け付けたところ…

 

――ごきょうだいは来られました

でも奥様に何度も電話をしているのですが応答がありません

 

と、看護師さんもごきょうだいも戸惑い気味です

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ひとりで自宅で倒れているようならどうしよう?

耳が遠いとうかがっていたのできっと電話の音が聞こえないのでは?

夜が明けるまで待ちましょうか?

やっぱりなんとか連絡がとれないものでしょうか?

 

 

住所を調べました

患者さんと奥様が暮らしている住宅は

同じ建物に入っている老人ホームが見守りを引き受けてくれていることがわかりました

 

さっそく連絡です

深夜にもかかわらずご自宅を訪ねてくれました

 

――チャイムを押しても返事がありません

 

もういちどみんなで相談

「たしか玄関のあそこにカギを置いていると聞いたことがあります」

とごきょうだい

ホームの方にも伝えました

 

奥様は超高齢でした

患者さんの状態を伝えると動揺することが予測されます

お一人で病院まで無事に来てもらえるか心配です

 

 

――私が運転します

いっしょに迎えにいきましょう

 

とごきょうだいに提案しました

幸いにご自宅は普段から往診に行っている地域にあります

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だいじょうぶ

奥様は熟睡中でした

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やっとのことで起きていただき

焦らせずに準備を整え

ともに病院へ

 

最期のときを見守っていただくことができました

 

よくない状態であるとお話はしていましたが

急に変化があるとは予測していませんでした

 

奥様の驚きと悲しみはどれほどだったでしょう

 

お一人になられ

これからの生活が気がかりです

 

老人ホームの見守りにお願いせざるをえませんが

そのような環境にあることが唯一の救いになります

 

同じような高齢のご夫婦に出会うことが何度かあります

そのたびにおひとりになられるご主人あるいは奥様

これからの人生をどのように過ごされるのか

支える人はいるのだろうか

いつも気になっています

 

 

できるなら

私たちの病院が

少しでもお役にたつことができればなあ

と思っています

 

残されたご家族が通院されたり

往診をさせていただいたり

と、なんらかの関わりを継続していることがありますが

そうでなければ

今どうされているんだろうと気にかかる方々が少なくありません

 

残された人たちが

安心して生活できるような環境が

しっかりと整えられること

 

これも「地域包括ケア」の役割りだと強調したいと思います

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緩和ケアプログラム『家族会』の取り組みから見えてきたもの

緩和ケア病棟 T師長

 

緩和ケア病棟開設から4年を迎え、この間に開催してきた当科の『家族会』の取り組みは、先日の7/13に6回目を迎え無事開催できました。

 

緩和ケアプログラムは、世界的に、患者様とあわせてご家族のケアを行うことが基本となっています。家族ケアは、患者様の生前はもちろん、死別後に遺族となった家族に対して、遺族ケア・死別ケアとしても行うことになっています。 大切な人を亡くしたとき、残された家族は、生きる意味を失い、強い悲しみを感じ、新しい人生を歩み始めることが困難な状態に陥ることがあります。このような強い悲嘆(グリーフ)を抱えることは正常であると言えますが、遺族がその苦しみを乗り越えるためには、周りの人々の適切な援助が必要であると考えられています。

当科では、入院から死別後約1年を迎えられるご家族を対象に、『家族会』の案内~開催を遺族グループ中心に取り組んできました。会の目的は、ご家族とスタッフ、ボランティアさんたちと、故人をしのび思い出を語り合い、この間のご家族の様子をきかせていただくなかで、ご家族のそれぞれの悲嘆の程度がどのような状況にあるのか、また、この会を通して協同病院とのつながりを意識してもらい、ご家族があらたな一歩を踏み出せるような機会にしてもらいたいとの強い思いと同時に、参加によって私たちスタッフの思いも救われており、故人とご家族との出会いからつながりに感謝の思いも込めて取り組んでいます。

会の案内は、毎回50~60家族の方を対象に案内はがきを送り、参加されるのは10~15家族前後です。プログラムは、土曜の午後2時から4時まで、「開催挨拶」から「スタッフ紹介」、「ご家族お一人ずつに思いのたけを語ってもらい」、「スライドショー」のあとは「茶話会」、「スタッフによるピアノやフルートの生演奏やボランティアさんによる朗読」など、毎回、開催プログラムを試行錯誤し工夫を凝らしています。

 

実際に参加いただいたご家族からのアンケートより、『同じ悲しみやさみしさを持っているご家族の話を聞いて、自分も前向きに頑張っていこうと思いました』『思い出話をする中でほんとにいろいろなことを覚えてくださっていて、うれしさでいっぱいでした』『改めて先生はじめ素晴らしいスタッフに恵まれていたと再認識いたしました。有意義な時間を過ごせたかと感謝しています。次回の開催を楽しみにしています』『みなさんにお会いしてお礼を申し上げたいとずっと思っておりました。その機会を与えてくださり感謝しております。またひとつ、心の区切りがつきました』『緩和ケア病棟のスタッフ皆様の温かい思いのこもった家族会、参加できたこと良かったです。次回もぜひ参加したいです。私も頑張って元気に毎日過ごしていきたいと思います』『遺族の皆様の気持ちや、われわれ家族を知ってくださってる先生、看護師さんの助言を大切に残りの人生を生きていこうと思っています。写真は人生の1ページになりました』『一年だけでなく、子供たちもつれてまたお会いしに行ってもよいでしょうか?またこのような機会があれば是非参加したいです。感謝の気持ちでいっぱいです』と、このような私たちのケアも肯定してくださり、元気にさせてくださる、もったいないくらいの大切にしたいお言葉をいくつも頂いています。ご家族が悲しみの中でも、後退や前進を繰り返し、少しずつ前に向かわれている様子を知ることができる機会は、私たちスタッフのグリーフケアにもなっています。そして、故人が伝えきれなかった、ご家族への思いをお伝えすることができたり、ご家族もご本人と一緒に病気と闘い、ご家族が確かに支えてこられたことを私たちスタッフが認め、ねぎらうことで、ご家族が自分たちの存在意義を肯定でき、ご家族自身が一つの思いに踏ん切りをつける作業(グリーワーク)を行っていくことの支えになっているのだと、確信が持てます。

家族会の開催は、大変な作業でありますが、このように大切な取り組みを、私たちはほこりをもって今後も継続していきたいと思っています。

 

しかし、開催当初より、家族会に参加されなかったご家族の中には、正常ではない複雑性の悲嘆にさいなまれていないかがスタッフの気がかりであり、どうケアをしていくべきか、答えが出せずにいましたが、4年目を迎え、ある一つの答えを導き出しました。それは今年度の遺族ケアグループで、あらたにこれまでの全ご家族に家族会の案内を行い、近い将来、「遺族主体の家族会の開催」をしていくことが必要ではないかと考え、現在取り組みの真っ最中です。前回の案内には参加できなかったご家族も、日が過ぎれば参加ができる方がおられるかもしれないと考えると、不安もありますが、初回(来春)を是非形にしていきたいと思いますので、その際には皆様のご理解とご協力をお願い致します。5年目へ向け、まだまだ当緩和ケア病棟はみんなで力を合わせて、精進していく所存です。

病床数の増加もあり今年度は年に3回に分けての家族会開催となり、次回は11月を予定にしています。

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今年も病棟にセラピー犬がやってきました

患者さんたちは心待ちにされています

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今回はふたり(?)です

 

各お部屋を訪問されます

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患者さん、ご家族は「かわいいね」「おとなしいな」

と笑顔がはじけています

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中には

顔をいっぱい舐められて

うれしそうにされた患者さんも

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「日本アニマルセラピー協会」のホームページにはつぎのように書かれています

 

セラピー犬になるためには認定試験に合格しなければなりません

「合格の目安」という項目がありました

 

・誰にでもなつくこと

・他の犬と仲良くできること

・座れ・待てが出来ること(出来れば伏せも)

・無駄吠えが無いこと

・飛びつかないこと

 

とあります

 

人間にとっても難しいことを

要求されるんだなあと思いました

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またこのような記載もあります

 

「心臓疾患の患者さんに対する調査では、ペットを飼っている人は1年後に53人中3人死亡、飼っていない人は1年後に39人中11人死亡という、死亡率に大きな差が生じています」

 

 

患者さんたちの笑顔をみたり

感想を聞いたりすると

間違いなく心が癒され

体調も良くなる

という効果があるようです

 

これからも

時間が許せば

何度でも訪問してもらえることを

期待します

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元気でいてくださいね!

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Aさんは長くひとりぐらしをされていました

Aさんにとっては地域に暮らす友人や仲間とのつながりが生きていく上での元気の源であったようです

 

ある日のことです

みんなで約束をしていた行事がありました

 

「Aさんはどうしたんだろう」

「いつもまっさきにやってくる人なのにね」

 

みんなは口々におかしいなと言い合っています

 

電話にも出てくれません

親しい人たちでAさんのご自宅を訪ねました

 

玄関で呼びかけても返事がありません

その日の朝刊が差し込まれたままです

早起きのAさんにしてはおかしいことでした

 

 

「あんしんすこやかセンター(神戸市の高齢者の介護相談窓口)」に連絡しました

 

センターの職員は連絡を受け

すぐに警察に届けました

 

 

……Aさんは、ご自宅で倒れていました

 

すぐに救急車を呼び

病院に運ばれ

一命を取り留めたと

 

あとになって仲間たちは報告を受けました

 

1日遅ければ

間に合わなかったそうです・・・

 

 

……Aさんは今

病院でリハビリを頑張っておられます

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このお話

私は先日の医療生協の総代会のとき

組合員さんの報告の中で知りました

 

 

とても感銘をうけたので

後日当事者の組合員さんたちから

詳しいお話をお聞きしたのです

 

 

組合員さんは次のように報告を結ばれています

(そのまま掲載させていただきます)

 

 

『日頃から(医療生協の)班活動など地域の主体的なイベントにお誘いの声をかけ、ともに過ごす時間をつくることが安否確認にも関わる大切なことなのだということを実感をもって体験し、今年の組合員集会ではあんしんすこやかセンターのスタッフを迎え、話してもらったところ質問もかなり出ました。高齢者の地域見守り活動に高齢者が増える中、互いの見守り合いが大事だと思いました』

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私たち神戸医療生協は

理念として「三つの輪」をかかげています

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「助け合いの輪」がいま地域で広がりを見せています

 

 

このお話も「助け合いの輪」のひとつですが

私は組合員さんからお聞きして

つぎのようなことを思いました

 

 

☆このなかには“だれかのために”という熱意がある

☆一方的な見守りではなく、“見守り合う”という考えが斬新だ

 

と感じた次第です

 

 

私たちの住む地域には

このような取り組みがたくさん行われています

 

 

それが

私たちにとって

たとえ一人暮らしとなっても

年をとっても

「安心な暮らしの保障」

となっているのでしょう

 

けっして上から押し付けられたものではありません

(以下の話は脚色しています)

Aさん

肺癌がかなり進行した状態で入院されました

全身への転移や誤嚥による肺炎を繰り返されていたようです

 

Aさんはそれでも口から食べたいと強い望みをもっていました

ご家族とは少しでも食べることができればいいですね

そのためにはきちんと嚥下機能の評価もしましょう

と話し合いました

 

1回目の評価では「とても経口での食事摂取は無理」との結論

そこから口腔ケアを看護師さんたちが奮闘しました

 

2回目の評価

「少し可能性がでてきました」とのこと

 

 

一方ではさらなる病状の悪化が予想されていました

 

数日後の夜間

突然の容態悪化

呼吸状態が一気に悪くなり

その後間もなくして旅立たれました

 

 

 

まれにこのような出来事を緩和ケア病棟で経験します

開設時からずっと気になっていました

 

4年が経過してまとめをしなければとの問題意識から

診療情報部の協力を得て

病歴からまとめを行ないました

 

以下にご紹介します

 

 

○4年間の緩和ケア病棟を退院された患者さんは474人です

その中で「入院3日以内の死亡退院」は18名(3.8%)でした

この数字が多いのか少ないのか私の調べた範囲ではデータがなかったので判断ができません

「3日以内」ということにした根拠は、当病棟では土・日・休日の入院は原則ありませんので、もし金曜日に入院されると土・日の急変があった場合には体制上厳しい状況であることを考慮したからです

 

○絶対数が少ないので統計的には正しいものではないのですが、一定の傾向を述べます

・男女比では男性に多い傾向がある

・年齢には特徴はない

・主病名にも特徴はみられない

ということでした

 

○しかし18名のなかで「入院時、あるいは入院後に急変の予測が可能であった事例」は9名、「まったくの予測外の急変例」が9名でした

以下「予測外の9名」に関して述べてみます

・肺癌が4名/9名と44%を占めていました

474名中肺癌は125名(26%)であることから、急変例は肺癌が多くみられます

・その原因は窒息や突然の呼吸停止などでした

・入院期間が1日、2日、3日となるほど予測外の急変が多い傾向にありまし

それはおそらく入院当初の意識レベル、バイタルサイン、緊急検査での異常値(高カリウムなど)などから予後がきわめて厳しいという判断ができていたためと思われます

 

○繰り返しになりますが、件数が多くないので印象であるとしか言えませんが、これらの結果から感じたことは

①3日間でみると「予測外の急変」は「予測可能な事例」と同数

②肺癌に予測外の急変が多かった

そのため入院時に窒息や突然の呼吸停止の可能性を私たちが意識すること

が必要と思われます

ご家族との面談時にも考慮すべきでしょう

③「重症」患者さんの急変は2日目、3日目と多くなる傾向にあり、注意が

求められます

です

 

○次にもう少し深めてみたいと思います

 

まずつぎの図を取り上げます

出典はhttps://nursepress.jp/226825です

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上記に示されるように、癌患者さんは死亡の1~2か月まえから急速な悪化を示すことが多いと言われています

緩和ケア病棟に入院してこられる方の多くはこの時期にさしかかった患者さんあるいは状態が悪化している患者さんでしょう

 

この時期を過ごされるための支援を行うことが緩和ケア病棟の大きな役割のひとつと位置付けています

その中で、「予測外の急変」が起こった場合には患者さんはもちろんのこと、ご家族も突然のことに戸惑われ、受け入れが難しく、悲しみも深くなるでしょう

緩和ケア病棟で大切にしている「お別れのための時間をどう過ごされるか」ということも実現できないまま旅立たれることになります

 

短い時間ではあってもそのための準備を支援するために、「重症、または急変の可能性」を感じたときには、入院後の早めの面談やご家族に「急変の可能性」に関して言及することが私たちにとって重要な課題となります

患者さんの様子から医療者がどれだけ早く判断できるか、日頃の学習や経験、意識づけが大切になってきます

 

実際には困難な場合がほとんどかもしれませんが、ひとりでも悲しむ事例がなくなることを期待したいと思っています

 

 

これからさらに5年目、6年目…と積み上げていけば、またちがった事実が見

えてくるかもしれません

今はここに述べたようなことを十分に意識しながら努力していきたいと考えて

います