Aさんは長くひとりぐらしをされていました

Aさんにとっては地域に暮らす友人や仲間とのつながりが生きていく上での元気の源であったようです

 

ある日のことです

みんなで約束をしていた行事がありました

 

「Aさんはどうしたんだろう」

「いつもまっさきにやってくる人なのにね」

 

みんなは口々におかしいなと言い合っています

 

電話にも出てくれません

親しい人たちでAさんのご自宅を訪ねました

 

玄関で呼びかけても返事がありません

その日の朝刊が差し込まれたままです

早起きのAさんにしてはおかしいことでした

 

 

「あんしんすこやかセンター(神戸市の高齢者の介護相談窓口)」に連絡しました

 

センターの職員は連絡を受け

すぐに警察に届けました

 

 

……Aさんは、ご自宅で倒れていました

 

すぐに救急車を呼び

病院に運ばれ

一命を取り留めたと

 

あとになって仲間たちは報告を受けました

 

1日遅ければ

間に合わなかったそうです・・・

 

 

……Aさんは今

病院でリハビリを頑張っておられます

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このお話

私は先日の医療生協の総代会のとき

組合員さんの報告の中で知りました

 

 

とても感銘をうけたので

後日当事者の組合員さんたちから

詳しいお話をお聞きしたのです

 

 

組合員さんは次のように報告を結ばれています

(そのまま掲載させていただきます)

 

 

『日頃から(医療生協の)班活動など地域の主体的なイベントにお誘いの声をかけ、ともに過ごす時間をつくることが安否確認にも関わる大切なことなのだということを実感をもって体験し、今年の組合員集会ではあんしんすこやかセンターのスタッフを迎え、話してもらったところ質問もかなり出ました。高齢者の地域見守り活動に高齢者が増える中、互いの見守り合いが大事だと思いました』

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私たち神戸医療生協は

理念として「三つの輪」をかかげています

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「助け合いの輪」がいま地域で広がりを見せています

 

 

このお話も「助け合いの輪」のひとつですが

私は組合員さんからお聞きして

つぎのようなことを思いました

 

 

☆このなかには“だれかのために”という熱意がある

☆一方的な見守りではなく、“見守り合う”という考えが斬新だ

 

と感じた次第です

 

 

私たちの住む地域には

このような取り組みがたくさん行われています

 

 

それが

私たちにとって

たとえ一人暮らしとなっても

年をとっても

「安心な暮らしの保障」

となっているのでしょう

 

けっして上から押し付けられたものではありません

(以下の話は脚色しています)

Aさん

肺癌がかなり進行した状態で入院されました

全身への転移や誤嚥による肺炎を繰り返されていたようです

 

Aさんはそれでも口から食べたいと強い望みをもっていました

ご家族とは少しでも食べることができればいいですね

そのためにはきちんと嚥下機能の評価もしましょう

と話し合いました

 

1回目の評価では「とても経口での食事摂取は無理」との結論

そこから口腔ケアを看護師さんたちが奮闘しました

 

2回目の評価

「少し可能性がでてきました」とのこと

 

 

一方ではさらなる病状の悪化が予想されていました

 

数日後の夜間

突然の容態悪化

呼吸状態が一気に悪くなり

その後間もなくして旅立たれました

 

 

 

まれにこのような出来事を緩和ケア病棟で経験します

開設時からずっと気になっていました

 

4年が経過してまとめをしなければとの問題意識から

診療情報部の協力を得て

病歴からまとめを行ないました

 

以下にご紹介します

 

 

○4年間の緩和ケア病棟を退院された患者さんは474人です

その中で「入院3日以内の死亡退院」は18名(3.8%)でした

この数字が多いのか少ないのか私の調べた範囲ではデータがなかったので判断ができません

「3日以内」ということにした根拠は、当病棟では土・日・休日の入院は原則ありませんので、もし金曜日に入院されると土・日の急変があった場合には体制上厳しい状況であることを考慮したからです

 

○絶対数が少ないので統計的には正しいものではないのですが、一定の傾向を述べます

・男女比では男性に多い傾向がある

・年齢には特徴はない

・主病名にも特徴はみられない

ということでした

 

○しかし18名のなかで「入院時、あるいは入院後に急変の予測が可能であった事例」は9名、「まったくの予測外の急変例」が9名でした

以下「予測外の9名」に関して述べてみます

・肺癌が4名/9名と44%を占めていました

474名中肺癌は125名(26%)であることから、急変例は肺癌が多くみられます

・その原因は窒息や突然の呼吸停止などでした

・入院期間が1日、2日、3日となるほど予測外の急変が多い傾向にありまし

それはおそらく入院当初の意識レベル、バイタルサイン、緊急検査での異常値(高カリウムなど)などから予後がきわめて厳しいという判断ができていたためと思われます

 

○繰り返しになりますが、件数が多くないので印象であるとしか言えませんが、これらの結果から感じたことは

①3日間でみると「予測外の急変」は「予測可能な事例」と同数

②肺癌に予測外の急変が多かった

そのため入院時に窒息や突然の呼吸停止の可能性を私たちが意識すること

が必要と思われます

ご家族との面談時にも考慮すべきでしょう

③「重症」患者さんの急変は2日目、3日目と多くなる傾向にあり、注意が

求められます

です

 

○次にもう少し深めてみたいと思います

 

まずつぎの図を取り上げます

出典はhttps://nursepress.jp/226825です

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上記に示されるように、癌患者さんは死亡の1~2か月まえから急速な悪化を示すことが多いと言われています

緩和ケア病棟に入院してこられる方の多くはこの時期にさしかかった患者さんあるいは状態が悪化している患者さんでしょう

 

この時期を過ごされるための支援を行うことが緩和ケア病棟の大きな役割のひとつと位置付けています

その中で、「予測外の急変」が起こった場合には患者さんはもちろんのこと、ご家族も突然のことに戸惑われ、受け入れが難しく、悲しみも深くなるでしょう

緩和ケア病棟で大切にしている「お別れのための時間をどう過ごされるか」ということも実現できないまま旅立たれることになります

 

短い時間ではあってもそのための準備を支援するために、「重症、または急変の可能性」を感じたときには、入院後の早めの面談やご家族に「急変の可能性」に関して言及することが私たちにとって重要な課題となります

患者さんの様子から医療者がどれだけ早く判断できるか、日頃の学習や経験、意識づけが大切になってきます

 

実際には困難な場合がほとんどかもしれませんが、ひとりでも悲しむ事例がなくなることを期待したいと思っています

 

 

これからさらに5年目、6年目…と積み上げていけば、またちがった事実が見

えてくるかもしれません

今はここに述べたようなことを十分に意識しながら努力していきたいと考えて

います

 

きびしい話を前の病院で聞いてこられました

患者さんは緩和ケア病棟にあまりいいイメージをもっておられなかったようです

 

急に容態がかわることがあると

何度も話されてきて、心が折れそうになっていました

 

――そこから始めましょう

できることはきっともっとあるはずですから

 

と提案しました

 

商店街が近いので連れて行ってあげたい

車いすで自宅に行ければ

などなど

ご家族からの希望を聞きました

 

マージャンが大好きな人です

家族みんなでマージャンを打ってました

と、さいごに付け加えるように話されました

 

 

この話を聞いて

――それなら病室でご家族のみなさんとマージャンをしましょう!

とさらに提案

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日曜日

回診をしていると

今日はご家族でマージャンをされる予定です

との情報

 

これはチャンスと

みなさんを待ちかまえました

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…いい感じです

 

いままでも囲碁や将棋

デイルームで焼き肉パーティ、たこ焼きパーティ

など

たくさんのことが行なわれています

 

そのときの患者さんの希望やご家族の思いを

形にしてきました

 

スタート時

“病棟に日常を”

と心がけてきたことが

5年目を迎えた今も

ひきつがれています

 

 

このようなこともありました

 

時々おそってくる苦痛

でも落ち着いていることも多く

その時にはトランプを手にされている患者さんがいました

 

テキストを参考にマジックの練習をされているようです

 

回診のあと少し時間があったので

私のかくし芸を披露いたしました

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感激されました

 

休みの日の昼ごはんまえ

ふたたび患者さんと向き合います

 

種明かしをしました

 

もういちど感激してもらいました

 

ぜひ覚えていただき

ご家族がこられたときには

みんなを驚かせましょう

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休日の緩和ケア病棟には

ふだんの日とはまた違った

すてきな思い出がたくさん生まれています

 

 

 

持続的な鎮静を選択するかどうかの決断をせまられていました

患者さんは呼吸困難がつよく

モルヒネの増量でも苦痛が和らぐことなく、夜も眠れない状態です

「早く眠らせてほしい、こんな苦しみはもうたくさん…」

とつよく訴えつづけていました

ご家族となんども話し合いをもち

それでも「何が正しいんだろう」と

迷われていました

 

 

私たちが学んできた学校では

正解はいつもひとつでした

なかでも好きだった数学の答えにたどりつく道程はいくつかあったけれど

真実(正解)はいつもひとつでした

…まるで名探偵コナンのセリフのようです

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https://conan-kagaku.jp/

 

でも医療だけでなく

日常の生活で出会う難問への解答は

ひとつではないことがたくさんあります

 

 

☆「正しい方法を教えてください」

とご家族から言われることがあります

 

――私ならこうするでしょう

と答えることはそれほど困難ではありません

 

けれど

押し付けにならないこと

ご家族の負担にならないこと

と言われますがとても難しいことです

 

考えて、悩んで

それでも決断できないことは

いっぱいあります

 

――正しいか正しくないかじゃなく

あなたやあなたの大切な人にとってどうなのか

を考えましょう

 

と心の中で思いつつ…

 

――いっしょに考えてみましょうか

もし私の意見を望まれるならこのようなことを思っています

と、とても慎重にお答えします

 

 

☆もっと直截的に

「どちらを選べばいいんでしょうか?」と尋ねられることがあります

 

――どちらも正解、いや正解かどうかじゃなく、みんなで決めたことを大切にしましょう

と、これもまた不誠実かもしれない答え方をしてしまいます

 

 

☆「これでよかったのかな?」

 

――それでいいんですよ

ってお答えしたくなります

 

 

☆スタッフの間でのカンファレンスで、議論となることがあります

治療をめぐっての話し合いだけでなく、患者さんやご家族の思いをどう受け止めるか、それぞれのスタッフの気持ちをどう評価するかなど微妙なことが課題となります

その際に大小様々なジレンマに悩まされます

254-02

過去には次のようなツールを使って話し合いをもったことがありました

254-03

https://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03059_02

 

以前から知られていましたので

ご存じの方はたくさんいるでしょう

臨床倫理の4分割法です

 

みんなで頭を寄せ合い最善の方策を考えます

 

 

☆私たちスタッフ間だけではなく

患者さんとご家族、ご家族の間でのジレンマ

色々とあります

 

あらためて大いに活用できればなあと思います

 

(中途半端な締めくくり方ですみません)

 

 

地域の基幹病院から患者さんの紹介がありました

「現在抗癌剤治療中ですが、退院後の在宅医療をお願いします」

との依頼です

 

奥様は治療の継続をつよく希望され

化学療法のための通院と、日常のケアのための訪問診療となりました

食事量が少ないための点滴の希望があり

訪問看護も同時に開始しました

 

 

患者さんは寝たきり

るい痩がつよく

これ以上の積極的治療は負担になるのではと思われます

253-01

 

しかし患者さんも奥様も「検査データの悪化が見られないかぎりは治療を続けたい」と望まれています

 

病院の治療医は積極的治療の中止を言いだすことが難しかったようです

悪いニュースを伝えることは大きなストレスです

患者さんやご家族が「見捨てられた」と思われることもあります

 

一方私の方は

希望を持たれている方々に

QOLを重視するといっても

初対面で

「これ以上の治療は中止されてはいかがでしょうか」

とはとても言える状況ではありません

 

 

紹介元の病院への通院

当院からの毎週の訪問診療

毎日の訪問看護

ご家族の介護

でしばらくは経過していきました

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しかし治療薬の影響でしょう

吐気がつよくなり

食事も薬も通らなくなってきました

 

奥様は

「薬のためだということはよくわかっています。でも少しでも病気がよくなるのであれば、やっぱり続けたいです」

と望みをつないでいます

 

 

けれど現状を冷静に受け止められ

いずれは抗癌剤の効果がなくなり

緩和ケア病棟への入院が必要となるだろうと

考えている様子でした

 

こちらから提案し、緩和ケア病棟入院のための面談を行いました

 

「病院で最期を迎えることになるかもしれないけれど、住み慣れた自宅でずっと介護をしてあげたい気持ちもあります」

とのこと

 

 

ついに薬がまったくのめない時がきました

ご家族もやむを得ないと考えられ

在宅緩和ケア中心となります

 

 

そこからです

患者さんは食欲が改善!

当初の訪問では

か細い声での返事しかできませんでしたが

訪問のたびに声に力強さがもどってきました

診察のあとの握手にもエネルギーがこもっています

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いずれはふたたび悪化する時がくるのでしょうが

この間の数か月の経過を振り返ると

 

「基幹病院の治療医」+「在宅医」の「二人主治医」から

在宅医オンリーへスムーズに移行しました

これからの見通しもふくめて…

 

 

今後緩和ケア病棟への入院か

在宅での医療・介護、看取りとなるか

毎週の訪問を続けながら

患者さん、ご家族の意思決定の支援を続けていきます