久々の休日

朝の病棟回診を終えて、気になっていた患者さんのお見舞いに行ってきました

 

お付き合いは何年も前から

彼女が最初に私の外来に来られた時から気にかかっていました

精密検査を勧めても「検査は怖い」「私はわかっているから大丈夫」と取り合ってくれません

その後も何度か同じようなやりとりをしてきましたが、とうとう私が根負けしてしまい、「症状がないようなのでしかたがないかな」と思ってしまいました

 

ところが、ある日のこと

「急に痛みがでてきました」「苦しいです」

とほんとにしんどそうな表情をしてこられました

こんどは検査も素直に受けてくれます

…結果

即刻入院です

 

入院の必要性を説明する私に対して彼女は、

「検査を受けるのが怖かったのです」

「がんと言われるのがいやで…」

「ぜんぜん症状がなかったし、家族の面倒を見ることで精いっぱいでした」

と涙を浮かべながら話されました

 

入院されてからも

「もしもがんだったらその話は聞きたくない」

「苦しい検査は絶対にいや」

などと入院担当の医師や看護師に訴えられていたようです

――がんと言われるのが怖くて検査を受けたくなかった

が本心でした

 

もともと繊細な方で、暑さ寒さに弱くすぐに食欲をなくされたりしていました

 

大きな病院に移って検査と治療が必要になりました

 

もっとこだわりを持って、繰り返し検査を勧めていれば…

もっと早くに…

悔やまれます

 

 

ある医師は次のようなことを話されていました

“(病気が見つかり手術を勧めたところ拒否にあった話です)家族の説得にも耳を貸さず、病気が進行した時のリスクを丁寧に説明しても同意が得られなかったことがありました。無理やり検査や治療を行うことはできず、あくまでも患者さんの意思が尊重されます。このような場合話し合いを続けていくしかありません。1回でダメなら2回、それでもだめなら3回・・・10回・・・100回。患者さんが根負けするまで説得するのです。患者さん自身の自由意思による決定を支援することが大切です”

私はとてもそこまでできませんでした

 

 

転院された病院にお見舞いに伺ったとき、「遠いところを来ていただいて」ととても感謝されました

――もっともっと何度も話ができていればよかったですね

ほんとに申しわけなかったです

今は治療が始まり症状が和らいでいる彼女の声を聞きながら、心の中でお詫びしました

 

 

臨床の医師になって○○年

反省することばかりです

 

 

病棟ボランティアさんから文章をいただきました

 

カレンダーが12月になるとつい「1年って本当に早い」と何度も自分に言いきかせるように出逢う人に言ってしまいます。

昨年の12月にも同じ言葉を言っていたのでしょうね。

7月より緩和ケア病棟でボランティアをさせていただき6か月になりました。

先日患者さんのお部屋をノックしてお茶サービスのために開けてしまいました。

ドアの横には「処置中」の表示がされているにもかかわらずついうっかりと…

反省することは多々あります。

看護師さんと患者さんにはご迷惑をかけないように心がけているつもりですが本当に申しわけなくておちこみます。

 

昨年の9月よりボランティア養成講座に参加する事ができました。

5月には希望曜日ごとに決められたボランティアグループ「そよかぜ」の名簿には、木曜日、私をふくめ6名の名前がありました。

午前と午後に分かれて午前は主に配茶とプランターの水やり等、午後のお菓子作りをされたり…

午後はお茶のサービスで患者さんのお部屋にお茶とお菓子を持っていきます。

 

10月には病棟で歯科の先生がバイオリンコンサートを開催されました。

その時、●●先生の化学実験のような先生らしい(?)マジックがおひろめされました。

なごやかな雰囲気になりました。

クラシック、演歌、ディズニーとバラエティーにとんだバイオリンの演奏に患者さんたちは気持ちよさそうに、なかには指でリズムをとられたり 病棟で生のバイオリンの音が聴けるなんて!本当に癒されたひとときでした。

10月はハロウインなので有志のボランティアの方々と管理栄養士さん、臨床心理士さんと共にかぼちゃのクッキーを焼いて、みなさんに色紙で作られたかわいい入れ物にどんぐりとともにプレゼントされました。

今週末には大きなクリスマスツリーも飾られたこの病棟でクリスマス会が予定されています。

またマジシャンドクター●●に逢えるかもしれませんね。

それは患者さんに少し早いクリスマスプレゼントですね。

本当に楽しみです。

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暖かなお手紙ありがとうございました。

準備のときから数えて4回目、緩和ケア病棟が開設されてからは初めての多職種が参加しての症例検討会を開催しました

参加者は50名でした

ここに書ききれないくらいのたくさんの職種の方々に参加していただき、関心の高さがうかがえました

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テーマは「トータルペイン」

患者さんは40歳代の女性

約1か月で旅立たれた方でした

(11月24日のブログで紹介した女性です)

主治医、担当看護師、薬剤師、栄養士それぞれからのかかわりの報告につづき、

7つのグループに分かれてディスカッションです

そのあと3分ほどでグループからの報告を受けて、最後は副総師長のまとめ

あっという間に約束の2時間が過ぎました

痛みとの戦い、当初からの希望であったコンサートへの参加に向けての苦労、前の病院での対応から「医療への不信感」を持たれていたご家族……

様々な観点からの議論となりました

「緩和ケア病棟での実践がよくわかりました」

「患者さんの価値観って?、生き方をどう支えるの?」

「チームでかかわることの大切さを再確認しました」

「この患者さんのQOLの向上ってなんだろう」

「看護師さんってすごい!」

「これからもこのようなカンファレンスを続けたい」

「まず身体的な苦痛を緩和することが大切だね」

「寄り添うことの意味が少しわかった気がします」

「癌がわかったときから緩和ケアははじまるのですね」

「久々にいいカンファレンスができました!」

などなど

現在参加者からの感想文を読ませていただいているところです

みなさんありがとうございました

クリスマスが近づいてきました

当病棟でもクリスマスパーティの準備です

ある日のこと

ナースステーションで看護師さんたちがサンタクロースの衣装を試しに来ていると…

それを病室から見ていた高齢の患者さん

「サンタが来ていたね」

「下見に来たのかな?」

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ほっとします

あと約1週間

私も何かの役をすることになってしまいました

(なんでもしますよ!)

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最近お見送りをさせていただいた患者さんの話です。

癌が進行し、自宅での療養が難しくなって入院してこられました。

以下、看護師さん、臨床心理士さん、私との会話の抜粋です。

◆入院時:ショック

進行していることがショックです

それ以外考えられません

◆最初の1週間:家族への心遣い

今は何もしたいとは思いません

何か食べたいとか、そういうことが考えられません

こんなに早いなんて思っていませんでした

夫には「自分よりも先に逝かないで」とずっと言われていて、それが心残りです

夫が定年となり、やっと二人で色々と楽しい時間が過ごせると思っていた矢先に病気になってしまいました

夫ひとりでは楽しみなんかないだろうと思うとつらいです

結婚記念日・・・これで最後ね

もうこれからのことはないから

穏やかに安楽に過ごしたい

苦痛が強くなれば眠らせてもらうことを望みます

家族「夜だけ眠らせてもらったら…」

患者「だって日中覚醒してしまったら苦痛を感じてつらい顔を見せるのはまたつらいじゃない」

◆次の1週間:できなくなった自分

入院までは自分でお風呂も入れたし、トイレもできていました

急に何もできなくなってしまってつらいです

トイレは自分で行こうとしても看護師さんの手を借りないと行けなくなりました

友人に来てもらっても気を使ってしんどいです

できないことがどんどん増えて、トイレ、水を飲むこと、入れ歯を外すことができません

もっとできなくなるんかな?

こうなったら恥ずかしいなんて言ってられないです

日に日に衰えていくことがつらいです

ゼリーも看護師さんに食べさせてもらいました

夫「何もしてあげられない自分が情けない」と涙

その後数日でオピオイドの持続皮下注射、鎮静となり永眠されました

この頃に読んだ本につぎの文章を見つけました

『患者が最も落ち込むのは、病名を告知されたときでも予後を告知されたときでもありません。今までできていたことができなくなってきたことを実感したとき、例えば、更衣が自力でできなくなったり、トイレ歩行ができなくなり床上排泄を余儀なくされるようになったときなど、自律存在がおびやかされたと感じたときに、医療不信になったり、激しく落ち込んだりします』(注)

この患者さんも入院されてから急速に自分のできることが奪われていきました。そのことにつよい戸惑いを感じながら、毎日のように辛さを訴えられました。

私たちはベッドサイドで座り、話を聞くことしかできない日々でした。

実は私は時間を作ってこれまで過ごされてきた人生のお話を聞かせていただく計画をしていました。

でもその時間を十分にとれないまま患者さんはどんどんと弱っていきました。

「何ができるんだろう」と悩みました。

先ほどの文章には続きがあります。

『一方で、自分が他人の役に立っていると感じることは生きていくうえでたいへん大きな力になります。家族や医療者が患者に尽くし続けるだけがケアではありません。患者が、「他人の役に立っている」という感覚を持てるような場面をつくることによって、患者は生きる意味を見いだし、生きがいを取り戻すきっかけになるのです』

残念なことに間に合いませんでした。

患者さんに残された時間はわずかです。

私たちが生活で意識する時間の概念と同じではありません。

必要なときにはすぐに行動に移すこと――大きな教訓でした。

スピリチュアルペインと一口に言っても様々な場面があります。

さらに学習と経験を積み重ねながら少しでも進歩したケアが提供できるよう頑張ります。

(注)紹介した文章は次の書籍からの引用です

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著者は私たちと同じ医療生協の医師、和田浄史先生(川崎協同病院)です