何かしたいこと?

―とくにないなあ

車いすに乗って散歩?

―今はいいです

 

と看護師さんが色々と提案しても消極的な返事ばかり

 

病気が腰椎に転移したために痛みが強くなり入院してこられました

痛みのコントロールはなんとかできました

でも様々な事情からベッド上での生活となってしまいました

 

気分転換をかねて車いすでの散歩のお誘いをしても

「行きたくない」

と断られます

 

寝ながらテレビと新聞をみている毎日でした

 

ある日「この病院では天ぷらがでないのか」と言われました

その話を聞いて看護師さんたちがすぐに反応

栄養士さん、調理師さんと相談です

 

「ぜひ提供させていただきましょう」

と快く引き受けていただきました

 

 

そのことを患者さんに伝えると大喜び

予定されている日が待ち遠しいのか

「今日じゃなかったの?」

「天ぷらの日はまだ?」

と毎日のように催促されます

 

とうとうその日がやってきました!

211-01

 

私は残念ながらその場に居合わせることができなかったのですが

看護師さんの話では

「患者さん、涙を流しながら食べておられましたよ」

「ほんとにうれしそうでした」

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準備をしていただいた栄養士さんと調理師さんです

ありがとうございました

 

☆無理をお願いして調理師さんからコメントをいただきました

 

 

病院の食事は全て“治療の一環としての食事”だと自負しています。

 僕は治療食に携わることを誇りに思っています。

 

 緩和ケアオープン時から、自分たちが提供している食事が患者さんにとって人生最後の食事になるかもしれないと思ってやってきました。

 

 僕は直接患者さんを治療することはできません。

 患者さんが“緩和ケアの治療食”に何を望んでいるか考え、食べたい気持ちを支えることが僕たちの仕事であり、やりがいです。

 

 天ぷらは“日清の黄金”

 花はかすみ草

 

 が僕のポリシーです。

 

(日清の天ぷら粉はからっと揚がるおススメの天ぷら粉、かすみ草は縁の下の力持ち、引き立て役というニュアンスだそうです)

 

 

☆後日患者さんにインタビューしました

 

○とても上出来です!

○おいしくて最高でした

○今まで入院した病院では食べたことはなかった

○エビも大きく、天ぷらは大好きです

○こんどは天ぷらうどんが食べたいなあ

○頑張ろうという気持ちが湧いてきました

 

と話されました

 

 

緩和ケア病棟は色んなスタッフに支えられているんだということを、改めて認識した出来事でした

「体が温かいうちにハグしてあげたいんです!」

大粒の涙を流しながら看護師にお願いをされました

 

患者さんは40歳台

病気が見つかって1年余り

考えられるかぎりの治療を続けてこられました

そのための経済的な負担も想像できないくらいです

私たちが面談依頼を受けたのは

これが最後の治療法かもしれないと言われたときです

奥様が相談に見えられました

 

それから数か月たって…

合併症のため寝たきりとなり、コミュニケーションが不十分な状態

入院していただきました

 

「家族といっしょに最期のときをゆっくりとすごしたいのです」

と、奥様

 

広めの病室にご案内しました

ご家族が交代で、ときには全員でお泊りをされていました

 

「告知されたときはみんな受け止めることができず、時間がかかりましたが、現状はみんなわかっています」

「夫もしたいことはすべてしてきたと思います。だからもう心残りはないっていっていました」

「治療もぎりぎりの限界まで私たち家族のために受けてくれました」

「子どもたちにもすべて伝えています。父親が頑張ってきたことは知ってくれていて、取り乱すこともありません」

「……それでも少しでも長く生きていてほしいです」

 

 

前医で告げられていた寿命が訪れてきました

 

意識状態が低下しはじめ

手足のチアノーゼがあらわれ

呼吸が努力様呼吸から下顎呼吸にかわり

 

そして

…しずかに

…旅立たれました

 

 

「まだ体が温かいうちにハグしたいんです」

と奥様

「おとうさんありがとう…」

ご家族が順番に抱きしめられました

 

患者さん、ご家族は私の到着をまってくれていました

のちに最期のときのお話を看護師さんから聞いて

自然とつぎのフレーズが浮かんできました

 

さよならが迎えに来ることを

最初からわかっていたとしたって

もう一回もう一回

もう一回もう一回

何度でも君に逢いたい

めぐり逢えたことでこんなに

世界が美しく見えるなんて

想像さえもしていない 単純だって笑うかい?

君に心からありがとうを言うよ

 

ご存じ、Mr.Childrenの『HANABI』のサビの部分です

 

ご家族は(そして患者さんも)

ハグすることで、大切な人のことを心に、体に刻み付けたい

って思われたのではないでしょうか?

そして

もう一回でいいから逢いたい とも…

 

私の勝手な解釈なのかもしれませんが

でもそう思えました

 

短いお付き合いでしたが

みなさん方の姿は決して忘れることはないでしょう

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https://prcm.jp/album/1d5120ec057c4/pic/72158259

 

 

60代の女性のお話です

 

病気が見つかったときには治療が困難な状態でした

吐気や腹痛、食欲不振などおなかの症状が続いていました

 

始めてお会いしたとき

ご本人は治る気持ちを持たれていましたので

なぜここに入院しないといけないのかと思われていたようです

優しいご主人は厳しい話をすることにためらいをもたれていました

 

緩和ケア病棟に入院してこられる患者さんは

みなさん「悟りを開いた」方ばかりではないのです

「覚悟はしています」

と言われながらも

「まだ何かいい方法が見つかるのじゃないかしら」

と期待を持たれている患者さんやご家族は少なくありません

私たちはその気持ちを支えながら毎日のケアにあたっています

 

しかし病気はそのような配慮はしてくれません

毎日のように吐気や痛みが襲います

 

身体症状の緩和方法の基本に忠実に内服薬や注射で対応し

ある程度の効果がありました

 

しだいに食事がとれなくなって

時々食べた後に嘔吐されることも増えてきました

それでも「食べないと元気にならない」と

無理をしながら口に含みます

 

ご自分の思いと現実の矛盾にイライラされることが多くなりました

ご主人にもつよく当たることがあります

ご主人は私たちには涙をみせることがありながらも

奥様の前では笑顔で要求に応えられていました

 

不安症状が身体の症状に加わるようになってきました

それがさらにこれまでにない身体の症状となって表れます

そのつどナースコールが鳴ります

 

形のあるものは食べられない状態になり

氷や水分がかろうじて喉の満足感を満たしてくれるので

頻繁に要求されました

ご主人もそばに付きっきりです

 

 

ところがある日

ナースコールが減りました

 

申し送りの時の看護師さんたちの会話

――○○さん、編み物を始められてからコールが減ったわね

一日中編み物をされているようですよ

 

 

ご主人にお話を伺うと

「もともと一つのことにこだわる人でした」

とのこと

 

それからは身体の訴えや不安感も減り

穏やかな日々を過ごされることが多くなりました

嘔吐されることがときに見られても……

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編み物に没頭することで

心理的な安定がもたらされ

あわせて身体の苦痛も和らげる効果が

うまれたようです

 

徐々に病状が進行し

眠っている時間が増え

呼吸が浅くなり

 

ご主人はじめ、ご家族に見守られながら

静かに旅立たれました

 

 

しばらくたってからの「デスカンファレンス」の場

 

かかわったスタッフからは

「編み物が患者さんを穏やかにさせてくれたのね」…と

 

薬を使っての症状緩和よりも

一時的であれ、編み物のほうが効果的であったこと

を思い返し

緩和ケアの奥深さをあらためて認識することができました

 

カンファレンスのさいごに

看護師さんが

「みなさん、趣味をもちましょう」

と締めくくってくれました

209-02

患者さんのご家族から声をかけられました

「ブログで紹介されていた絵本を買いましたよ!」

嬉しい感想をいただきました

 

時間があれば本屋さんで絵本のコーナーを見て回ることがあります

そこで気になった絵本を購入

よかったものを時々紹介させていただいています

 

今回もそのうちのひとつです

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歌手の木村カエラさんの描き下ろし絵本です

 

“心の中にモヤモヤしたものはありませんか?

言いたくても言えなかった言葉はありませんか?”

と帯に書かれています

 

 

ストーリイはネタばらしになりますので

私が魅かれたページだけを載せさせてもらいました

 

 

「たのしいは みらいがみえる。

 うれしいは じしんがつく。

 かなしいは ひとのいたみがわかる。

 くやしいは ほんとうのじぶんをしれる。

 

 さみしいは うまれたときに てにいれた

 いちばん さいしょのキモチさ!

 あかちゃんは さみしくて

 ママーって ないているだろ?

 

 いらない キモチなんて ひとつも ないんだよ」

 

 

いろんなことで疲れ切って帰ったとき

このページを開いて

元気づけられています

 

 

絵本のもつひそかな力ってすごいですね

208-02

 

先日チャプレンでカウンセラーである沼野尚美先生をお招きしての講演会を院内で開催しました

有名な方ですので短期間のお知らせにもかかわらず、看護師さんを中心にたくさんの参加がありました

 

テーマは“終末期がん患者さんの心のケア”です

患者さんの心の叫びを6つの点に分けて説明をしていただき、またそれぞれについての関り方を先生の経験からお話いただきました

とても貴重な話を聞くことができ、「すばらしかった」というたくさんの感想が寄せられました

 

項目だけを上げておきます

  • 残された時間の使い方をめぐっての叫び
  • なぜ私が癌になったのかの叫び
  • 人生の後悔からくる叫び
  • 死をめぐっての叫び
  • 希望を求める叫び
  • 誠実な愛を求める叫び

207-01

参加された方から感想をいただきました

掲載の許可をもらっていますので以下に紹介します

 

『私には、向こうの世界へ行った時、確認しなければならない宿題がある。

13年前、2才年下の妹は、脳腫瘍の告知を受け、2年半戦ったが旅立った。

気持ちに寄り添い、共感し、見守りたいという思いはあったが、それは、届い

ていたんだろうか?

死への恐怖や不安、やり残したことなど充分話した記憶が、私にはない。

一度だけ、日帰りバス旅行に行きたいと言ったが、白血球は、ずーと800~900

代。主治医に任せたが、もし、私に緩和ケアの知識があれば、もっと向き合っ

て、調べ、希望を叶えてあげることができたのではないか?

こんな思いがあって、緩和ケアの学習会は、機会があれば参加させてもらって

いる。

沼野先生のお話は、旅立ち前の心の叫びを知り、その言葉の本心は何を求めて

いるのか?  どう受け止め、提案していくのか?  1つ1つ事例を通し話し

て頂いて、緩和ケアを知らない私には、病状の進行時期や心の変化など、とて

も具体的でわかりやすかったです。そして、それは、五感を働かせコミュニケーション能

力を磨くということが、つくづく大切なことだと思った。

Nsは“病める叫び”を聞かなかったことにできる。“あなただから”と選んで

くれた心の叫びにも「主治医や神のみぞ知る」と相手に振ったり、逃げること

もできると言われた。そのとおりだ_!!

でも、せっかく患者さんから選んでもらえたら大切にしたいですよね。私なら

人生最期に自分のことを大切にしてくれていると感じられるNsに巡り合えた

ら、こんな幸せなことはないと思ってしまう。

あっという間の1時間半の講演は、「終末期がん患者の心のケア」だったのに、

やっぱりNsってステキな仕事だなと自分が元気になり、心が癒されていると気づ

き、なんだか不思議な感覚でした。』

 

とても心の温まる感想、ありがとうございました

207-02