今までにたくさんの書物から影響を受けてきました

医師になってからも同様です

 

その中で今回お勧めしたい人の本をご紹介します

このブログを見ていただいている方々に

コロナ禍で家にいる長い時間の一部でも活用して

読んでいただくことができればうれしいです

 

作者は夏川草介さん

現役のお医者さんでもあります

2009年に発行された「神様のカルテ」に大きな衝撃を受けました

それからというものこのシリーズが出版されるたびにいち早く手に入れてきました

 

初めて医療の現場に足を踏み入れることになる研修医のみなさんに

プレゼントをしたことがあります

 

また新入職員の歓迎の場で内容を取り上げて

紹介をしました

 

そのときの一部を転載します

 

―――最初にある医師の話をご紹介します

・大学病院に勤めている

・膵癌の若い女性の主治医

・病状は進行し、いずれは最期のときを迎えることになるだろうと思われた

・治療を受けてきたが、自宅で夫や子どもと暮らしたいと退院

・病状が悪化、病院にくるのを拒否

「どうせ助からないのなら、私はずっとここにいます」

・処置をすれば一時的にでも改善の可能性が高い

医師は自宅を訪れ、説得

病院になかば強引に入院

・日に日に悪化

最期は自宅で過ごすことを強く希望

・地域連携担当者や訪問Nsと相談

「このような重い病状の患者さんは、退院のガイドラインからみても私たちは反対です」

ではどうするのか?

「大学病院にこのままいてもらうことはできないので、他の病院に移ってもらいます」

・カンファレンスの場で研修医は激怒、Nsたちに怒鳴り声をあげた

指導医の医師も同じ思い

・思い余って地域の診療所を営む先輩医師に相談

往診も訪問看護も引き受けてもらえた

「困ってる患者がいれば手を貸してやる」のがあたりまえだ

・このかってな行動を上司である准教授から注意される

・そのときの医師の言葉

「ガイドラインは大事です。しかし、最後の時間を家で過ごしたいと願う若い母親に転院をすすめるようなガイドラインなら、そんなものは破って捨てて病室に足を運ぶべきです。じっくり腰を据えて議論をしている時間がない患者がいるんです」

そして

「私は患者の話をしているのです」

 

実はこの話は実際のものではなく、長野県のお医者さんが書かれた「神様のカルテ」という小説の一部分です

みなさんはこれから医療の現場に飛び込まれることになります

そのときにお願いがあります。

私たちは病気のことをしっかりと理解していないといけません、また患者さんの生活環境や社会背景もぜひ知ってほしいと思います

しかし大切なことはそれぞれを個別に知ることではなく、「患者さんの話ができる」医療者になっていただきたいということです―――

 

最近テレビでも放映されていました

 

博識に裏打ちされた丁寧で上品な文章 と

物語の静かな流れのなかにときおり浮かぶ感動

に私は魅了されました

 

また新刊からも抜粋いたします

 

―――科学は、(中略)抗がん剤の量を計算することは得意だが、ヒトの心の哀しみや孤独を数値化することはできない。数値化できないから存在しないと考えるのは、現代の多くの学者が抱えている病弊だ。こういう学者たちは、科学が世界を解釈するための道具に過ぎないことを忘れ、世界の方を科学という狭い領域に閉じ込めようとしてしまう。人間の、哀しみや孤独、祈りや想いといったものを、ホルモンの変動で説明しようと試みることは、科学の挑戦としては興味深いが、ホルモンが変動していないから、その人間が哀しんでいないと考えるのは、道化以外のなにものでもないだろう―――

 

―――現地に足を運んでみなければわからない。それは、民俗もうどんも同じということだ―――

 

ともに主人公が師事するある大学の民俗学の准教授のことばです

308-01

教科書に無理にあてはめようとしていないだろうか?

患者さんのそばにいかず、看護師さんの報告だけで判断していないだろうか?

 

臨床にたずさわる者にとって重いことばと受け止めました

これからも注目していきたい作家(兼医師)のお一人です