私たちの病院では既報のように昨年新型コロナウイルス感染症のクラスターが発生、その対応に追われてきました

多くの関係者の努力でやっと収束にこぎつけましたが、この経験から「コロナ病棟」の開設に踏み切ることになりました

 

その中心で頑張っていた病院の総師長さんから貴重な文章をいただきましたので、ここに掲載します

 

緊急事態宣言が解除された現在も医療現場ではまだまだ、またこれからも新型コロナウイルスとの闘いは継続することになるでしょう

将来振り返ることができたときの大事な資料になると思っています

 

11月末に入院中の患者さんから陽性者が出ました。もちろん当院でも認定看護師を中心に感染対策を講じており日々の看護業務にあたっていました。

世間でも病院内でのクラスター発生の声が多く聞かれ「明日は我が身である」との覚悟はしていましたが、当院で陽性患者さんをこのまま見る事になり、それを聞いた時は頭が真っ白になりました。すでに次々と当該部署の看護師や介護スタッフに陽性者が判明する中、どうスタッフを確保していくかの問題がありました。外来や手術室、他の病棟への依頼、在宅看護師までをも要請し部署をまたがる業務は避けなければならなかった為、ある程度の期間の支援をお願いしました。

クラスター時は看護師から様々な悲痛の声が上がりました。「ゆっくりと温かいお湯で体を拭いてあげたい。」「コロナにかかった不安な患者さんの話をそばでゆっくり聞いてあげたい。」などなど今まで大事にしてきた、患者さん一人一人の尊厳を大事にし、思いに寄り添うという看護師としての信念が崩れ去った事が、自らが感染するかもしれないという不安に加えて、一番の精神的苦痛であったように思います。ケアの充実を図りたい、しかしまずは自分が感染しない事が最優先!この言葉はスタッフにとってどれだけ辛かったことでしょう。クラスターが落ち着く頃、私の中ではとても大きな葛藤にぶち当たりました。クラスターによって経営状況が更に悪化した事や本当に親身になって援助して下さった保健センターの皆様の要望にお応えしたいのもありましたが、当院でも外来を訪れる患者様の中に、神戸市内の専門病床のひっ迫した医療体制の中で入院できずに自宅で過ごされるコロナ陽性患者様の辛い状況が日々伝わってきたからです。「地域の方々を守りたい」そんな思いと、「スタッフを危険な目にあわせてもいいのだろうか・・」と言う気持ちで揺れ動きましたが「それでも今やらないと・・」という思いは変わりませんでした。院長をはじめ管理部での議論を短時間で重ね、1週間の準備期間を経てコロナ病棟開設の運びとなりました。ハード面の準備と感染対策に対する再度のレクチャー、働くスタッフの選定へのアンケートが急がれました。家族の事を考え悩むスタッフもいましたし、もちろんこのような方針に戸惑い怒りをぶつけるスタッフもいましたが、当然の事として受け止め対話を重ねました。現在コロナ病棟のスタッフからは「学習を重ね、病態の変化や感染対策の知識も増えた。安全に患者さんと接する事が出来るようになった」という声が聞かれます。介護スタッフやリハビリスタッフも専任で配置し、洗髪・手浴・足浴などの保清やリハビリの充実も図れるようになりました。スタッフからも「落ち着いて笑顔で患者さんに対応できるようになりました」「状態が悪い方も私達が最期まで看る。生き抜いた事を伝える役目になりたい。」このコロナ禍で今までに私達に不足していたことや看護が一気に見えてきたという思いです。まだまだこの状況は続くと思いますが、スタッフの身体面、精神面に配慮しながら、地域医療に貢献できるよう使命感を持って進んで行きたいと思っています。

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