彼女は途方に暮れていました

熱を出してぐったりとしている我が子を抱えて何件もの医院を訪ねてまわりましたが、どこも休診で診てもらうことができません

 

あきらめて家に帰ろうとしていたとき、目の前に診療所の看板

ドアが開きました

藁にもすがる思いで飛び込んだのが私たちの医療機関との長いお付き合いの始まりでした

 

当時はポリオの流行が話題にのぼっており

若いお母さんたちは正しい情報を求めていました

 

彼女は知人からポリオや予防接種の講演会があることを知らされ参加しました

そこで正確な知識や予防の必要性を学び、子どもの命を守るためには母親が根絶のための運動に立ち上がらなければいけないという講師の話に聞き入っていました

この話をもっとたくさんのお母さんたちに知らせなければとの思いを強くしたそうです

 

全国の母親たちがポリオワクチン獲得運動に足を踏み出したのです

 

 

世の中のことにほとんど目を向ける機会のなかった彼女も知り合いのお母さんをはじめご近所に呼び掛けてご自分のおうちを提供して勉強会をもちました

私たちの先輩医師や看護師など医療従事者が講師をしたり準備のお手伝いをしました

この取り組みがのちに医療生協運動の一つのかたちになったと聞きました

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彼女とその仲間たちは乾いた砂に水がしみこむように次々と様々なことを学び、世の中の矛盾に気づき、自分たちが何をしなければならないのかをみんなで考え始めました

 

私たちの医療機関はこのような方々に支えられています

 

私が彼女から教えていただいたことはたくさんあります

日常の医療だけに追われていれば気づけなかったことが彼女とのお付き合いの中で知ることができました

 

☆先生たちにはもっと地域のことを知ってほしいんです

 

なんども繰り返されました

本屋さんで地図を買ってきてそばに置きながら患者さんの住所を見てはお住まいの様子などをお聞きしました

往診も頻繁に行う機会があり、生活から患者さんを理解するきっかけとなりました

 

☆すべてのことを職員と(医療生協の)組合員とともに行いましょう

 

新入職員の歓迎会や送別会は必ずいっしょに参加されます

年1回の医療活動や経営の総括の会議をはじめ、多くの話し合いにも参加します

組合員の一泊の旅行に私も参加しました

ほとんどのことをいっしょにやってきました

阪神淡路大震災のとき、被災された患者さんの訪問もともに取り組みました

 

☆助け合いは当たり前のことです

 

身寄りのいない組合員さんが急に入院をしなければいけなくなりました

そのようなとき彼女は付き添って病院まで行かれました

身の回りのことなどお手伝いをされます

ごく自然な行動でした

 

☆職員に対して厳しいことをたくさん注文されますが、困っているときにはすぐに手を差し伸べてくれます

 

だから私たちはなんでも相談をしてしまうのです

病院を大きくする運動のときには先頭に立ち

患者さんや地域の要求を正しく伝えてくれました

 

☆私たち職員は彼女をはじめ多くの患者さん・組合員さんに育てていただきました

 

「患者さんが医師や看護師を育てる」とよく言われます

私たちが経験したことは医療の場面のみでなく

生き方そのものを指し示してくれたことがとても大きかったと思います

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その彼女が先日旅立たれました

 

第一線を退かれたときに

お話をうかがったことがあります

 

『近所の経験あるお年寄りの力を大事にしてほしい』

『職員にはー困難なときほど医療生協の組合員とともにーの心をもってください』

 

なんども強調されました

 

 

 

長い間組合員や職員とともに過ごされ、たくさんのことを残された彼女に

 

心からの感謝とともにご冥福をお祈り申し上げます

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私たち医療生協の活動のひとつとして組合員さんと職員の協同でコロナ禍での生活を応援する取り組みが行われ、1年が経過しました

 

この話を担当者から聞いてまとめてみました

 

計4回の取り組みになります

組合員の間で子どもの貧困についての話し合いを繰り返し行い、またコロナ禍で一層きびしい状況におかれている若い世代のお母さん方への支援を始めようということがきっかけでした

開催する中で地域で困っている方々がたくさんいることを再確認しています

 

地域の児童館や保育園・幼稚園などにチラシを置かせていただき、それを目にして来られた方が多くいました

 

日用品や衣類は組合員が持ち寄り、食料などはコープさんの協力をいただきました

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4回目は約100名が参加されました

健康チェックも同時に行い

アンケートをお願いしました

 

そのアンケートからです

 

☆来られた方の約3割が20代から40代の人たちでした

☆一人暮らしの方が約4分の一います

☆コロナ禍による生活への影響は6割を占め、「コロナにより収入が減った」「仕事がなくなった」「夫がうつになり仕事に行けていない」「子どもたちの遊べる場が少ない」など切実な悩みがたくさん記入されています

子育ての変化は6割の方が「かなりあった」と言われています

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病院の中だけではわからないたくさんの悩みや苦労が地域の生活の中で浮き彫りになっています

病気のことのみでなく、生活や仕事のことにもっと目を向けていかなければいけません

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訪問看護ステーションの看護師さんたちを対象に医療用麻薬の「基礎の基礎」についての勉強会を開きました

看護師さんたちの不安が少しでも軽くなればと考えました

 

6月がくれば開設8年目を迎えます

私も初心に返って準備を行いました

 

とくに訪問看護師さんに理解しておいてほしい点を中心に話をしました

*医療用麻薬の種類とそれぞれの利点/欠点、副作用

*定期薬とレスキュー薬の役割と理解

*増量時の注意点

*スイッチングの留意点

 

「怖がる必要はありませんが、十分な『管理』が求められます」ということを強調しました

入院中は看護師さんが管理することができますが、在宅では患者さん自身やご家族の手に委ねることが多くなります

・適正な使用ができているか

・使用回数の変化はどうか

・副作用が見られないか

など

意識してもらうことがたくさんあります

 

 

率直な質問がたくさん出されました

「レスキューの効き方は薬の種類によって異なるのですか?」

「アセトアミノフェンやNSAIDs、トラマールを使っている人への併用はあるのですか?」

「この痛みは突出痛であると判断することが難しいです」

「認知症の患者さんは1日〇〇回が限度と言われてもついつい使ってしまい、それ以上の使用ができないと言われると不安が強くなり困っています」

など

病棟では普通に行われていることでも意外なことで困ったり悩んだりしているのだとよくわかりました

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私も新たに気付かされることがあり、今後必要に応じた勉強会をもちたいと思っています

 

 

8年目を迎えるにあたり

7年間書き溜めてきたブログから少し振り返ってみました

 

☆2015年6月1日オープン

患者さんが必要としています

ご家族が求めています

私たちスタッフはいつでもそばにいること…

たった数分の時間…

それがとても貴重なのです

と書きました

 

☆2016年6月には1年間のまとめの会議をもちました

まだまだ手探り状態でした

 

☆2018年10月 3周年の記念集会を324名の参加で開催(感謝しています)

みんなの力で記念誌を発行

 

☆2019年には「鎮静」や「医療倫理」を考えました

 

☆2020年からは新型コロナウイルスに翻弄されながらも、できることを追究する日々でし

看護師さんたちの文章が増えたのもこの時期です

 

そして8年目がやってきます

初心に返りながらも、時代の変化に応じた前進した取り組みとなるよう努力していきたいと考えています

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私たちの法人の看護師さんたちは看護研究事例発表会を毎年開催し、今年は49回目になります

抄録を読んでいたところ、ある事例が目に止まりました

診療所の看護師さんたちの実践です

 

100歳を超えた寝たきりの女性患者さんの話です

彼女はご家族がいなく独居の状態で暮らしていました

視力がほとんど低下していますが、最期まで住み慣れたご自宅で過ごしたいと望まれていたようです

 

所長医師、担当看護師をはじめ診療所のスタッフや訪問看護師さん、ヘルパーさんたちはみんな不安をかかえながらのケアを続けていました

――高齢で寝たきり、独居の患者さんを最期まで自宅で看ていくことができるのだろうか?

でもご本人の思いを叶えたい…

 

施設への入所という選択肢もありました

しかし、身体は動かすことが難しかったけれど意思表示はしっかりとされており、医療・看護・介護のそれぞれの役割の中で彼女の人生を支えていきました

 

担当した看護師さんにお話をうかがいました

「とりわけヘルパーさんの力が大きかったです」

「炊事や食事の介助で細やかな対応をされ、とても優しい声かけをされていました

そうめんを美味しそうに召し上がられていたとき、もういちど茹でましょうかと声かけをされている姿に感激しました」

「脱水になったときや熱が出た時に、私はヘルパーさんから水分の取り方を教えていただきました」

「お互いに細かな連絡をすることができ、とても助かりました」

 

一人暮らしであっても、みんなが協力し合えれば自宅で看取ることができるということをつくづく感じました と話されていました

 

 

最期のとき

「ありがとう」と言われ、念仏を唱えながら息を引き取られたそうです

 

 

一人暮らしで同居される介護者がいない方々はこれからも増えてくることでしょう

私たちはどのようなことができるのか、一人ひとりの望みを叶えるために何が求められるのか

たったひとつの事例の中にもそのヒントがあるように感じ、ブログに載せることにしました

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病院裏にある路地で

雀の声がたくさん聞こえました

 

足元をみると

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たぶん生まれたての赤ちゃん雀でしょう

まだうまく羽ばたくことができません

 

頭の上からは親鳥と思われる鳴き声が…

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この木の上から聞こえてきます

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この中で行ったり来たり

時々は赤ちゃん雀のそばに飛んできては

食べ物を運んでいるように見えます

 

急いでネットで調べました

 

5月のこの時期に卵が孵化して生まれてきます

そこからひな鳥は巣立っていくようです

地上に「落ちた」ひな鳥は巣立ちの準備をしているのです

 

このときに可愛いからとか

可哀そうだからとか

拾い上げることはよくないようです

 

親鳥はかならず近くの木の上や家の屋根にいて

子どもをしっかりと見守ってくれています

お互いに会話をしている賑やかさがいい雰囲気です

 

私たちはこの時を温かく見守ってあげる必要があります

 

人にはヒトの

鳥にはトリの

世界があるんですね

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次の日

同じ場所をのぞいてみると

だれもいませんでした

 

無事に飛び立つことができたのでしょうか