ずっと以前のことです

まだ病棟がオープンする前のことですが、入院の相談を行なっていました

 

まだ若い患者さんとその奥様が目の前に座っておられます

 

「いままで診てもらっていた先生が転勤になり、新しい先生にかわりました」

「それまでは色々と相談に乗っていただけていました。

検査の結果や治療についても丁寧に話をしていただき、

私たちの希望も受け止めていただいておりました」

「こんどの先生はいきなり『緩和ケアの時期です』とおっしゃるのです。

抗がん剤は副作用があるのでこれでおわりにしましょうと告げられました」

「まだまだ元気だし、食欲もあります。検査結果も悪くないと言われていました。なぜ急に?」

 

どうも主治医と患者さん、ご家族とのコミュニケーションがじょうずにとれていないようでした

「紹介状をいただいていますので、とりあえずは入院の予約をさせていただきますが、様子をうかがっていると確かにお元気そうですし、いざというときのためと考えておいてください」と説明をさせていただきました

 

 

話をしながら過去にある先輩医師から聞いた話を思い出しました

 

脳梗塞のために半身麻痺で入院された高齢の患者さんでした

リハビリ目的とのことです

主治医は毎日回診しました

患者さんはそのたびにご自分の不自由になった体のことを訴えられました

「この手はどうして動かないのですか?」

「どうすれば歩くことができるようになるのでしょう?」

 

主治医はそのつど病気の説明をおこない、麻痺が完全に元通りになることは難しく、

リハビリをしながら少しずつ歩く練習をしていくことを勧めました

また同時に麻痺のない側の手足をじょうずに使うことも必要であることを

なんども話されたようです

 

しかし、患者さんは納得されず、看護師さんからの報告を受けることが毎日のように続きました

 

ある日主治医は患者さんのベッドサイドに座り、次のように話したそうです

「あなたの体を元通りにすることは今後も難しいです。

まずそのことを受け入れていただかなければいけません。

そのうえでリハビリをいっしょに頑張りましょう」

患者さんは足元を見つめながら黙って話を聞いていました

 

(少し言い過ぎたかな)

主治医は若干気になりながらも重症の患者さんのことでその後の時間をとられてしまい、

このときのことは忘れてしまいました

 

翌日の午後

看護師さんから「患者さんが見当たりません」との連絡

 

みんなで病院内をさがしました

 

……屋上で発見されたのです

すでに冷たくなられていました

首には…

 

 

この出来事をとても悔しそうに話してくれた先輩のことを思い出しました

 

 

私たちは簡単に“病気(障害)の受容”という言葉を口にします

しかしそれは患者さん、あるいはご家族の側のことであり、

医療者が決める、または押し付けることではありません

病気や今後起こりうることを正確に情報としてお伝えすることは絶対に必要なことですが、

それをどのように受け止めるのか、

今後どのような選択をするのか、私たちが左右できることではありません

「先生ならどうされますか?」と時に聞かれることがあります

その時には「今の自分ならこのような選択をするかもしれませんね」

と柔らかくお話をすることが多いです

話のさいごには一緒に考えましょうと付け加えて

 

また病状から考えてとても実現ができそうもない希望をお聞きした時には、不可能な約束はしません

でも「できるといいですね」と思いを共有させていただくことは悪いことではないと考えています

 

 

幸いにも、今の病棟では“受容”という単語は使われていないようです

それよりもみんなどうすれば目の前の患者さんの苦痛を取り除けるのだろうかと一生懸命なのです

 

とても恵まれた環境にいると感謝しています

12月19日の昼下がり。
少し早めのクリスマス会が行われました。

その日は朝から、病棟に流れるクリスマスソングに乗って、飾りつけや、本番に向けての練習、衣装チェックに大忙し。
管理栄養士さん、調理師さん、ボランティアのみなさんは、2種類のカップケーキとゼリーを手作りしてくれました。
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看護師さんの声かけで、患者様とご家族の方も少しずつ集まってきてくれます。
薬剤師さん、管理栄養士さん、調理師さんも駆けつけてくださり、病棟スタッフ、たくさんのボランティアさんで患者様を囲みパーティーが始まりました。

初めはハーモニカ演奏。クリスマスソングや懐かしい名曲を披露してくださいました。
目をつぶって聴き入ったり、手拍子をしたり、それぞれに音楽を味わいました。

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次は先生によるマジックショーです。病棟では、恒例のイベント。
患者様もカードを引いて、マジックに参加しました。
見事成功し、「おぉ~!」という歓声と共に拍手が起こりました。

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最後は看護師チームによるハンドベル演奏です。
本番直前まで練習し、クリスマスソング2曲を奏でました。
優しい音色が響き、クリスマスムードが高まります。
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そして、サンタクロースが登場!!
サンタクロースとツリーをあしらった手作りのカードを届けてくれました。
プレゼントを受け取った患者様は、お顔がほころびます。
その後は、サンタクロースと記念撮影!!
患者様もポーズをとってくださり、みんな笑顔の写真をお部屋にお届け。
会場に来ることができなかった患者様のお部屋にもサンタさんが来てくれました。

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楽しい時間はあっという間でした。
スタッフはもちろん、ボランティアのみなさんもたくさんご参加いただきました。
飾りつけ、お菓子作りに、カメラマンと力を尽くしてくださり感謝しています。
みんなで作り上げた初めてのクリスマス会は、盛況のうちに終わりました。

久々の休日

朝の病棟回診を終えて、気になっていた患者さんのお見舞いに行ってきました

 

お付き合いは何年も前から

彼女が最初に私の外来に来られた時から気にかかっていました

精密検査を勧めても「検査は怖い」「私はわかっているから大丈夫」と取り合ってくれません

その後も何度か同じようなやりとりをしてきましたが、とうとう私が根負けしてしまい、「症状がないようなのでしかたがないかな」と思ってしまいました

 

ところが、ある日のこと

「急に痛みがでてきました」「苦しいです」

とほんとにしんどそうな表情をしてこられました

こんどは検査も素直に受けてくれます

…結果

即刻入院です

 

入院の必要性を説明する私に対して彼女は、

「検査を受けるのが怖かったのです」

「がんと言われるのがいやで…」

「ぜんぜん症状がなかったし、家族の面倒を見ることで精いっぱいでした」

と涙を浮かべながら話されました

 

入院されてからも

「もしもがんだったらその話は聞きたくない」

「苦しい検査は絶対にいや」

などと入院担当の医師や看護師に訴えられていたようです

――がんと言われるのが怖くて検査を受けたくなかった

が本心でした

 

もともと繊細な方で、暑さ寒さに弱くすぐに食欲をなくされたりしていました

 

大きな病院に移って検査と治療が必要になりました

 

もっとこだわりを持って、繰り返し検査を勧めていれば…

もっと早くに…

悔やまれます

 

 

ある医師は次のようなことを話されていました

“(病気が見つかり手術を勧めたところ拒否にあった話です)家族の説得にも耳を貸さず、病気が進行した時のリスクを丁寧に説明しても同意が得られなかったことがありました。無理やり検査や治療を行うことはできず、あくまでも患者さんの意思が尊重されます。このような場合話し合いを続けていくしかありません。1回でダメなら2回、それでもだめなら3回・・・10回・・・100回。患者さんが根負けするまで説得するのです。患者さん自身の自由意思による決定を支援することが大切です”

私はとてもそこまでできませんでした

 

 

転院された病院にお見舞いに伺ったとき、「遠いところを来ていただいて」ととても感謝されました

――もっともっと何度も話ができていればよかったですね

ほんとに申しわけなかったです

今は治療が始まり症状が和らいでいる彼女の声を聞きながら、心の中でお詫びしました

 

 

臨床の医師になって○○年

反省することばかりです

 

 

病棟ボランティアさんから文章をいただきました

 

カレンダーが12月になるとつい「1年って本当に早い」と何度も自分に言いきかせるように出逢う人に言ってしまいます。

昨年の12月にも同じ言葉を言っていたのでしょうね。

7月より緩和ケア病棟でボランティアをさせていただき6か月になりました。

先日患者さんのお部屋をノックしてお茶サービスのために開けてしまいました。

ドアの横には「処置中」の表示がされているにもかかわらずついうっかりと…

反省することは多々あります。

看護師さんと患者さんにはご迷惑をかけないように心がけているつもりですが本当に申しわけなくておちこみます。

 

昨年の9月よりボランティア養成講座に参加する事ができました。

5月には希望曜日ごとに決められたボランティアグループ「そよかぜ」の名簿には、木曜日、私をふくめ6名の名前がありました。

午前と午後に分かれて午前は主に配茶とプランターの水やり等、午後のお菓子作りをされたり…

午後はお茶のサービスで患者さんのお部屋にお茶とお菓子を持っていきます。

 

10月には病棟で歯科の先生がバイオリンコンサートを開催されました。

その時、●●先生の化学実験のような先生らしい(?)マジックがおひろめされました。

なごやかな雰囲気になりました。

クラシック、演歌、ディズニーとバラエティーにとんだバイオリンの演奏に患者さんたちは気持ちよさそうに、なかには指でリズムをとられたり 病棟で生のバイオリンの音が聴けるなんて!本当に癒されたひとときでした。

10月はハロウインなので有志のボランティアの方々と管理栄養士さん、臨床心理士さんと共にかぼちゃのクッキーを焼いて、みなさんに色紙で作られたかわいい入れ物にどんぐりとともにプレゼントされました。

今週末には大きなクリスマスツリーも飾られたこの病棟でクリスマス会が予定されています。

またマジシャンドクター●●に逢えるかもしれませんね。

それは患者さんに少し早いクリスマスプレゼントですね。

本当に楽しみです。

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暖かなお手紙ありがとうございました。

準備のときから数えて4回目、緩和ケア病棟が開設されてからは初めての多職種が参加しての症例検討会を開催しました

参加者は50名でした

ここに書ききれないくらいのたくさんの職種の方々に参加していただき、関心の高さがうかがえました

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テーマは「トータルペイン」

患者さんは40歳代の女性

約1か月で旅立たれた方でした

(11月24日のブログで紹介した女性です)

主治医、担当看護師、薬剤師、栄養士それぞれからのかかわりの報告につづき、

7つのグループに分かれてディスカッションです

そのあと3分ほどでグループからの報告を受けて、最後は副総師長のまとめ

あっという間に約束の2時間が過ぎました

痛みとの戦い、当初からの希望であったコンサートへの参加に向けての苦労、前の病院での対応から「医療への不信感」を持たれていたご家族……

様々な観点からの議論となりました

「緩和ケア病棟での実践がよくわかりました」

「患者さんの価値観って?、生き方をどう支えるの?」

「チームでかかわることの大切さを再確認しました」

「この患者さんのQOLの向上ってなんだろう」

「看護師さんってすごい!」

「これからもこのようなカンファレンスを続けたい」

「まず身体的な苦痛を緩和することが大切だね」

「寄り添うことの意味が少しわかった気がします」

「癌がわかったときから緩和ケアははじまるのですね」

「久々にいいカンファレンスができました!」

などなど

現在参加者からの感想文を読ませていただいているところです

みなさんありがとうございました