(以下の話は脚色しています)

Aさん

肺癌がかなり進行した状態で入院されました

全身への転移や誤嚥による肺炎を繰り返されていたようです

 

Aさんはそれでも口から食べたいと強い望みをもっていました

ご家族とは少しでも食べることができればいいですね

そのためにはきちんと嚥下機能の評価もしましょう

と話し合いました

 

1回目の評価では「とても経口での食事摂取は無理」との結論

そこから口腔ケアを看護師さんたちが奮闘しました

 

2回目の評価

「少し可能性がでてきました」とのこと

 

 

一方ではさらなる病状の悪化が予想されていました

 

数日後の夜間

突然の容態悪化

呼吸状態が一気に悪くなり

その後間もなくして旅立たれました

 

 

 

まれにこのような出来事を緩和ケア病棟で経験します

開設時からずっと気になっていました

 

4年が経過してまとめをしなければとの問題意識から

診療情報部の協力を得て

病歴からまとめを行ないました

 

以下にご紹介します

 

 

○4年間の緩和ケア病棟を退院された患者さんは474人です

その中で「入院3日以内の死亡退院」は18名(3.8%)でした

この数字が多いのか少ないのか私の調べた範囲ではデータがなかったので判断ができません

「3日以内」ということにした根拠は、当病棟では土・日・休日の入院は原則ありませんので、もし金曜日に入院されると土・日の急変があった場合には体制上厳しい状況であることを考慮したからです

 

○絶対数が少ないので統計的には正しいものではないのですが、一定の傾向を述べます

・男女比では男性に多い傾向がある

・年齢には特徴はない

・主病名にも特徴はみられない

ということでした

 

○しかし18名のなかで「入院時、あるいは入院後に急変の予測が可能であった事例」は9名、「まったくの予測外の急変例」が9名でした

以下「予測外の9名」に関して述べてみます

・肺癌が4名/9名と44%を占めていました

474名中肺癌は125名(26%)であることから、急変例は肺癌が多くみられます

・その原因は窒息や突然の呼吸停止などでした

・入院期間が1日、2日、3日となるほど予測外の急変が多い傾向にありまし

それはおそらく入院当初の意識レベル、バイタルサイン、緊急検査での異常値(高カリウムなど)などから予後がきわめて厳しいという判断ができていたためと思われます

 

○繰り返しになりますが、件数が多くないので印象であるとしか言えませんが、これらの結果から感じたことは

①3日間でみると「予測外の急変」は「予測可能な事例」と同数

②肺癌に予測外の急変が多かった

そのため入院時に窒息や突然の呼吸停止の可能性を私たちが意識すること

が必要と思われます

ご家族との面談時にも考慮すべきでしょう

③「重症」患者さんの急変は2日目、3日目と多くなる傾向にあり、注意が

求められます

です

 

○次にもう少し深めてみたいと思います

 

まずつぎの図を取り上げます

出典はhttps://nursepress.jp/226825です

256-01

上記に示されるように、癌患者さんは死亡の1~2か月まえから急速な悪化を示すことが多いと言われています

緩和ケア病棟に入院してこられる方の多くはこの時期にさしかかった患者さんあるいは状態が悪化している患者さんでしょう

 

この時期を過ごされるための支援を行うことが緩和ケア病棟の大きな役割のひとつと位置付けています

その中で、「予測外の急変」が起こった場合には患者さんはもちろんのこと、ご家族も突然のことに戸惑われ、受け入れが難しく、悲しみも深くなるでしょう

緩和ケア病棟で大切にしている「お別れのための時間をどう過ごされるか」ということも実現できないまま旅立たれることになります

 

短い時間ではあってもそのための準備を支援するために、「重症、または急変の可能性」を感じたときには、入院後の早めの面談やご家族に「急変の可能性」に関して言及することが私たちにとって重要な課題となります

患者さんの様子から医療者がどれだけ早く判断できるか、日頃の学習や経験、意識づけが大切になってきます

 

実際には困難な場合がほとんどかもしれませんが、ひとりでも悲しむ事例がなくなることを期待したいと思っています

 

 

これからさらに5年目、6年目…と積み上げていけば、またちがった事実が見

えてくるかもしれません

今はここに述べたようなことを十分に意識しながら努力していきたいと考えて

います