人生の締めくくりの数か月~数週間

どのように過ごされるか

みなさん様々です

それまでの生き方や姿勢がそこにあらわれることも多くあるようです

 

まだ若いといっていい女性でした

 

腹満感と腹痛で緩和ケア病棟に入院してこられました

お薬などで身体的な症状はやわらげられていました

 

「おうちに帰れるかしら?」

まず外出あるいは外泊をしてみましょうということになりました

 

でもひとりでは何もできなかったことに自信をなくし

この病棟で最期を迎えたい

と心を決められました

 

症状は緩和されていても

客観的な病状からは

予後は長くないと予測されます

 

彼女にとって大事なときを

どのように過ごしていただくか

スタッフは色々と働きかけてくれました

 

ちょうどそのときに

病棟では音楽会がありました

前のブログでご紹介した医学生たちの演奏会です

 

笑顔で聴き入られ

いっしょに歌い

涙を流されました

 

すべての入院患者さんとご家族が

いちどに入れるスペースがないことが弱点です

2回に分けての演奏でした

 

2回目の演奏にも

「歌声に誘われました」と

参加されました

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この日の夕食はいつもより食べることができたようです

 

ある晴れた日

看護師さんが

「お昼から散歩に行きませんか?」

と声をかけました

 

私たちの病院を出ると

すぐ商店街です

琉球民謡の音が聞こえてきました

「行きます!」

との元気な返事

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ちょうどそばにあったベンチに

看護師さんと腰かけ

心地よい風に吹かれ

琉球民謡の太鼓や三線

マイクを通しての歌声

…穏やかに時間が流れます

 

「この病院にきてほんとによかったわ」

 

 

朝の申し送りに耳を澄ましていると

おもしろい(?)話が聞こえてきました

 

患者さんがこのような話をされたのよ と看護師さん

「最近毎日のようにお父さん(ご主人)が出てくるの

『しんどいんじゃないの? こっちへ来ないか?』

って聞くのね

いつ行ってもいいよって返事をするの

毎晩同じやり取りをしてる」

 

そして

「壁とベッドの間を少しだけあけておいてね

お父さんがそこに立てるようにね」

 

仲のいいご夫婦だったのでしょう

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「わたし食べたかったものがあるの」

ご家族と外出の相談をされています

 

―――きっとこれがさいごの外出になるのかもしれないな

OKしました

 

数日前から

楽しみにされ

毎日の回診でもその話ばかり

 

「好きなものをいっぱい並べてもらったの

すごく気分転換になったわ」

「週にいちどは行きたいな」

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笑顔で帰ってこられました

 

それからはしだいに食べ物が通らなくなり

眠られている時間が増え

 

2週間ほどで

旅立たれました

 

今あらためてふりかえると

彼女は

 

―歌声

―様々な音

―食べ物のにおい

―顔をなでる風

―夢の中の…

―取り巻くひとたち

―ご家族

 

たくさんの人や物、かたちにならないものなどに

囲まれながら

さいごのときを

過ごされたように思います

 

私たちは毎日

このようなあたりまえの日常を

患者さんやご家族さんたちと

共有させていただいています

 

 

…………蛇足なのですが

 

彼女の調子が悪くなりかけたとき

私はどうしても病院を離れないといけない用事がありました

 

看護師さんとは電話でやり取りをしながら

ずっと気になっていました

 

用をすませて病院に着いたのが

夜でした

そのまま病室を訪れました

 

旅先で手に入れた

“お守り”

をおわたしすることができました

11月最初の日曜日のこと

よく晴れた日ですが寒さが一日ごとに身に染みてきます

 

病院横の商店街で

毎年恒例の「こなもん祭」がありました

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年々にぎやかになってきています

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順番待ちの長い列が続いていました

 

看護師さんたちもお客さんとして…

「一つずつしか買えませんでした」と

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大混雑です

交通整理のひとたちもたいへんです

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右手が病院の裏口

そこから出るとこのように小さな広場

 

ときどきイベントが行われています

今日は家族連れで満席でした

 

患者さんやご家族は参加されたのでしょうか?

私はこのあと忙しくて食べ物にはありつけませんでした

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やっと見つけた路地を入っていきました

車がすれ違うのがやっとの広さに

ここでいいのかしらと不安になったそのとき

目の前に目的地が…

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玄関です

迎えていただいたのは

先日講演をお願いした徳永進先生

 

みんなの感想文を携えて訪問させていただきました

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鶴見俊介さん――あの有名な哲学者です――直筆の表札!

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玄関を入って見上げると

これまた著名な

詩人、谷川俊太郎さんの直筆の詩!

 

圧倒されました

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蔵書がたくさん

この場所でお話をうかがいました

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そこから見える中庭

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2階からだとこんな感じ…

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病室です

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ご家族がリラックスされるお部屋(?)

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デイルームですね

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ボランティアさん手作りの・・・   使い道は・・・

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壁にはいたるところに素敵な詩がありました

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屋上からは鳥取城跡が望めます

その横の丘へは

先生が気分転換によく行かれるそうです

 

講演のお礼とともに

野の花診療所の見学をさせていただき

あちこちカメラに収めました

 

お忙しい先生から

たくさんのお話が聞けました

 

有床診療所であることの課題

看護師さんの体制のこと

全国での講演をされるときの近隣の先生との連携

などなど

 

ほんわかとした姿からは想像できないくらいの

バイタリティあふれる患者さんや仕事への情熱

 

大きな刺激を与えていただきました

 

以下はおまけです

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鳥取砂丘と日本海

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気になっていた喫茶店 アイスウインナーコーヒーのすごかったこと

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ずっと行きたいと思っていた

青山剛昌ふるさと館と米花商店街

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倉吉の白壁土蔵……ノスタルジックな

 

神戸に帰ってきて

看護師さんたちに報告したところ

野の花診療所にはぜひ行ってみたいと言われました

(カニの季節がいいですね)

3周年記念集会の感想(とくに徳永進先生の講演)の一部ですが掲載します

170人ほどの方から寄せられました

☆出会った患者さんのエピソードを交えた、おもしろおかしいお話、ありがとうございました。ターミナルケアではふさぎがちな出来事も楽しいこともある(人生だからいろいろあるね)。あっけらかんとあけっぴろげな先生の人間性がすてきだと感じます(人間関係が築けているということですね)。貴重なお話、ありがとうございました。

 

☆徳永先生の話は、大変面白く聞かせていただきました。でも、全て現実のことで、いろんな死の迎え方があり、それを受け止めて迷いながらケアされてきたお話をたくさん聞かせていただき、とても感動しました。「緩和ケア」その時々のエピソードがありすぎて、びっくりしっぱなしでした。これからいろんな人生の最後に向かう生活にたずさわっていくと思いますが、先生の話のことを思い出して、前向きに細かなことに気づいていきたいと思いました。ありがとうございました。ハーモニカ、とても良かったです。

 

☆希望する人がすぐに入院できたらいいですね。皆様の熱意が伝わってきました。徳永先生のことは、3年前に日経新聞で見て、ぜひ一度お話をお聞きしたいと思っていたので、今日は本当にありがとうございました。各ケースをたくさんお話してくださったので、大変感動しました。緩和ケア病棟のスタッフの皆様、素晴らしいお仕事です。

 

☆家族にステージ4の乳がん患者がおり、1年以内にはお世話にならなければいけないかもしれないと思い、やってきました。ですが、西神戸で唯一、わずか19床しかないなど、入院させてもらうのは至難の技の狭き門だなと感じました。でも、差額ベッド代なしの個室で、ゆっくりと経済的な心配をせずに過ごさせたいし、春夏秋冬の行事やボランティアの人たちとのふれあいで、人間的な楽しい一時が最後に送れそうで、ぜひ入院させたいと思います。他の病院では、テレビを一日中眺めるしかなくて、医師、看護師さんたちは、治療行為だけで忙殺されているので、話し相手にはなりません。早急に緩和ケア病棟が増えることを望みます。

 

☆3年間の取り組みは素晴らしいと思います。一人一人がとても大切にされ、残された時間を少しでも喜びのあるものにしようとされるお気持ちがよくわかり、自分もこのように最後が迎えられたらいいなあと思いました。できたら、もっともっと病床を増やしてもらえたらと思います。とても辛い状況を、ユーモアを交えて笑いを誘いながら話される先生の背景に、幾多の困難を乗り越えられた先生の強さを感じました。看護に大切なことは、普通の言葉、普通の行為が大切とわかりました。

 

☆スライドを見て涙しました。徳永先生の話は、楽しく笑いながら、重要なことを学ばせていただきました。ハーモニカも良かったです。忘れられない浜辺の歌になりました。ありがとうございました。

 

☆新聞で講演会を知り、参加しました。徳永先生のお話、良かったです。

 

☆久しぶりに不思議な講演でした。おなかのそこから笑った。個人的に落ち込んでいたのが、「これだ」と思った。徳永先生、ありがとうございました。

 

■以下は医療者の感想(おそらく)です

☆先生の講演、すばらしかったです。看護師として、病院、在宅で様々な患者さんの最後を看取らせて頂きましたが、人それぞれでした。マニュアル等ありますが、決してその通りには行かない…同感です。常に患者様の言葉に耳を傾け、その場、その人にあわせて接する様にして来ました(心がけてきました)。“手・足・声・心”大切ですね。今後もそれを心がけて、アプローチできる看護師でありたいと思いました。講演中、亡くなられた患者さんとの思い出が思い出され、涙が出ました。ありがとうございました。

 

☆ユーモアたっぷりの徳永先生の講演は、聞いてて楽しかったです。「死」は病院で働いていると、どうしてもマイナスのイメージがつきやすいですが。誰にでも起こること。悲しむことよりもいつも通り過ごす事の大切さを改めて感じました。5年前、自宅で祖父を母や弟と見送りました。膀胱ガンが肝転移して末期でした。自宅で1ヶ月過ごして旅立ちました。あのときの家族としての想い、今医療従事者としての想い、毎日混じりながらかかわっています。

 

☆徳永先生の楽しい講演を聞いて、患者と向き合う姿勢等、あらためて学ぶことが多かったです。本当に明るい気持ちになって、患者ともっともっとたくさん会話をしたいと思いました。素敵なエピソードがいっぱいで、私も患者といっぱい素敵なエピソードがつくれるようになりたいです。

 

☆徳永先生、とても素敵なお話ありがとうございました。先生のお話には、あらためて考えさせられる所がたくさんありました。とても楽しく、時には感動しながら聞くことができました。私は緩和ケアに関わりだしてまだ半年程度です。しかし、この半年の間でたくさんの患者様、家族様に出会うこと、別れることがありました。そんな一つ一つの出会いを思い出しています。まだ始まったばかりで手探りですが、今日のこの貴重なお話を、今後の看護に活かしたいです。

 

☆徳永先生のお話の中で、印象深く残ったのは、決まる力、決める力があるという話しは、「なるほど」と、新たな学びでした。ありがとうございました。

 

☆日々のケアの内に埋もれてしまう、看護師としての大切な心を、楽しいお話を聞かせていただきながら思い出すことができました。ふとした時に、今日のお話を思い出して、なぜ看護師になろうと思ったのか、なぜ緩和ケアに関わろうと思ったのか、自分の原点を忘れず働いていきたいと思います。

 

☆臨床には、まだ出たことのない者ですが、教科書や学校では学べない、聞けないお話を聞くことができ、大変勉強になりました。ありがとうございました。(看護学生のようです)

 

☆笑いをたくさん織り交ぜて、わかりやすくお話していただき、いろんなことを考えるきっかけになりました。緩和ケアに関わっていると、多くの方の人生にかかわることになり、一人ひとりの人生の重みを感じることが多く、失う家族の痛みを目にすることもたびたびです。死を多く目にすると、生きていることが当たり前ではない、なんでもない毎日も大切にしないとと思うのですが、今日のお話を聞いていると、そんなに気張って考えなくてもいいのかなと思うようになりました。死は特別なものではなく、日常の延長線上だなって、構えて考えすぎなくていいのかなと、少し気が楽になりました。

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実行委員会には「10/8の記念集会」の準備と同時に、記念誌の発行という大きな役割がありました

 

みんなで原稿を書き

患者さんやご家族に写真掲載の許可を得るための手紙を出したり

何度も印刷業者と話し合ったり

急いで、慎重に進めてきました

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集会に参加された方々にお贈りいたしました

 

そのさいごに「まとめにかえて」と題してこれからの課題を私見として載せてもらっています

 

ここに再度掲載したいと思います

 

 

まとめにかえて

―――神戸協同病院緩和ケア病棟のこれからの課題

 

 3年間は長かったように感じています。

 しかし緩和ケア病棟としての経験は浅く、振り返るとこれでよかったんだろうかと反省することがたくさんあります。

 関係する職種・スタッフで何度も話し合い、研修や見学、学習会を通じてイメージを共有してきました。その作業は現在も続いています。

 記念誌をまとめることもその一環でありました。まとめにあたってのテーマを「苦労と感謝」としました。内外の多くの方々に支えられたことを感謝いたします。

 目の前の課題をなんとかこなしながら、同時にこれからのことを考えることも私の務めであると自覚し、以下に整理することでまとめとさせていただきます。

 

Ⅰ.私たちの力量アップ、職員の教育、研修の受け入れ

  ○学会や研究会への参加、他の緩和ケア病棟との交流などを通じて疼痛緩和をはじめとした力量の向上をはかること

  ○緩和ケアが未経験の医師や看護師の研修受け入れ、院内/法人内の短期研修受け入れやコンサルト力をつけること

  などが求められており、そのための努力を重ねます

 

Ⅱ.診療報酬改定への対応

  ○ホスピスの理念を大切にしつつ、現実の制度への対応をしていかなければいけないと考えています

   毎日の到達の把握ときめ細かな対策が求められています

  ○患者さんやご家族に迷惑をかけず目標を達成するために、多くの人の知恵を借りながらカンファレンスの充実を中心として対応をしていきます

 

Ⅲ.連携の強化

  ○院内、法人内連携/院外医療機関との連携

   スムーズな面談・入院が一層求められています

   そのためにこれまで面談の枠を増やしたり、臨時面談を行ったりしてきました

   また直接の緊急入院ができないため、一般病棟の協力も得ながら少しでも早い入院に心がけています

   今後さらに他の医療機関の取り組みを参考にしながら期待に応えられるよう努力します

  ○他科との連携(精神科、放射線科、麻酔科など)

   放射線科や麻酔科(ペインクリニック)、精神科は当院にないため、疼痛ケアや精神的な苦痛のケアに関して不十分さを感じることがあります

   専門科を持たれている医療機関との連携をさぐっていくことが課題です

 

Ⅳ.「地域包括ケア」の一環として

  ○神戸協同病院では在宅医療・訪問看護の歴史が古く、蓄積や教訓がたくさんありま   

 すが、外来や在宅での緩和ケアに関してはこれからの大きな課題となっています

  ○最近は緩和ケア病棟への依頼だけでなく、外来でのフォローや在宅医療への紹介が増えてきました 

そのため緩和外来、在宅ターミナルケアの短期・長期の展望づくりが求められます

  ○関連する医療者(とくに医師、看護師、薬剤師、介護職)の連携が重要です

  

Ⅴ.これからの緩和ケア病棟を展望して

 平成30年度日本緩和医療学会総会でWHOの緩和ケアの定訳が提起されました

 「緩和ケアとは、生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者とその家族のQOLを、痛みやその他の身体的・心理社会的・スピリチュアルな問題を早期に見出し的確に評価を行い対応することで、苦痛を予防し和らげることを通して向上させるアプローチである」

私たちにとっては「QOLを向上させるアプローチ」が中心テーマになるでしょう

なかでも、

  *早期からの緩和ケア

*患者さんの尊厳(人権)を守ること

 *アドバンスケアプランニング(ACP)

  *トータルペインのケア

 を考えていきたいと思います

 

これからも引き続きのご支援をよろしくお願いいたします。