「緩和ケア病棟で出会った患者さん、印象に残っている患者さんのお話を聞かせてください」とお願いしたところ、がんばって文章を書いていただきました

若手の看護師さんです

 


▼印象に残っている患者さん

 

自宅で食欲が低下し入院の運びとなった終末期がんのAさん。もともと病院嫌いで、入院する前から「絶対に病院では死にたくない」「最期は家で死にたい」と繰り返し家族様に話しており、家族様もAさんの希望を叶えたいという思いがありました。

一方で、新型コロナウイルス流行によって病院では面会制限があったため、家族様は直前までAさんの入院を悩んでいました。Aさんも家族様も症状が改善した後は早期の自宅退院を希望していました。

家族関係は良好でAさんの入院生活が退屈にならないように、家族様がテレビゲームなど差し入れを持ってこられていました。

しかし、徐々にAさんの病状が悪くなり、治療に必要な医療処置が増えていきました。

一度ご家族様をお呼びし、医師から「病院での看取り」を含め、厳しい状況であることが伝えられました。Aさんにはせん妄の症状も出現し、暴言や看護師を足で蹴るなどの行動がみられていたため、病棟スタッフ間では、女性が主となる家族の介護力では、自宅退院は難しいと判断していました。

一方で、家族様は、Aさんと面会できないまま入院期間が延びるにつれて「病院で最期を迎えるかもしれない」という不安が大きくなっていきました。その結果、家族様からの電話は感情的で、攻撃的な発言が多くなっていきました。「コロナウイルス流行で退院できない」のではなく、「医療的な処置が必要なため自宅退院が難しい状況である」ことを、何度も説明しました。しかし、依然として面会はできない状況のため、本人が今どういう状況なのか直接見て頂く事もできず、家族様の理解は得られないままでした。Aさんのせん妄も持続しており、Aさんの「今の退院に対する思い」も確認することができず数日が経ちました。とても、もどかしく感じていたのを覚えています。

 

家族様と病棟スタッフの方向性の違いは平行線をたどっていたため、1度話し合いの場を持つことになりました。

「Aさんに必要な医療処置は、病院で100できることが、自宅では60しかできない」

「自宅だとできないことが増えるため、Aさんの苦痛が増す可能性がある」

「『自宅で看取る』という家族様が満足感を得るために、Aさんが苦しい環境に

身を置くことになるかもしれない。それはAさんにとって望ましいことなのか」

 

話し合いの後も家族様の発言は一貫して変わらず。

「それでも、家に連れて帰りたい」「なんとかします」

 

 

病棟スタッフ間でも様々な意見が出ました。

「家族様は現状を冷静に判断できる余裕がないのではないか」

「本人の意思確認が困難な状況で、苦痛症状が多いAさんを、十分な医療が提供

できない自宅へ送るということは医療者として正しい判断なのか」

 

懸念される点は多く残りましたが、家族様の希望は変わらなかったため、退院方向で調整を進めることになりました。

そして、いよいよ自宅退院の日を迎えました。家族様は看護師に深く礼をされました。

 

数日後に、家族様の見守る中、自宅で永眠されたようです。

家族様からお手紙が届きました。

「本人の願いが叶えられました」

「看護師さんにきつい言葉で当たってしまってすみませんでした」

「大変ご迷惑をおかけしましたが、看護師さん達にはとても感謝しています」

 

「最期は自宅で」と希望される患者様やその家族様は多くいらっしゃいます。

以前のように、家族様と一緒に誕生日や記念日を祝ったり、季節ごとの催し物へ参加など、できなくなってしまいました。本来の緩和ケア病棟の強みは、コロナ渦の今、多く奪われてしまっています。家族様と直接お話しする機会も減ってしまいました。

まだまだコロナ流行の勢いは増すばかりですが、そんな中でも、私たち看護師は、日々の関わりの中で、患者様とその家族様が望むそれぞれの最期を迎えられるよう、今後も精一杯支援できるよう努めて参りたいと思います。

 


 

つづけてわがままを言わせてもらいました

「緩和ケアを選ばれたきっかけも教えてもらえれば……」

 


 

▼私が緩和ケアを選んだ理由

 

私がまだ新人看護師の頃、祖父は膵臓がんの診断をうけました。百姓で身体が丈夫だった祖父は、なかなか良くならない背中の筋肉痛がきっかけで病院を受診し、がんが見つかったようです。

すでにがんは進行しており、手術ができない状況でした。医師に化学療法を提案されましたが、もともと病院嫌いだった祖父は、「管だらけになってまで長生きしたくない」「最期は家で死にたい」と。

退院後の祖父は痛みと闘いながらも、食べたいものを楽しめていたようです。私を含め、親戚中が集まり、数日おきにお見舞いに来ていました。最期は家族や愛犬に囲まれて迎えました。

「急に死ぬわけじゃない。がんは家族にお別れを言う猶予が与えられている」と。予後が短いにもかかわらず、満足そうな顔で話していたのをよく覚えています。

私が緩和ケア病棟を選んだのは祖父の、あの言葉がきっかけでした。「○○を食べたい」「家族と過ごしたい」など望むことはそれぞれ違うと思います。限られた時間の中で、最期まで患者様が自分らしく過ごせるように支援し、その方の人生の終末に関われることは、とてもやりがいがあり、誇りを持てる仕事だと思いました。

325-01

 


 

毎日元気でがんばっていただいています

これからもよろしくお願いいたします