私たちの病棟では以前ボランティアさんたちの力を借りてベランダでたくさんの花を植えていました

これは2016年6月のブログに載せた写真です

ひまわりにみんな元気づけられたものです

コロナ禍でこのような取り組みがまったくできなくなり

ベランダは寂しい状態でした

病棟でリハビリを担当している理学療法士さんが患者さんたちの声を聞きました

「お花を見ながら四季を感じたいなあ」

「ただただ自然に触れたいです」

「植物をきっかけにいろんな話がしたいよ」

などなど

理学療法士さんは思いました

――お花などをきっかけにしてQOLの向上がはかれるんじゃないのかしら

そこで

お花を中心にしたリクレーションを考えてくれました

例えば

一輪挿しの容器づくりはどうだろうか

押し花もいいなあ

病棟のカンファレンスに提案され

さっそく庭の散歩と園芸作業を再開しましょうということになったのです

さっそくお花を植えました

これからたくさんの花が咲き

みんなの笑顔がいっぱいになることを期待しています

あらためてこの取り組みの目的を確認しました

――風や光、色彩や香りを感じることができる心和む風景を提供したい

当面はリハビリスタッフが中心となりますが                                                  

今後は中断していたボランティアさんの再開も検討されており

前のような華やかさを実現させていきたいと思っています

先日上記の集会が開かれ、約200人が参加しました

私たちも所属する医療福祉生協連の「いのちの章典」ではつぎの5つの権利と責任が述べられています

                                            

<自己決定に関する権利>

私たちは、知る権利、学習権をもとに自己決定を行います。

<自己情報コントロールに関する権利>

私たちは、個人情報が保護されると同時に、本人の同意のもとに適切に利用することができるようにします。

<安全・安心な医療・介護に関する権利>

私たちは、安全・安心を最優先にし、そのための配慮やしくみづくりを行います。

<アクセスに関する権利>

私たちは、必要な時に十分な医療・介護のサービスを受けられるように社会保障制度を改善し、健康にくらすことのできるまちづくりを行います。

<参加と協同>

私たちは、主体的にいのちとくらしを守り健康をはぐくむ活動に参加し、協同を強めてこれらの権利を発展させます。

                                               

今回組合員と職員の日頃の実践の報告と交流を目的に開催されました

                                            

最初に寸劇でいのちの章典を分かりやすく説明してもらいました

                                          

                                                                                      

全体会では、順天堂大学教授の武田裕子先生から「いのちを守り健康をはぐくむSDH(健康の社会的決定要因)の視点」と題して講演をいただきました

具体的でわかりやすかったと多くの参加者から感想が出され、「今日の話をまわりに知らせていきたい」「もっと勉強したい」と今後の自己学習につなげるような意見がありました

                                           

                                          

私が今勉強している総合診療に通ずるものがあります

当然緩和ケア病棟での仕事にも・・・

                                           

                                            

午後からは8つの分散会にわかれ、実践の報告と交流が行われました

地域や職場での日常の活動が生き生きと報告され

地域の組合員と職員が熱心に討論しました

                                          

                                            

終了後の実行委員会では成果や教訓、課題が話され、つぎ(2年後?)はさらに章典の内容に切り込んだ発表ができればと期待を持ちました

                                            

                                             

私は最初のあいさつで以下のようなことを話しました

                                             

いのちの章典の前文にはつぎのような「健康観」が書かれています

――私たちが大切にする健康観は「昨日よりも今日が、さらに明日がより一層意欲的に 生きられる。そうしたことを可能にするため、自分を変え、社会に働きかける。みんなが協力しあって楽しく明るく積極的に生きる」というものですーー

この解釈について私の若干の思いを話しました

(まだ未熟な内容ですのでここでは割愛をいたします)

                                               

                                             

またいのちの章典を私は以下のように受け止めたいと思っています

                                              

1)「こういうものだ」と固定的にとらえないこと

「こうじゃないだろうか」「このこともそうだろうか」「いやこれはそうじゃないのでは」など、たえず私たちの生活・仕事・活動の場で考えていくものとしませんか?

2)特に「自己決定に関する権利」はもっとも難しいことです

ともすれば「あなたのことだから自分で決めなさい」と突き放されるようなことはありませんか?

他の項目は社会に働きかけることが多いのですが、自己決定に関しては一人ひとりの人生観や努力が求められます

私たちの暮らす社会では「共同の意思決定」も大切ではないでしょうか?

3)実践にあたって、一つひとつの項目を大切にしながらも、すべてがバランスよく行われることが望ましいです

看護師さんたちは定期的に「看護研究事例発表会」を開いており、今回で51回目になります

                                    

日頃の取り組みや気になる患者さんのことなど紹介と討論を行っています

今回初期研修を終えた二人の看護師さんの発表が心に響くものでしたのでブログにアップしました

                                   

                                      

一人の看護師さんは病気の理解が困難な患者さんに粘り強く取り組んできました

病気の悪化予防に焦点をあてた丁寧な看護実践でした

まとめの中に「患者さんの生活背景や価値観の把握」「個別性の重視」「家族との関わり」など大切な総括がされていたと思います

                                     

もう一人の看護師さんは終末期の患者さんの外出したいという望みを叶えるために、その準備から悪化時の対応、当日には同行してのケアなどを行ってきました

患者さんはご家族と大切な時間を過ごされ、とてもおだやかな時だったそうです

ここでも「価値観や思いを大切に」「納得した意思決定支援」など重要なワードが述べられていました

                                         

この二人の実践は今後の看護師としての生き方に影響を与えてくれるものになるのではないでしょうか

将来迷ったり悩んだりしたときに思い出してほしいなとつよく思いました

他にも研修中に貴重な経験をしてきた若い看護師さんたちがきっといるでしょう

                                     

このときに考えたことがあります

開会時のあいさつにも一部取り入れました

  • 患者さんや利用者さん、ご家族の個別のニーズに対応しながら、どのような状況であっても丁寧な看護を提供しています                急性期、慢性期、リハビリ、終末期、外来、透析、在宅など看護が必要とさ れている場面で深く関わってきていることが特徴です
  • 患者さんたちの物語性を重視していますある文献に載っていたことを引用します                              「優秀な事例報告が、その個々の事実をこえて普遍的な意味を持つのは、               それが物語として提供されており、その受け手の内部にあらたな物語を呼び起こす動機を与えてくれる」                    医師の分野では疾患のことが中心になりがちですが、この物語性が感動をもたらすのでしょう
  • この発表会が将来の看護実践に対してのヒントになっています             過去の研究が今に、現在の発表が今後の取り組みに対しての刺激となっていると思います

                                                                           

私自身みずからの仕事を振り返るいい機会となりました

これからも取り組みの継続を期待しています

Tさんのお話です

80歳代のTさん

病気が見つかったときにはすでに転移しており抗癌剤治療や放射線療法、胸水ドレナージなど可能な治療を受けてきました

当院には治療後のリハビリテーション目的で入院となりました

しかし痛みと呼吸困難があり緩和ケア病棟への依頼となりました

                                     

面談時の会話です

Tさん;

  娘が治療を望んでいるので治療を続けた方がいいのかなと思っていたけど

  私の体力ではもう抗癌剤は無理

  自宅には帰りたいです

  でもみんなに迷惑をかけるので…

娘さん;

  これまでは母が抗癌剤を続けたいのかやめたいのかわからなかった

  私は抗癌剤をやめるともっと病気が悪くなるんじゃないかと心配でした

  (退院については)母は家に帰りたくないのかと思っていました

とそれぞれのお気持ちや受け止め方にいくらかのずれがあることがわかりました

これからのケアを行っていく上で配慮が必要な課題です

                                     

                                      

看護師さんから「Tさんが面談後に元気をなくされているようです」と報告を受けてあらためてTさんと話をしました

Tさんは私の顔をしっかりと見て話を聞いてくれています

しかし倦怠感が強いのか返答が返ってこないことがあります

とくに医療用麻薬の内服がしんどうそうなので皮下注射という方法があることを説明したときには「反応がいまいち」だったと同席した看護師さんが教えてくれました

娘さんはしだいに弱っていくTさんをみて

「母は最期はホスピスで見てもらいたいといっていました」

「でも今はそのことへの返答がなく、あなたはもう長くないんだよと言われているように受け止めてしまったんじゃないかと…」と困惑されています

その後の看護師さんからの丁寧な働きかけがありTさんは緩和ケア病棟に来られることになりました

                                    

                                    

転棟後に医療用麻薬の持続皮下注射を了承されさっそく開始しました

病棟の雰囲気や細やかなケア、医療用麻薬の効果などがあり、徐々にTさんは元気を取り戻してきました

入浴ができて気持ちがよかったと話され、娘さんは飛び跳ねるように喜ばれます

呼吸困難が軽減し酸素量が減りました

食事は「食べてるよ!」と聞き、さらに大喜びの娘さん

差し入れも食べてくれました

                                     

                                      

あるとき娘さんは看護師さんに涙ながらに感情をぶつけられました

「私のせいで母は悪くなったんです」と泣き出されました

「私の介護の仕方が悪く入院させてしまって母のこれからの時間を奪ってしまいました」

「苦しいとき母は我慢していたと思います。そのことに気づいてあげられなくて…。気づいていれば違っていたのじゃないかな」

「でも母はあなたのせいじゃないよって言ってくれたんです」

これまでのことを思い出しながら悔やまれています

涙はけっして悪いことじゃなく、心の内を話すことで娘さんが気持ちを整理されようとしていること、そして私にお話ししていただきうれしかったです と看護師さんは応えました

                                     

                                     

調子のいい日ばかりではありません

暗い表情のときには娘さんも同じように暗い顔をしています

少しよくなってきたと判断してそれまで行っていた皮下注射を飲み薬に変えていました

その中での母娘の会話です

Tさん;「薬を飲むようになってからとてもしんどくなってきた」

娘さん;「お母さんは注射の方がよかったの?」

Tさん;「そうなの」

この話を娘さんから伝えていただき私たちはケアの方針を変更しました

                                                                           

                                                                          

Tさんも娘さんもイライラしているときがありました

「みなさんの勧めてくださるお食事を食欲もないのに無理に食べないといけないと感じているようです」と娘さんもストレスいっぱい

娘さんからお話が聞けてありがたいと感謝を伝え

娘さんにしか言えないことだったのでしょうね、娘さんのストレスは私たちがお聞きします

と看護師さんは娘さんに約束をしました

このようなことは他の患者さんの場合にもあります

医療者には言い難いことをご家族や友人を通じて話されることなど

私たちの力不足を感じるときです

                                      

                                          

しんどい日が増えてきました

Tさんは自分の感情を率直に話してくれるようになってきました

「しんどいんです」と暗い表情

看護師さんは「車いすに乗って外の風にあたってみませんか」と提案

Tさんは嫌とはっきり拒否しました

娘さんは提案に対してぜひともお願いします!と前のめりな様子

しかしTさんはやはり拒否されています

                                       

                                          

あるとき娘さんがフロアで涙ぐんでいました

「私たち家族は母に一日でも長く生きていてほしい。でも母の姿を見ているともう生きていたい気持ちはないのかなと思ってしまいます」

「以前に退院したいのかを聞いたことがありましたが、帰りたくないと言っていました」

「母にとってはここ(緩和ケア病棟)が安心できる場所なんだと思います」

以下は看護師さんのカルテ記載からの引用です

――娘さんとしては寂しい思いを感じながらも現状を受け入れようとされている。娘さんの存在がTさんにとってかけがえのないものであることはスタッフにきちんと伝わっていることをお伝えした。Tさんがつらくないように過ごしていただくことを目標にご家族とも共通の思いでケアをしていくことを再確認した――

*傾聴という言葉があります

患者さんやご家族自身が自らの意思で自由に話せるように環境を整えることが大切で、医療者が患者さんやご家族から話を聞きだすことではないでしょう

この人の前だとつい話を聴いてほしくなってしまうという雰囲気が大事です

患者さんやご家族の価値観がその話の中に現れ、自然と患者さん・ご家族の気持ちが整理されていくのではないでしょうか

                                          

                                         

意識がぼんやりとしてきました

看護師さんは娘さんの話を聴く時間をとりました

「今まで母は私がそばにいることを嫌がり、一人でいることを好むという様子でした」

「病気になってもかまわれることを嫌がり、面会の時には看護師さんの邪魔になるから早く帰ってねと言われたりしました」

「それでも少し離れた場所にいてそっと付き添っています」

娘さんは話しながらTさんの身体をさすっています

Tさんをみると会話が聞こえているのか穏やかなお顔です

                                           

                                         

いよいよの時が近づいてきたようです

ご家族がそばにいることでTさんは安心されていると思いますよとお伝えしました

刺激があればうっすらと目を開けようとします

でも苦顔は見られていません

ときには娘さんの姿をじっと見つめ、娘さんの表情は和らぎ、母娘ふたりの貴重な時間を過ごされています

ほとんど声を出すことがありませんでしたが

娘さんが帰るねと呼びかけると

「ありがとう」とかすかに返事をする声が聞こえ、娘さんは安堵のご様子

他のご家族が到着されました

みなさん感謝の言葉をかけられています

「お母さんには感謝してるよ」

「よくがんばったね」

「このような優しい顔で過ごせているのが見れてうれしいです」

「いっしょに過ごせる時間を作ってもらえるとは思っていませんでした」

―――コロナ禍で制限のある中での面会でした

                                              

                                         

最期のときがきました

                                           

                                            

おかあさん、ありがとう

いっしょにたくさんの時間をすごせてよかったね

                                             

終末期を迎えた患者さんの思い、ご家族の思いは様々です

ときには矛盾し、また受け止め合い、人生を締めくくられます

その思いに寄り添いながらともに歩んでいくことが緩和ケア病棟の醍醐味だと感じています

                                              

                                            

※書き終わってから気づいたことがあります

・ご家族の予期悲嘆はいかほどだったのだろうか

・娘さんの介護負担の検討は必要ではなかったか

など課題が残されています

いずれ時間をとって考えてみたいと思います

退院翌日の訪問がCさん、ご家族との初対面です

自己紹介を簡単に済ませ、Cさんの状況をたずねました

                                            

倦怠感がつよく、ときに呼吸困難があります

意識はぼんやりとしながらも、体や足の痛みを強く訴えられました

コミュニケーションはかろうじてとれる状況です

予後は「日の単位」と判断しました

今後起こりうることなどをご家族にお伝えし、次の方針を説明しました

                                          

当面の対策です

  • 在宅酸素療法の導入
  • 痛みに対してアセトアミノフェンの座薬

成書にはオピオイドの使用が書かれていますが、保険適応外のため残念            ながら使用ができません

  • 腎不全にともなう吐気があり、ナウゼリン座薬を処方
  • セデーションのことが頭をよぎりましたが呼吸状態を考えるとリスクが高く、すぐの判断は行いませんでした

Cさんはとくに疼痛の訴えがつよく、もうろうとしながらも「痛い、なんとかして!」「助けて!」と叫ばれます

ご家族は「そばで見ていることがつらくなる」「注射で楽に逝かせてあげたい気持ちです」など言われます

しだいに座薬の使用回数が増えてきました

                                                                              

このとき私が感激したことがありました

訪問看護師さんがご家族に「いつでも電話をしてください。私たちは待っています。いつでも伺います」と話されたことです

この言葉でご家族は安心されたのではないでしょうか

ご自宅で看取りを行うという意思をさらに固められ、私がたとえば再入院の希望などをたずねてもその思いは確かなものでした

看護師さんからは頻繁な連絡がきます

痛み止めの座薬が効いてきたのか、自然と意識状態が低下してきたのか少しずつ眠る時間が増えてきました

それとともにCさんからは苦痛の表情が減ってきました

                                          

ご家族は昼も夜もCさんのそばで付き添われています

                                           

刻一刻と変化していくCさんの傍らで見守るご家族

最期は家でと決意してもその心境はいかほどのものがあるのでしょうか?

私たち医療者にとって死は身近なものかもしれません

しかし知識や手立てのないご家族はどうなのでしょうか

だからこそ私たち医療者は患者さんやご家族のすべてを受け入れつつ、寄り添い続ける覚悟が求められているのではないでしょうか

                                               

                                          

そして……

退院して1週間後に旅立たれました

その日の朝には透析室の担当医、看護師さんたちがCさん宅を訪れたと聞きました

                                            

                                          

ある観察研究によれば、

透析中止後は平均して7.4日でお亡くなりになり、75%の患者さんが10日以内に亡くなられるとのことです

さいごは深く眠るように、安らかに永眠されるケースがほとんどと言われています

                                         

                                          

Cさんの在宅療養の期間は長くありませんでしたが

ご家族の力

訪問看護師の力

透析室のスタッフの力

を心強く感じました

これからも「非がん」の患者さんの終末期に関わることが増えてくると思います

いっしょに悩みながらできることを積み重ねていきたいです