Cさんは30年以上にわたり人工透析(以下透析と記載)を受けてきました

その間にはたくさんのことがあったことでしょう

病気に関して言えば、シャントが閉塞して再造設をおこなったり、大きな心臓の手術を乗り越えてきました

入院しながら透析を継続しています

                                                 

80歳を迎えたいま、病状が悪化し入院しています

しかし血圧が低下したり、倦怠感がつよくなって透析を中断することが増えてきました

さらには透析中に意識状態や呼吸状態が悪化することがあり何とか回復にこぎつけていましたが、いよいよ透析を続けることが厳しくなってきました

この状況をみて、担当医は余命は日の単位かと予測しました

                                               

『透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言』(2020年)に記載されている「透析の見合わせについて検討する状態(表)」によれば、

1,透析を安全に施行することが困難であり、患者の生命を著しく損なう危険性が高い場合

・生命維持が極めて困難な循環・呼吸状態等の多臓器不全や持続低血圧等、透析実施がかえって生命に危険な状態

(以下省略)

                                             

Cさんの現状を考え、担当医からは今後の透析実施は厳しいとCさんとご家族に説明がありました

                                           

今回の入院にあたってはできるかぎり透析を続けるという意思でしたが

その話を受けたご家族は透析の継続が無理であれば在宅での看取りを希望されました

Cさんは「家にいたい、けれど家族に迷惑をかけてしまう」

その言葉を聞いたご家族の気持ちは揺れています

きびしい状態であることは理解できても、少しでも長く生きてほしいという気持ちの中で心が揺れ動くのは当然でしょう

                                              

看護師さんたちは話し合いを持ちました

・透析は今後行っても不十分となるだろう

・透析を続けることで苦しい思いをさせたり、命を縮めることになるんじゃないだろうか

・ご家族の「最期は家で過ごさせてあげてい」という思いに寄り添いたい

など様々な意見が出ました

…ところでCさん自身の理解はどうなんだろう

ということでCさんと話をすることになりました

                                               

意識や呼吸が悪化したことはCさんも理解されています

その上での相談です

・これからは十分な透析は難しいかもしれないです

・はじめは最後まで透析をするというお気持ちだったけれど、私たちは無理をすると命の危険性があるのではと考えています

・けれど透析をやめれば1~2週間(の寿命)かもしれません

と厳しくも辛い話をしました

                                               

Cさんは「透析がしんどくてしんどくて、もう十分頑張ったから、家に帰れるなら帰りたい」とご自分の口で意思表示されました

看護師さんはこのときの様子を「投げやりではなく、十分に頑張ってこられた透析生活に満足されているように感じられた」とカルテに記載しています

Cさんは何度も病院や医師、看護師への感謝の言葉を述べていました

                                              

上記の「表」にはさらに次の記載があります

2.患者の全身状態が極めて不良であり、かつ透析の見合わせに関して患者自身の意思が明示されている場合、または、家族等が患者の意思を推定できる場合

また「透析会誌55(10):2022」によれば、

共同意思決定は、「患者が最良の決定を下し、関係者全員(患者・家族ら・医療チーム)がその意思決定過程を共有して合意することが重要である」

患者さん自身の意思表示や共同の意思決定の重要性について述べられています

                                             

                                             

不安と希望を抱えながらCさんはご自宅に退院されました

その翌日から私たちの在宅医療が開始となったのです

時々入院中のAさんからお話をお聞きしています

Aさんは若い頃は労働組合を作って頑張っていたそうです

そのころの話を生き生きとされます

地域の人たちで同人誌を発行され

自分史を連載されていました

私もその一部を見せていただきました

中でも入院前のAさんを知る文章があり

ご本人と奥様の了解を得てブログに掲載します

                                             

                                             

―――しあわせな生活―――

私は年とともに仕事が増えて忙しくなった。

若い頃は休みの日など、朝起きてふとんの上で、今日は何をしようかと

ぼんやり考える時もあったが、今はそんなぜいたくな時間はない。

肺がんをかかえている身には朝起きたら朝食を、昼も夜もきちんと食べ

るから私にとって食事は仕事である。

昨日吞み過ぎて朝食を抜き、昼はラーメンで済ませてもいいの

だが、それを重ねると体調が変になって苦しくなるだけである。

 土曜・日曜・祭日は碁席に行く。

若い頃は楽しみで打っていたが、今は頭の体操のためだから休めない。

雨の日も風の日も無理をしてでも行くから、これは立派な仕事である。

その代わり勝負が済んで相手の口惜しそうな顔を見ると、胸がすーとし

て気持ちも晴々するからこれほど健康に良いことはない。

まさに百薬の長である。

 もう一つ健康に良いのが児童見守り隊である。

マスク越しであっても大きな声であいさつを交わすと、のどの調子が良く

なって息切れをしなくなる。

自然にのどの体操という仕事も出来て、呼吸が楽になるからありがたい

ことである。

そして子供たちと歩くことによって、私の年相応の1日の歩行数が足り

ているのもうれしい。

 結局一応の健康と少しばかりの心配事があっても、何とか毎日をそこ

そこ暮らせて、余った時間をボランティアで過ごせたら、それをしあわせ

な生活というのではないかと今は思っています。

                                                 

                                            

今はコロナ禍の影響からまだボランティアさんたちの力を借りることができず、Aさんの囲碁のお相手探しに悩んでいます

もうひとつ、こども食堂にもたずさわっておられたとのこと

遠い目をしながらその時のことを嬉しそうに語ってくれるAさんでした

私たちの病棟では季節ごとに看護師さんが手作りの作品を窓に貼ったり、ナースステーションに並べたりしてくれています

                                            

今は5月

窓ガラスに鯉のぼりが泳いでいます

そしてナースステーションの窓口には

かわいい鯉たちが目を引きます

                                              

ちなみに鯉のぼりにはいろいろな起源があるようですが

私は「みなさんが苦痛なく穏やかに過ごせますように」 との思いをこめたいです

                                               

                                              

                                           

※追記

前回のブログをアップしてから4か月が経ってしまいました

この間いろんな事情で載せることができずにきています

でもこれからも少しずつ緩和ケア病棟の日常をお知らせできればと考えています

                                              

下町の緩和ケア病棟(105)・・・3年(?)ぶりのクリスマス

コロナ禍で開けなかった緩和ケア病棟のクリスマス会

看護師さんたちの努力で実現しました!

事前に患者さんやご家族にお知らせをしました

看護師さんのかわいい手作りのプレゼントと、栄養科のみなさんによるクリスマスケーキ

そして

ちょっと睡眠不足のサンタです

さあ元気を出して患者さんのもとへ出発です

一人ひとりに手渡しながら

ご家族といっしょに笑顔のショット

スタッフも一緒に写りました

個人情報があるので残念ながら患者さんとご家族の笑顔は載せられませんでしたが、みなさんから普段とはちがう驚きや喜びの顔を見せていただくことができました

私は・・・

トナカイになってくれた看護学生さんとともに・・・

また来年もできればいいですね~

感銘を受けたことば・・・ある小説から

最近読んだ小説に感銘を受けています

緩和ケア病棟で働く看護師さんを中心とした様々な出来事

患者さんやご家族と向き合いながら最期の時まで寄り添い、多くの死を見送ってきた

著者の言葉で語られる物語を通して、緩和ケア病棟ってこんなところだったなあと振り返ることができました

物語そのものは小説を読んでいただくこととして(ぜひ読んでいただきたいです)、心に響いた言葉のいくつかを紹介します

◆久々に開催された一般病棟で働く看護師さん向けの緩和ケアの学習会で話しました

「病院で行われる治療は基本的に完治をゴールにしているが、緩和ケア病棟は完治や根治を目指した治療は行わない。だからこそ、ここでの治療に正解はない。常にその時点での最善を考える必要があり、それだけになにをするにも不安はつきまとう」

「ありがとう、と感謝されることもあれば、力になれず悔しい思いをしたこともあります。看取りって優しくて穏やかなものだけじゃないんですね」

◆2年ごとに開かれる看護師さんたちの集まりーー看護総会でのあいさつでも引用しました

「医師に比べると看護師は集団で患者さんに接するから、個人が目立つことはそれほど多くない。だからこそ自分の一挙手一投足は看護師という職業そのものへの信頼にかかわってくる」

「一人で抱えきれない感情をチームで分担する。そうでなければ仕事としての看護は成立しない」

「一人きりでずっと続けられることなんてないんです。どこかでだれかに頼ったり、任せたりしないと」

◆さらに別のところで書いた文章でも引用しました

「私は、言葉にしたことだけがその人の本心じゃないと思っています。表に出したこと、裏に秘めたこと、その両方を合わせないと」

ほかにももっとたくさんの珠玉の言葉たちがありました 直接目にしていただければと思います