訪問看護ステーションの看護師さんたちを対象に医療用麻薬の「基礎の基礎」についての勉強会を開きました

看護師さんたちの不安が少しでも軽くなればと考えました

 

6月がくれば開設8年目を迎えます

私も初心に返って準備を行いました

 

とくに訪問看護師さんに理解しておいてほしい点を中心に話をしました

*医療用麻薬の種類とそれぞれの利点/欠点、副作用

*定期薬とレスキュー薬の役割と理解

*増量時の注意点

*スイッチングの留意点

 

「怖がる必要はありませんが、十分な『管理』が求められます」ということを強調しました

入院中は看護師さんが管理することができますが、在宅では患者さん自身やご家族の手に委ねることが多くなります

・適正な使用ができているか

・使用回数の変化はどうか

・副作用が見られないか

など

意識してもらうことがたくさんあります

 

 

率直な質問がたくさん出されました

「レスキューの効き方は薬の種類によって異なるのですか?」

「アセトアミノフェンやNSAIDs、トラマールを使っている人への併用はあるのですか?」

「この痛みは突出痛であると判断することが難しいです」

「認知症の患者さんは1日〇〇回が限度と言われてもついつい使ってしまい、それ以上の使用ができないと言われると不安が強くなり困っています」

など

病棟では普通に行われていることでも意外なことで困ったり悩んだりしているのだとよくわかりました

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私も新たに気付かされることがあり、今後必要に応じた勉強会をもちたいと思っています

 

 

8年目を迎えるにあたり

7年間書き溜めてきたブログから少し振り返ってみました

 

☆2015年6月1日オープン

患者さんが必要としています

ご家族が求めています

私たちスタッフはいつでもそばにいること…

たった数分の時間…

それがとても貴重なのです

と書きました

 

☆2016年6月には1年間のまとめの会議をもちました

まだまだ手探り状態でした

 

☆2018年10月 3周年の記念集会を324名の参加で開催(感謝しています)

みんなの力で記念誌を発行

 

☆2019年には「鎮静」や「医療倫理」を考えました

 

☆2020年からは新型コロナウイルスに翻弄されながらも、できることを追究する日々でし

看護師さんたちの文章が増えたのもこの時期です

 

そして8年目がやってきます

初心に返りながらも、時代の変化に応じた前進した取り組みとなるよう努力していきたいと考えています

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私たちの法人の看護師さんたちは看護研究事例発表会を毎年開催し、今年は49回目になります

抄録を読んでいたところ、ある事例が目に止まりました

診療所の看護師さんたちの実践です

 

100歳を超えた寝たきりの女性患者さんの話です

彼女はご家族がいなく独居の状態で暮らしていました

視力がほとんど低下していますが、最期まで住み慣れたご自宅で過ごしたいと望まれていたようです

 

所長医師、担当看護師をはじめ診療所のスタッフや訪問看護師さん、ヘルパーさんたちはみんな不安をかかえながらのケアを続けていました

――高齢で寝たきり、独居の患者さんを最期まで自宅で看ていくことができるのだろうか?

でもご本人の思いを叶えたい…

 

施設への入所という選択肢もありました

しかし、身体は動かすことが難しかったけれど意思表示はしっかりとされており、医療・看護・介護のそれぞれの役割の中で彼女の人生を支えていきました

 

担当した看護師さんにお話をうかがいました

「とりわけヘルパーさんの力が大きかったです」

「炊事や食事の介助で細やかな対応をされ、とても優しい声かけをされていました

そうめんを美味しそうに召し上がられていたとき、もういちど茹でましょうかと声かけをされている姿に感激しました」

「脱水になったときや熱が出た時に、私はヘルパーさんから水分の取り方を教えていただきました」

「お互いに細かな連絡をすることができ、とても助かりました」

 

一人暮らしであっても、みんなが協力し合えれば自宅で看取ることができるということをつくづく感じました と話されていました

 

 

最期のとき

「ありがとう」と言われ、念仏を唱えながら息を引き取られたそうです

 

 

一人暮らしで同居される介護者がいない方々はこれからも増えてくることでしょう

私たちはどのようなことができるのか、一人ひとりの望みを叶えるために何が求められるのか

たったひとつの事例の中にもそのヒントがあるように感じ、ブログに載せることにしました

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病院裏にある路地で

雀の声がたくさん聞こえました

 

足元をみると

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たぶん生まれたての赤ちゃん雀でしょう

まだうまく羽ばたくことができません

 

頭の上からは親鳥と思われる鳴き声が…

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この木の上から聞こえてきます

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この中で行ったり来たり

時々は赤ちゃん雀のそばに飛んできては

食べ物を運んでいるように見えます

 

急いでネットで調べました

 

5月のこの時期に卵が孵化して生まれてきます

そこからひな鳥は巣立っていくようです

地上に「落ちた」ひな鳥は巣立ちの準備をしているのです

 

このときに可愛いからとか

可哀そうだからとか

拾い上げることはよくないようです

 

親鳥はかならず近くの木の上や家の屋根にいて

子どもをしっかりと見守ってくれています

お互いに会話をしている賑やかさがいい雰囲気です

 

私たちはこの時を温かく見守ってあげる必要があります

 

人にはヒトの

鳥にはトリの

世界があるんですね

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次の日

同じ場所をのぞいてみると

だれもいませんでした

 

無事に飛び立つことができたのでしょうか

ある研究で次のような文章がありました

――対象は自宅で死亡されたがん患者さんです

『対象患者の90%以上に同居する家族がいた』

『自宅で最期まで療養したいという患者の意向を支持する介護者の存在が必要であった』

 

当院での実態を1年間のうちに在宅で看取りを行った患者さんを対象に振り返ってみました

対象となった患者さんは1年間で12名でした

その内訳です

 

男性3名、女性9名と圧倒的に女性が多い結果でした

主な介護者は夫、妻、息子・娘、孫など様々です

年齢は61歳から103歳まで、平均82.75歳

男性:81歳、女性75歳

 

疾患別では

・悪性腫瘍が50% ; 平均年齢:76歳 男:女=2:4

・老衰が33%    ; 平均年齢:93歳 男:女=0:4

・その他

です

緩和ケア病棟を開設してから悪性腫瘍の患者さんが増加しています

また年齢差ははっきりしています

 

同居家族がいなかった患者さんは二人ですが、厳密な意味で最期まで独居であった方はいませんでした

お一人は、もともと一人暮らしでしたが癌の終末期でいよいよの時を迎え、短期間でしたがご家族が交替で付き添われていました

もう一人はサービス付き高齢者住宅に入居され、きょうだいが時々こられていました

 

その他の患者さんたちははじめから同居中のご家族がいて、最期の看取りのときまで介護されていました

 

 

印象的であった患者さんをご紹介します

 

★Aさん

癌の終末期で一人暮らしのAさんはご自分の病状を理解されており、最後まで自宅で暮らしたいという望みをお持ちでした

ご家族もAさんの意向を受け止められ、悪くなった時には交替で見ていかれる意向でした

 

ある日突然の強い痛みが出現

耐えきれず病院に搬送となりました

入院後は医療用麻薬で痛みは緩和され、Aさんからもご家族からも退院の希望が出され在宅での看取りの方向となり、翌日には退院となりました

 

ご自宅ではたくさんのご家族と会われ、穏やかに旅立たれました

 

 

★Bさん

Bさんも独居です

緩和ケア病棟に入院していましたが、退院の希望がつよくなり受け持ちの看護師さんやリハビリ担当者とともに家庭訪問を行ったのちに自宅に退院となりました

 

しばらくは落ち着いた生活を送られていましたが、しだいに症状の悪化と認知機能が低下

独居で血のつながらない親戚のみの状況であるため再入院となりました

 

入院後認知機能が一層低下

Bさんは「帰りたい」「一人でなんとかやっていける」と繰り返されましたが、医療用麻薬をはじめとした薬の自己管理がまったくできず、訪問看護師やヘルパーの援助のみでは難しい状態となってきました

 

徐々に病状が進行し

病棟で最期を迎えることになりました

 

今の医療制度や介護制度だけでは在宅療養が困難な事例でした

 

 

★Cさん

認知症が進みそれまでの一人暮らしの生活ができなくなり、サービス付き高齢者住宅(サ高住)への入居となりました

訪問診療ではいつもニコニコされ、帰る際には毎回のように握手を求められました

もともと弱かった心機能が悪化、呼吸困難がでてきました

ごきょうだいがいましたが、住所が遠く高齢で体が弱い方でした

その方が時々様子を見に来られる程度です

 

サ高住の担当者と相談

今のお部屋で最期まで過ごしていただこうということになりました

 

介護の担当者たちが頻繁に訪れ

みんなの見守る中で最期を迎えることができました

 

 

 

私たちの病院の周辺は、比較的医療や介護の資源が整っている地域です

それでもBさんのように望む場所で安心して住み続けることはなかなか困難な場合があります

患者さんに関わる多くの職種の努力が行われても難しいことがたくさんあります

 

とくに病状の変化が激しくこまめにコントロールが必要な患者さんや認知症が進行してきた患者さんの場合はなおさらです

同居のご家族がいる場合でもその苦労は計り知れませんが、同居されるご家族がいないときは自宅での生活や療養を支える人の力がたくさん必要になってきます

 

 

冒頭の文章では、「90%以上に同居家族がいた」とありましたが、実感としてもそのように思われます

しかし「90%以上」は絶対条件ではないことも確かで、残りの「10%」は同居する家族がいない人たちということを意味しているでしょう

同居するご家族がいないことが自宅で最期まで暮らし続けることの困難な要因となっており、10%の方たちはどのように過ごされ、また周囲がどう援助しているのかを知ることが大切になっています

私たちがどこに目を向けていくべきかを考えさせられる課題です

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最近続けて同じような出来事がありました
患者さんのかかえるトータルペインの考えからすると「社会的な要因」と言えるのでしょうか?

少し考えされられることがありました

3人の患者さんに共通するのは、みなさん60歳前後の働くことに意欲を持たれていた時期の発症ということです
さらに消化器系の悪性腫瘍であったということは偶然かもしれませんが…

☆Aさん

奥様とは別居中、病弱な息子さんがいます
腹満感がつよくなり緊急入院されました

ご自分の病状がよくないことは承知されており、遺産などのことで相談があるとソーシャルワーカーに話がありました

司法書士さんに関わっていただかなければなりませんが、面会制限のもとで会えないのであれば退院したいと望まれました
しかし病状から退院は考えにくく、手続きは弟さんと司法書士さんに何度かベッドサイドに足を運んでいただくという形での段取りをつけることができました

その結果2週間後には息子さんへの相続などすべての手続きが完了し、Aさんにはほっとした表情がみられました

さらには職場の上司の援助があり、退職の手続きは口頭でのAさんの意思確認ののち、職場で書類作成をしていただくことで解決できました

☆Bさん

独身で結婚歴なし
数十年会えていない妹さんが遠くにいるらしいとの情報あり
腹痛と繰り返す嘔吐で入院となりました

当初キーパーソンがはっきりせず(親族と連絡がとれないため)、職場の上司に無理をお願いしました

職場では頼れる存在であったBさん
急な入院のため仕事の引継ぎができないままです
Bさんも職場の人たちも困ってしまいました
コロナ禍で外出ができず、面会時間の制限もあります

職場の人たちの努力で短時間の面会と電話でのやりとりで、100%ではありませんがなんとか引継ぎができました

一方で、数十年音信不通であった妹さんと奇跡的に連絡がとれ、会いにきてくれました
Bさんは号泣です
ずっと迷惑をかけて謝りたかったと言われました
妹さんはその後キーパーソンとして動いていただけることになりました

心配事を解決したBさん
1か月後に旅立たれました

☆Cさん

急な病状の悪化で緊急入院された先の病院で鎮静を開始
この状態で転院してこられました
意思表示はほとんどできません

Cさんも独居です
ご家族との連絡は自分から拒否されていました

痛みにずっと悩まれていたCさん
早くから当院のソーシャルワーカーが相談に乗っていました
家の処分など終末期に向けての準備を考えられ、もしもの時にも家族には頼らないと決めていました

司法書士さんに依頼しひとつずつ手続きをしようとしていた矢先でした

意識が低下しているため必要な手続きがまったくできません
ときにうっすらと目を開けられるときには、家族には頼らないとはっきり言われたとのことです

緩和ケア病棟としてはごく短いお付き合いとなりましたが、最期は静かに旅立たれました
Cさんの願いを叶えることができず悔しい思いをしています

最初にも書きましたが、患者さんたちは60歳前後
Aさん、Bさんは頼る方々がいて、不十分であったかもしれませんが旅立ちの日の準備をすませることができました
Cさんは残念ですが間に合いませんでした

共通するのは
身体的な苦痛―痛みや倦怠感、食欲低下、嘔吐などの症状に悩まれながらも、財産の整理・遺言状の準備・仕事の整理などが同じ重要性を持って気がかりなことでした

コロナ禍で家族以外の面会が難しいこと、面会時間が短いこと、外出・外泊ができないことなど様々な制限があるなかでの出来事でした

今後も同じような援助が必要な患者さんが増えてくるのではと思われます
「進行癌や再発・転移癌の患者さんは落ち着いているように見えても急に病状が変化することがある」ということを時々経験しており
Cさんのことを考えると、患者さんから相談を受けたときやこちらが気づいた時にはタイミングを逃さずできる限り早い対応が求められているのだということを痛感しています

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ここでも柏木哲夫先生の本から引用いたします

“人はみな、身体の問題、心の問題、社会的な問題、スピリチュアルな問題で全人的に痛みます。身体の痛みが主なときがあれば、心の問題のときもあり、社会的なことが問題となることもあれば、スピリチュアルなことが問題になることもあります。人によって異なります。それぞれにきちっと対応することが求められます”
医療者として当たり前のことなのですが、最初の出会いのときからトータルペインの視点で患者さんを受けとめていく努力をすることがますます大切になると感じています

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