今回は「嘔気嘔吐の治療薬」と「食欲不振の治療薬」について学習しました。

話が盛り上がったのは中枢性制吐剤の副作用としての錐体外路症状のこと。日常的に吐き気止めとして処方されている薬でパーキンソン症状を経験することは少なくありません。知っているか知っていないかで大きな違いが現われます。

 

つぎに話題となったのは、食欲低下時のステロイドの役割に関してでした。

 

ここで私の経験を少し…

――以前にある病気で入院しました。39度をこえる高熱が続き体も衰弱していました。検査ではほとんど異常はなく、最終的にある疾患を疑い治療を開始しました。その時の薬がステロイドでした。

プレドニゾロン50mgでスタート、翌日には嘘のように熱がさがりました。数日するとまず無性に空腹感を覚え、日中に買っておいたおにぎりを消灯時間が過ぎてからベッドの上で食べるようなことがありました。あるとき巡視の看護師さんに見つかりましたが、そのとき彼女はニコッと笑ってうなずくだけでした。つぎに夜寝つきが悪くなり、そのときには安静にしているからだと思っていましたが、のちにステロイドによる不眠の影響もあるのだと知りました。ステロイドはゆっくりと減量され、食欲の異常な亢進状態はなくなりましたが、こんどは仕事を休んでいることへの罪悪感と「早く現場に復帰したい。元気になった今なら何でもできる」というような気分の高揚感が訪れました。

これらのことはおそらくステロイドによる作用だと考えられます。

――貴重な体験ができたと思っています。

 

このようなことを若い薬剤師さんたちに話ました。

 

医療従事者がみんな病気を経験しなさいと言うつもりは毛頭ありませんが、突然の病気にみまわれた人の苦痛や不安感、希望などについて少しでも考える機会にはなったと思っています。

緩和ケア病棟開設にむけて、当院のリハビリテーション科も準備を始めています。
「自分たちに何ができるのか」「その人らしさに焦点をあてたリハビリって?」など一生懸命に学習し、話しあっています。

リハビリテーション科は院内でも20代~30代の若手が圧倒的に多い職場です。

そのような彼ら、彼女らが、ある日の仕事を終えてからの時間全員でディスカッションしていました。

担当者のレポートと問題提起をもとに数人ずつに分かれグループワークを行っています。
そのときの感想や意見があり、許可をもらったのでここに記しておきます。

リハビリスタッフ_ディスカッション01

ビリスタッフ_ディスカッション02
グループディスカッションの報告

●今まで関わった癌の患者のリハビリについての感想
・リハをしていることで安心感があり頑張らないといけないという気持ちが患者に生まれる
・話を聞くことに多く時間をとられてしまう。効率は悪いが役割は大きい。
・家族との関係性も一般の病棟より深くなるので希望も聞きやすくなるのでは?
・散歩に行く場所が限られてしまう。車いすで入れる場所が少ない。
・患者や家族の希望や目標と病院側が考える目標との間にズレが生じそこに 葛藤がでる
・リハビリへの希望は呼吸を楽にして欲しい。痛みを少なくして欲しい。話を聞いて欲しい等がある
・在宅では立ちたい、自分で食べたい、トイレに行きたいなど病院にいるよりも自分の欲求を言いやすかったのでは?
・痛みがストレスになっていた。対応が難しかった。
・リハ中は特に訴えはなかったが趣味を楽しんだのが印象に残っている。
・買い物などで気分転換ができたか?ずっと悩みながら関わった。
・セラピストとして変化に合わせたリハビリができることが大切
・治療拒否されその人らしく歩き好きなことをされていた。それもその人ら しさと感じた。

●神戸協同病院のリハビリ科でできる緩和ケアのリハビリとは(病院~在宅まで)
・本人、家族の思いを傾聴し最後まで寄り添い話を聞く。
・家族と患者との橋渡しになれるような存在になる。
・リハが中止になって最後まで関われないが顔は最後まで見に行く。
・セラピストとして客観的に評価しアプローチしていく
・下町、商店街の中にある病院という特徴を生かして車いすで入れる喫茶店や店舗など楽しめる場所を探したり、商店街の人とも連携して情報を共有していく
・医師、NS、リハビリ間の敷居が低いので連携を密にしてチームと関わっていく
・組合員のボランティアを利用し行事などを行っていく
・安心感や安らぎを求めて入院してくる人が多いので精神面のサポートがで きるように取り組んでいく
・痛みの訴えに対して理解を深められるように学習していく
・リハ手技(リンパマッサージ、アロママッサージ等)を勉強しより心地よくできるようにしたい

看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、栄養士、医療ソーシャルワーカーなどと回復期リハビリテーションに関わるなかで、チーム医療、全人的医療について考える機会が多くありました。
若い世代の人たちとの共通の経験は、きっと緩和ケア病棟にも生かされることと思います。

“uproad”

以前から在宅医療の話(とりわけ看取りの話)をさせていただくときに紹介している詩があります。

谷川俊太郎さんの『あい』という短い詩です。

忘れないように以下に引用させていただきます。

「あい」

あい 口で言うのはかんたんだ
愛  文字で書くのもむずかしくない

あい 気持ちはだれでも知っている
愛  悲しいくらい好きになること

あい いつまでもそばにいたいこと
愛  いつまでも生きていてほしいと願う事

あい それは愛ということばじゃない
愛  それは気持ちだけでもない

あい はるかな過去を忘れないこと
愛  みえない未来を信じること

あい くりかえしくりかえし考えること
愛  いのちをかけて生きること

出典:谷川俊太郎 詩集 「みんなやわらかい」

みんなやわらかい

とくに5行目と6行目は終末期の方をかかえたご家族や恋人の気持ちを考えるときに大切なこととして受けとめています。

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◆…Being with the patient

日野原重明先生の『だから医学は面白い』という本を書店で見つけて、一気に読みました。

本の帯に「医学・医療について伝えたいことはすべて書いた」とありました。

全体の感想を述べるにはもっと時間が必要です。それだけ感じるところが多い書物でした。

 

その中に―ホスピスの真髄―という一節があります。

 

日野原先生が世界で最初に近代的なホスピスをロンドン郊外に建てたシシリー・ソンダース先生に尋ねたことがあります。

「ひと言で言えば、ホスピスケアというのはどういうことですか」

 

ソンダース先生は少し考えて「Being with the patient」と答えられました。

訳すと「患者と共にあること」という意味だそうです。

 

日野原先生の文章をそのまま引用させていただきます。

…一人では死なせないで、一緒に死んであげるように、そばにずっといる。患者の言葉をよく聞き、患者の心が落ち着かない状態であれば、患者の手を握ってマッサージをする。「一人で死ぬのではなく、みんなに守られて自分は逝くんだ」という感覚を患者に持ってもらう。それがホスピスの真髄である…

 

とてもむずかしいことのような気がします。

これからさらに知識を深め、経験を積む中で、少しでも近付きたいものです。

 

だから医学はおもしろい

 

“uproad”

先日のボランティア講座参加者の方から質問がありました。

緩和ケア一般の話のときに、認知症の方の終末期の栄養補給に関して胃ろうに少し触れました。

そのことに関連した質問です。

 (質問)

「認知症の方で、胃ろうになった方の胃というのはどういう状態なのでしょうか? もし食べたくないものであれば、それを注入される内臓は悲鳴をあげないのでしょうか?」

という主旨です(表現を若干変更しています)。

 (回答)

質問有難うございます。

まず、「胃ろうの適応」ですが簡単にいえば、

(1)脳卒中や神経の病気などで口から食事がとれなくなった時

(2)誤嚥(食事や水分が誤って気管や肺に入ってしまう)による肺炎を繰り返す時

(3)特別な胃や腸の病気により正常に食事がとれなくなった時

(4)その他

などがあります。

また認知症の方が胃ろうを考えるときというのは、いわゆる終末期を迎え、ムセなどにより食事がとれなくなった場合に検討が開始されます。

一般論ではこのような状態になると、まったく治療がされないと寿命は数日から1週間、点滴を行うと2~3か月、胃ろうなどでは約1年とも述べている医師もいます。

実際には私たちも大きく悩みます。

ご本人が元気な時に最期をどのように迎えたいと考えていたのか、家族の思いはどうなのか、最期をどこで迎えることになるのかなどなどたくさん考えないといけない要因があり、きわめて倫理的な配慮が必要な課題です。胃ろうの造設にともなう合併症やその後の管理も大変です。

これといって決まった結論はありません。

ご本人も含め、とりまく人たちが何度も話しあって結論を出すことが多いです。

さてご質問への回答ですが、

胃ろうを作られても胃の状態は変わりません。食べ物が口から食道をとおり胃に送り込まれる道筋をバイパスするだけです。

当然細いチューブを通して胃に栄養が補給されるため、固形物は通過できません。特殊な栄養剤を使います(薬剤として処方箋で出すことができるものと、食事扱いで実費で購入してもらわないといけないものがありますが)。

「食べたくないものを無理に注入される」と当然胃は受け付けてくれません。そのときは吐き出されることがあり危険です。なので1回の注入量はご本人の状態に応じて決定され、また1日の注入回数も3回であったり2回であったりします。1日の総カロリー量も考えないといけません。個人によってその方法は様々であり、落ち着いた方法に慣れるまで日数がかかることも多いようです。

以上簡単ですがお答えいたしました。

―― 私の勉強不足で不正確な所があるかもしれませんが、ご容赦ください。

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