私たちスタッフと患者さんとのお付き合いは平均すると30日前後

その中で残された時間を意味あるものにしていただきたいと思って

私たちは努力しています

 

それでも

「やりきった感」を感じることは

申しわけないことなのですが

多くはありません

 

Cさんは食事がとれなくなり

ずいぶんと痩せた状態で

入院してこられました

 

ご自分の病状はよくわかっていました

入院時のCさんの言葉です

「今は自分のことはできています

でもこれからはできないことが増えてくると思うので

そのときにはみなさんに助けていただきたいです」

 

看護師さんがご希望をたずねても

「これといって特にはありません

病院で過ごすほうが楽です」と

外出や外泊の希望もないと話されます

 

腹水でお腹が張っていても

食事は食べられ

自覚症状はほとんどありませんでした

 

身体的な苦痛を訴えられることなく

毎日が過ぎていきました

 

ご家族からも話をうかがいましたが

本人に任せます

と多くを語られることがありません

 

穏やかに入院生活を送られていました

 

私たちは

なんどか希望を聞こうと働きかけますが

いつも同じ返事

「とくにないのです」と

 

私は回診での簡単なやり取りだけですますことが多くなり

「Cさんってこのようにあまり多くを望まれない人なんだろう」

「この方はこのままでいいんだ」

と自分なりの解釈から

積極的な関わりが減ってしまっていました

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しかし病気は少しずつ患者さんの体を蝕んできます

できることが少なくなってきました

 

Cさんは

「病気がわかってからいろんなことをしてきました

行きたいところにはほとんど行ってきました

だからしたいことは特にないんです」

と同じような返事のくり返しです

 

ある日のことです

 

受け持ちになった看護師さんとの会話から

看護師さん「私は緩和ケア病棟の看護師としてCさんに何かしてあげられることはないだろうか、Cさんが思い残したことはないだろうか、今だからできることがもしあるなら協力をさせてほしいです、力になりたいです」

ストレートに話されました

しばらく考えられたのでしょう

Cさん「調子のいいときがあれば外を散歩したい、私の地元なので懐かしい商店街に出てみたい」

と昔のことなどをいつになくたくさん話されました

「じゃあいい日に散歩の計画をしてみてください」と看護師さんに提案されるほど乗り気になったようです

 

その日の看護師さんの記録から

―――Cさんの何気ない一言ではあったが、この言葉、希望が実現できるように天気と体調を見ながら計画をたてていこう

だれと一緒に行かれるのかどこに行きたいのかの細かな内容を考えていこう

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ご家族とも相談をし

車いすの手配を行い

商店街のお店をピックアップし

 

いよいよ当日を迎えました

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患者さん、ご家族、看護師さん

そろって外出

私は玄関まで見送りました

記念写真もたくさん撮りました

 

商店街では夏祭りが開かれていたそうです

Cさんの一言

「やっぱり外はいいね

気持ちがいい

行けてよかった」

 

子どものときによく通った駄菓子屋さんもありました

またこんどは○○に行きましょう

と話されたとのことです

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さらにその翌日のことです

 

以前のブログに書いたセラピー犬の訪問がありました

散歩の疲れがあったにもかかわらず

犬たちが病室に入っていくと

満面の笑顔

いっしょに写真に写りました

 

 

これまで物静かだったCさん

やりたいことはとくにありませんと言われていたCさん

私たちもことあるごとに尋ねていました

 

しかし看護師さんとの日常の会話のなかで

したいことが見つかりました

そして実現にこぎつけました

 

このあとさらに

胸にずっと抱えていた望みを話されたのです……

 

 

 

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