病棟で患者さんやご家族と接していると、ときにほほえましい場面に出会うことがあります
――その1
食事ができなくなり病状が悪化した患者さん
ご自分の病気を真正面から受け止めることが怖くて、不都合なことは無意識に頭から追い出していました
ところがある日のこと
看護師さんに「もうゴールだと思う 家族に会いたい」と一言
それを聞いて奥様をはじめご家族に連絡しました
少し前のお花見のときには奥様ととってもいい笑顔を見せてくださっていたのに、病状が急に進行したようです
倦怠感がつよくなりました
でもご家族がそばにいることで安心されるのか笑顔も見せてくれます
昼下がり、奥様と二人だけの時間がありました
そばで世話をしていた看護師さんの話です
「奥様はベッドの横の椅子に腰かけてご主人と手を握り合っていました。そして二人長く見つめ合っていたんです。患者さんは奥様の顔を見てニッコリとされていました。私はそっとその場を離れました。きっと1時間もそんな状態だったと思います」
とてもいい場面です
私もそこに居合わせたかったです
――その2
腹水がたまってベッドから起き上がることもむずかしくなった患者さん
「なんとかよくなる方法はないものか」といつもあきらめずに頑張っておられました
しかし病気はだんだんと進み、時々意識も朦朧となってきます
ご家族は交代で付き添っていました
回診にうかがうといつも奥様がご主人の腫れた足をマッサージされている姿をみかけます
患者さんは気持ちよさそうに目を閉じられています
奥様と話す時間をとっていただきました
今の病状、今後起こりそうなこと、ケアの方針などについて話し合いました
そのときに奥様が話されたことがいつまでも心に残っています
私たちで何かできることはないでしょうかという話のときです
「1週間前くらいの時、お前がそばにいて、話をしているのが一番だって言ってくれました」と涙を流しながら話されるのです
できればベッドで一緒に寝てあげたいという希望もお持ちでしたが、それはなかなか難しく、病室のレイアウトを変えてベッドのすぐ横にソファーベッドを置くことで、絶えず奥様の顔が見れるようにしました
手の届く範囲でしたのでいつも仲良く手を握られていました
ベッドにかぶさるように患者さんを抱擁する奥様の姿もありました
この日一日は心があったかくなりました