最近続けて同じような出来事がありました
患者さんのかかえるトータルペインの考えからすると「社会的な要因」と言えるのでしょうか?
少し考えされられることがありました
3人の患者さんに共通するのは、みなさん60歳前後の働くことに意欲を持たれていた時期の発症ということです
さらに消化器系の悪性腫瘍であったということは偶然かもしれませんが…
☆Aさん
奥様とは別居中、病弱な息子さんがいます
腹満感がつよくなり緊急入院されました
ご自分の病状がよくないことは承知されており、遺産などのことで相談があるとソーシャルワーカーに話がありました
司法書士さんに関わっていただかなければなりませんが、面会制限のもとで会えないのであれば退院したいと望まれました
しかし病状から退院は考えにくく、手続きは弟さんと司法書士さんに何度かベッドサイドに足を運んでいただくという形での段取りをつけることができました
その結果2週間後には息子さんへの相続などすべての手続きが完了し、Aさんにはほっとした表情がみられました
さらには職場の上司の援助があり、退職の手続きは口頭でのAさんの意思確認ののち、職場で書類作成をしていただくことで解決できました
☆Bさん
独身で結婚歴なし
数十年会えていない妹さんが遠くにいるらしいとの情報あり
腹痛と繰り返す嘔吐で入院となりました
当初キーパーソンがはっきりせず(親族と連絡がとれないため)、職場の上司に無理をお願いしました
職場では頼れる存在であったBさん
急な入院のため仕事の引継ぎができないままです
Bさんも職場の人たちも困ってしまいました
コロナ禍で外出ができず、面会時間の制限もあります
職場の人たちの努力で短時間の面会と電話でのやりとりで、100%ではありませんがなんとか引継ぎができました
一方で、数十年音信不通であった妹さんと奇跡的に連絡がとれ、会いにきてくれました
Bさんは号泣です
ずっと迷惑をかけて謝りたかったと言われました
妹さんはその後キーパーソンとして動いていただけることになりました
心配事を解決したBさん
1か月後に旅立たれました
☆Cさん
急な病状の悪化で緊急入院された先の病院で鎮静を開始
この状態で転院してこられました
意思表示はほとんどできません
Cさんも独居です
ご家族との連絡は自分から拒否されていました
痛みにずっと悩まれていたCさん
早くから当院のソーシャルワーカーが相談に乗っていました
家の処分など終末期に向けての準備を考えられ、もしもの時にも家族には頼らないと決めていました
司法書士さんに依頼しひとつずつ手続きをしようとしていた矢先でした
意識が低下しているため必要な手続きがまったくできません
ときにうっすらと目を開けられるときには、家族には頼らないとはっきり言われたとのことです
緩和ケア病棟としてはごく短いお付き合いとなりましたが、最期は静かに旅立たれました
Cさんの願いを叶えることができず悔しい思いをしています
最初にも書きましたが、患者さんたちは60歳前後
Aさん、Bさんは頼る方々がいて、不十分であったかもしれませんが旅立ちの日の準備をすませることができました
Cさんは残念ですが間に合いませんでした
共通するのは
身体的な苦痛―痛みや倦怠感、食欲低下、嘔吐などの症状に悩まれながらも、財産の整理・遺言状の準備・仕事の整理などが同じ重要性を持って気がかりなことでした
コロナ禍で家族以外の面会が難しいこと、面会時間が短いこと、外出・外泊ができないことなど様々な制限があるなかでの出来事でした
今後も同じような援助が必要な患者さんが増えてくるのではと思われます
「進行癌や再発・転移癌の患者さんは落ち着いているように見えても急に病状が変化することがある」ということを時々経験しており
Cさんのことを考えると、患者さんから相談を受けたときやこちらが気づいた時にはタイミングを逃さずできる限り早い対応が求められているのだということを痛感しています
ここでも柏木哲夫先生の本から引用いたします
“人はみな、身体の問題、心の問題、社会的な問題、スピリチュアルな問題で全人的に痛みます。身体の痛みが主なときがあれば、心の問題のときもあり、社会的なことが問題となることもあれば、スピリチュアルなことが問題になることもあります。人によって異なります。それぞれにきちっと対応することが求められます”
医療者として当たり前のことなのですが、最初の出会いのときからトータルペインの視点で患者さんを受けとめていく努力をすることがますます大切になると感じています