ある日の午後

路地の真ん中で

カラスが柿をついばんでいました

 

カメラを構えましたが

気配を察したのか

柿を咥えて屋根の上へ…

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「カラス」と「柿」で検索すると

いっぱい出てきます

約70万件ほど

それほど柿はカラスに襲撃されるのでしょう

 

私はその時

ある患者さんのことを考えていたところでした

 

とてもおいしそうについばんでいる絵

患者さんにはまことに申し訳ないのですが

「もっとご飯が食べたい」

と言われていた姿が重なっていました

 

 

食道に大きな腫瘍ができ

食事がとれなくなった患者さん

 

少しでも食べることができればと

放射線治療を受けられ

その後

私たちの病棟に入院してこられました

 

前の病院では

高カロリー輸液が始められ

当院でもそのまま引き継ぎました

 

少しは飲むことができそう

ということでわずかですが栄養剤を飲んでいただきました

 

病状は比較的落ち着かれ

検査でも悪化は見られていません

 

このような日々が続いていたある日

「もっと食べてみたい。食べ物を噛んでみたい」

と望まれました

 

落ちついているように見えても病状はよくないのでは

と主治医としては躊躇する反面

患者さんに希望を持ってもらうために

“ダメ元”でもいちど検査をしてみよう

となりました

 

その結果

病気は改善していたのです

検査をお願いした医師からは

「食事は摂れるでしょう」

との嬉しい返事

さっそく患者さんと相談

徐々に食事の量と形を増やしていきました

 

食事を摂られている姿は

とても幸せそう

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私はいつも反省ばかりです

このときも後悔しました

「この患者さんは食べることができないのだ」

との思い込みがあり、

その奥には「緩和ケアへの慣れ」という傲慢さもあったのかもしれません

 

もっと患者さんの想いに寄りそっていれば…

もっと早くに望みを叶えることができたのでは…

 

 

医師として

原点となることでした

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「先生! ちょっと話を聞いてくださいよ」

 

早朝の回診で

看護師さんに呼び止められました

 

詳しく聞くと次のような出来事があったようです

 

――☆☆(私の名前です)だけど、妻がパソコンのデータを全部消しちゃったんだ

医師の連絡網を教えてもらえないかな

 

とのこと

電話があったのが午前1時…

 

看護師さんは私のことをよくわかってくれている人でした

 

「先生、少し声がかすれているようですが、風邪ですか?」

 

――そうなんだよ

 

この時点で笑いをこらえるのに一苦労です

 

「あした外来ですよね。そのときでいいんじゃないですか?」

 

――急いでるんだよ

ほんとに困るんだけど……

 

と電話を切ったそうです

 

 

こんな電話がかかってきたことは初めてでした

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新手の「成りすまし」電話でした

 

みんなにこの話を伝えると

大笑いです

 

おどろくような方法を考えるものだと感心もしました

でも、要注意です