医療の現場では当然のことですがとくに緩和ケア病棟では多職種での集団の力が発揮されます
それぞれの仕事に対するリスペクトと信頼関係が基礎となります
そのことを強く感じた出来事がありました
(伝えたい内容には差し障りのない範囲で話を簡略化しています)
<Eさん 80歳代の女性>
入院してこられたときには病状が進行し予後は短いと思われていました
Eさんのがんばりとスタッフの努力で予測が大きく覆され喜んでいました
しかし病気の悪化はおさえることができず
少しずつ痛みと息苦しさが強くなってきました
医療用麻薬がふえることで眠気がつよくなり、吐気もでてきました
呼吸困難を訴えられたある日のこと
一人の看護師さんが寄り添いながら背中を軽くマッサージしてくれて
Eさんにとってはそれがとても心地よかったそうです
「薬は効きますが眠気や吐気が困ります。背中を優しくさすっていただけることが安心につながります」と話されました
その日以降
看護師さんたちによって背中をマッサージされている姿を毎日見かけるようになり
薬の回数はいくらか減ったように思えました
私自身の経験ですが
原因不明の発熱で入院したときのことです
食事がほとんどとれず
繰り返す発熱と発汗で体力を消耗していたとき
看護師さんがタオルで汗を拭いてくれて軽くマッサージをしてくれました
そのときのホッとする感覚を思い出しました
気持ちが落ち込んだとき
しんどさで打ちひしがれているとき
さりげなく背中を支えられることで安らぎを与えられます
『手のぬくもり』です
不安や哀しみが和らぎ
有難さをつよく感じることができます
看護師さんならではのケアだと思います
一人ひとりへのケアにかける時間はいくらあっても足りないのが現状です
しかし
「時間がない」ではなく
「与えられた時間で何ができるか」
を考え実践している姿に感動を覚えました
<Fさん 60歳代の女性>
前の病院でせん妄との診断のもと
多くの向精神薬が使われていました
1日中ぼ~っとされ
このままでいいんだろうかとみんな考えました
でもせん妄が悪化すればFさんもつらいだろうな
としばらくは経過をみることになりました
眠る時間が増え
食事で誤嚥することがあり
薬を飲むことが難しくなってきた状況で
思い切って薬を減量
最低限必要なものは点滴を行うことにしました
その結果向精神薬の過量状態から脱却することができ
食事がふたたびとれるようになりました
このような経過をたどっていたFさんでしたが
もう一つの課題はひっきりなしにナースコールをされることです
呼ばれていってもとくに何もないことがあります
忘れてしまうことが多く、何度も同じことでコールされます
さらに日本語での会話が十分でないFさん
母国語と日本語が入り混じった話をされるので
看護師さんたちはますます困惑してしまいます
私が感心したのは
それでもナースコールのたびに丁寧に対応する看護師さんの姿でした
「おしっこがでる」「大便が出ました」「食事はまだ?」「お風呂の時間は?」
―どうされましたか?
「…さみしい」
なかなか看護師さんを離してくれません
そばにいると落ち着きます
そばにいてもコールされることがあります
やむなく薬に頼ることがありますが
以前のように意識が低下することは避けたい
薬がまず最初でなく
できるだけ時間をとり
丁寧に対応しています
ときに
「ゴメンネ」
と謝られるときがあり
憎めません
思いました
患者さんにとって看護師という存在は『落ち着く存在』なのだろうと
みんな患者さんがどうしてほしいのかを考えて行動していることです
ある書籍にありました
――「病気」に対してできることがなくても、病気を患う「人」に対してなら、できることがたくさんある
――(医師に対して)
患者を「治す」のと同じように、献身的に「ケアする」ための知識を得る努力をすれば、医師も人としてもっと成長できるはず
そして
――緩和ケアとは、患者と家族の声に耳を傾け、癒すこと。そして、このうえなく気高く、愛情をこめて、“はいできることはいつもありますよ”と言うこと。これこそ、医療の進歩です
と述べられています
私はこれまでたくさんの患者さんたちに育てられてきたと考えています
また同じように多くの看護師さんにも刺激を受け、育てられました
緩和ケアの現場ではますますその感を深くしています
私の大好きなマンガで
ある医師につぎのようなセリフを言わせていました
『病棟で最も重要なエッセンシャルワーカーは看護師の皆さんです
患者さんと物理的、精神的にもっとも密に接するわけですから』
出典: http://grandjump.shueisha.co.jp/manga/shrink.html