70代の上品な女性です

 

「病気がわかったとき『もう遅いよ』って言われて、あっと息をのみました」

淡々と話されます

それでも考えられるかぎりの治療をがんばって受けてきました

 

私たちの病棟に入院してこられたときは

痛みや食事がとれないという症状でお困りでした

 

症状を和らげる治療を行い

ときどきやってくる痛みにも耐えながら

「食べたいものがあるの」

とご希望され

それを親族の方が準備され

望みがかなったときには

体中で喜びを表現されました

 

 

彼女は

ご家族の介護をし、見送られ

ご自分はお一人でひっそりと暮らしておいででした

 

でも、

「友人たちがたくさんいて、楽しく暮らしてきましたよ」

今でも多くのお友達がお見舞いに来られ

ご自宅に外出をしたいときには

付き添ってくれています

 

カラオケに行っては、順番ににぎやかに歌ったり

10人ほどで旅行に行かれたり

 

「私だけお酒を飲めないの」

「みんなは酔っぱらってどんちゃん騒ぎよ」

でもとっても楽しかった

と遠い眼をされた姿が印象的です

 

「事務の仕事をずっとしてきました」

「友達はそのときの人たちだったり、それ以外でも多くのお付き合いができました」

 

 

ご家族を見送られ

ご自分の病気が見つかってからは

「ご褒美でいただいた時間だと思っています。そのときを精一杯生きることができればそれでじゅうぶんです」

と話されます

 

財産のこと

お墓のこと

ぜんぶ段取りを済まされてきました

 

 

彼女は多彩な趣味をお持ちです

 

私がうらやましく思ったのは

 

色鉛筆で描かれた絵や水彩画…

 

だれかに教わったわけでもなく

それでもおじょうずです

 

鉛筆の黒色は鉛が入っているので色を塗ると光ってしまうけれど

色鉛筆の黒はそんなことがないってお聞きしたことがありますね

と私もうろ覚えながらお話に参加です

 

お気に入りの絵を病棟に飾らせていただきました

248-01

 

道行く患者さん、ご家族、職員が

かならず立ち止まっています

 

 

もうひとつは

編み物

 

「わたしと同じことで悩まれている方に使っていただければうれしい」

毛糸で編まれた帽子を託されました

 

 

今、その帽子は

若い患者さんのもとに

届けられています

「わー、かわいい」

248-02

私たちは緩和ケア、あるいは「終末期の」ケアにたずさわっています

どうしても「最期のとき」を意識してしまうのですが

彼女とお話をしていると

――いまをいっしょうけんめいに生きているんだ

それを私たちがどう支え、応援するのか――

という病棟の開設のときにいだいた志を

思い出させてもらったひとときでした

 

 

こんどはいっしょに桜を見に行きましょうね

と約束しました

 

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