「緩和ケア」という雑誌があります
毎回関心の高い特集がされていて、とても勉強になっています
その雑誌の増刊号で「緩和ケアの魔法の言葉」が発行されています
なるほどなあーと思われる言葉がたくさん載せられています
このたび患者さんやご家族から私が勇気づけられた言葉のいくつかをご紹介します
お見送りをさせていただいたとき、言葉をかけていただき、「あ~よかったな」と気持ちが和むことがあります
☆「ここに入院できてよかったです」
苦痛の緩和が十分にできず毎日悩むことがありました
先輩方に相談しても、患者さんすべてに共通することはないのだと思い知らされることもありました
さいごには鎮静のもと、旅立たれた患者さんも少なくありません
そんなとき、ご家族からの一言で救われた気持ちになりました
どのような場面でもあいさつとして話される言葉かもしれませんが、私にとってはほっとする一言でした
☆「こんな病院がもっとあればいいのにね」
患者さんといっしょに帰っていかれるとき、娘さんが私のそばにこられて、そっと耳打ちされました
思わず頭を下げました
不意打ちの言葉でしたが、とてもうれしかったことを覚えています
☆「こんどは私がお世話になります」
そのまま受け取るとなんと怖い言葉かと思います
でも実際には
お亡くなりになった患者さんのご家族、親類、友人が入院してこられることがけっして少なくありません
面談のときにも、「あの人の友達でした」とか「親族です」との話が時々出てきます
選んでいただけてとてもありがたいです
しかし現実はホスピスをもっと自由に選択ができるという医療状況ではありません
市内の限られたベッド数を考えると、私たちの緩和ケア病棟に来られる確率が高いのは確かなことでしょう
面談まで、入院まで長く待っていただかなければいけないことに矛盾を感じています
☆家族会に参加された息子さん
入院中はケアの方針をめぐって毎日のように話し合ってきました
さいごの時にもわだかまりがあるような表情をして帰っていかれたことが強く心に残っていました
1年ほどたった家族会(遺族会)にやってこられました
穏やかな表情で、大切なご家族のことを話されていました
参加していただけたこと
とてもうれしく思っています
☆「こんどはボランティアでかかわりたいです」
入院中ずっとご主人に付き添われていた奥様
お元気そうでした
「今は毎日いろんなところにでかけて、友達といっぱい美味しいものを食べて充実しています」
「こんど時間のあるときに、ボランティアをさせてもらいたいなあと考えてます」
ぜひお願いしたいのですが、お忙しそうなのでまだ声をかけることができていません
☆「生意気なことを言ってすみませんでした ありがとうございました」
さいごの時をどのように迎えていただくか、ご家族と相談をしました
「そんなこと今考えられません!」とご家族たち
たしかに酷なことを聞いてしまったなと思いながらも
これからの大切なときをどう過ごされるか
私たちと患者さん、ご家族のみなさんがいっしょに
共有できればと
考えました
――時間をかけないといけないなあ
と思いつつ
その後も何度かご家族とはお話をさせていただく機会をもちました
患者さんへの想いがつよく
私たちとしっくりいかないと感じる瞬間もありました
いよいよのときを迎えられ
みなさん交代で、ときにはたくさんの方が
そばに付き添われ
お声をかけたり
手を握ったり
されました
旅立ちのときに
娘さんが私に告げられた一言でした
私のほうこそ色々と学ぶことが多く
「ありがとうございました」
とやっとのことでお返事ができました
緩和ケア病棟では
多くの方はよくなって退院されることがありません
悲しみや後悔
様々な気持ちが渦巻いています
私たちもいっしょに過ごしたひとりとして
感じることがたくさんあります
しかし医療に携わる者としては
感情の波に容易く流されることは
よくないとも思います
そんな矛盾のなか
お見送りをしたあと
空虚な気持ちがまとわりつくこともありました
このようなとき
ご家族の一言で
霧が晴れるように
心が一変することを
なんどか経験しています
そう
ちょうど
“魔法の言葉”
のようです
だから今まで
続けてこれたのでしょうか
こころが渇きそうになったとき
思い出す言葉の数々です