これまでいくつかの視点でコロナ禍での医療や看護、ケアについて載せてきました

今回訪問看護師さんの眼で見たコロナ禍での在宅患者さんの状況を伝えてもらいました

私自身も少しですが在宅医療にかかわる中で同じ思いをしています

その中でも苦労をしながら患者さんやご家族の支えになろうと努力している看護師さんたちには頭が下がります

 


 

≪コロナ禍の在宅療養≫

 

コロナの流行から訪問看護の利用者さんの状況が変わりました。多くの病院が入院すると面会制限、あるいは面会禁止となりました。そのため、癌の末期やその他の病気の終末期の利用者さんとご家族が「できるだけ自宅で過ごしたい」と希望されました。病状が進み、食べたり飲んだりできなくなってきた時、体が弱り動けなくなった時、褥瘡などの傷が大きくなってきた時、熱が出た時など入院するか家で頑張るか何人もの利用者さん、家族が悩まれました。家で辛くなってきたら緩和ケア病棟に入院するつもりで準備を進めてこられた方が多くおられます。でも、いざその時になるとお互いに会えない事はとても大きな壁となりました。

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Aさんは、1年半程癌治療をされていましたが効果がなくなり予後3か月と診断されました。妻と二人暮らしで、訪問当初から面会制限があるためできれば在宅で最期まで過ごしたいと希望されていました。腫瘍が皮膚の表面に出てきて毎日妻がガーゼを交換していましたが、出血が多い時もあり手当が大変になってきました。口から食べられないため3食チューブから栄養剤を入れる、管で痰を吸引するなどのお世話はすべて妻がされており、それだけでも大変な介護の量でした。寝たきりとなり、意識がもうろうとしたり、夜寝ずに何度も妻を呼んだりするようになるとご家族も疲れてきます。娘さんが泊まり込んで一緒に介護をされましたが、「こんな状態やったら入院させていると思う。入院したら、お父さん声が出ないから電話もできないし、面会もできないからいややって言う。なんでこんな時にコロナなんやろ…」と何度も言われていました。毎日訪問しガーゼ交換や体調確認、お薬の調整や排泄のお手伝いなど行いました。主治医の先生とも相談しながらAさんの苦痛が少ないように、ご家族の負担や不安が減らせるように関わりましたが、使える薬やケアの時間も病院と同じようにとはいきません。24時間の訪問対応をしていますが、到着までに時間がかかることもあります。ご本人やご家族がしんどい状況になってもコロナのため入院という選択がしにくいということはお互いに辛い事でした。

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Bさんは入院しておられましたが、面会制限で家族に会えないため退院を決められました。癌による痛みが強くなり、薬の調整のため入院されました。予後は一カ月ほどとみられていました。夫と息子さんは少しでも一緒に過ごさせてあげたいと退院を望まれました。Bさんの夫は体が不自由で車椅子の生活でした。息子さんも仕事があります。Bさんは家族に迷惑をかけるのではないかと退院を悩まれていました。最期まで自宅で過ごすという思いではなく、体調が悪くなれば再度入院をする予定で退院となりました。退院後、他のご家族とも会われ、穏やかに過ごされていました。退院してからも夫や息子に迷惑をかけているんじゃないかと心配されていましたが「家にいたらええんやで」と声をかけられ、再入院の希望は最後までありませんでした。退院の16日後に急な体調の悪化がありました。夫、息子さんとお話をし、「病院へ行っても同じであればできるだけ家で過ごさせてあげたい。」「入院して会えないまま亡くなるのはかわいそう」という思いがあり、このまま最期まで自宅で過ごすこととなりました。その日の夜中に自宅で亡くなられました。別に住まれている息子さん全員揃われ、ご家族みんなに見守られた中で亡くなられました。夫より「最期まで一緒にいれてよかったです」と話されました。亡くなるその日まで自宅でシャワーを行ないました。半分抱きかかえるような状態でのシャワーでしたが気持ちよかったと喜ばれました。最期の最期まで息子さんに抱えられながらトイレまで行かれていました。最期までとっても頑張られていたように思います。それもこの方らしいとも感じました。

Bさんのように介護をするご家族を心配して在宅療養を躊躇されるかたもいます。それでも実際自宅で過ごしてみるとこのまま家で過ごしたいと思われるのも自然なことだとも思います。コロナで面会制限とともに入院中の患者さんの外泊もできなくなりました。今まで短期間でも家に帰りたい、家族と過ごしたいと思われている患者さんは外泊という形をとることができました。しかし、退院でしか家に帰ることができないため、医療者が常にそばにいない自宅で過ごす不安は大きいと思います。それはご本人だけでなく特にご家族の不安がとても大きいです。そんな利用者さんやご家族に寄り添い訪問看護を行っています。

 

コロナ禍でAさん、Bさんのように在宅で過ごす終末期の利用者さんが増え、家での看取りをさせていただく事が増えました。ご家族は先のみえない介護に不安や疲労を感じ、できれば入院を…と考えられます。でも入院してしまうと全く会えなくなってしまう、誰にも会えず1人で亡くなってしまうのもかわいそう…と悩まれ、頑張って介護をされています。「コロナでなければ入院している」何度聞いたでしょうか。そんなご家族の疲れや思いも一緒に受け止め、ご家族と一緒に終末期を過ごす利用者さんを支える、私たち訪問看護師の今の現状です。

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