緩和ケア病棟に入院されている患者さんでごくまれなことだと思うのですが、「癌が自然とよくなったのでは?」と思われる方に出会うことがあります
当院の緩和ケア病棟では手術や化学療法、放射線療法などのいわゆる「積極的治療」などこれ以上の治療を行わない、または望まれない状況で入院してこられます
徐々にあるいは急激に病状が悪化される方がほとんどなのですが、ときには病状が安定し、また腫瘍が縮小する患者さんがいらっしゃいます
文献を探しました
http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/bitstream/11094/24902/1/ocrf_40_21.pdf(岩永剛医師)
いくつか抜粋します
「がんが自然退縮する頻度は、6万人~10万人に1人くらいの頻度でみられると言われていますが、その正確な率は不明と言わざるを得ません」
「(自然退縮した)741例の60%が1年以上生存し、25%の症例が5年後もなお生存していたと記されています」
「がんが自然退縮を起こす不思議な現象の原因・理由については、多くの研究者が検討してきましたが、確固たるものはないようです」
さらに以下のような原因・理由が述べられています
- ホルモンの影響
- 感染症
- アレルギー、または 免疫反応
- 腫瘍病巣への血行障害
- 酸素と栄養の不足
- 急速な腫瘍増殖
- 発がん物質・腫瘍増殖因子の排除
- アルコール摂取の中止、禁煙
- 通常は無効な治療法に対して感受性の増強
- ハーブ、BRM(生物学的応答修飾物質)
- 発熱、温熱
- 腫瘍の生検・外科的侵襲
- 大量出血、低血圧
- 腫瘍以外の部位への放射線照射
- 表層より隆起した腫瘍の自然脱落
- 遺伝的要因、家族性発生
- 精神状態、心構え、精神療法
- 補完的代替医療
などたくさん記載があります
80歳代後半の患者さんでした
皮下の数か所に転移があり、そこからの生検で癌の転移と診断されました
入院当初は時々つよい痛みが襲い、言葉も出せないくらいでした
医療用麻薬を増やしなんとかコントロールがはかれていました
皮膚の腫瘍は徐々に大きくなり、いずれば出血するだろうと予測していましたが、少しずつ浸出液が見られ、ゆっくりと縮小に向かったのです!
とうとう体の表面にあった腫瘍は完全に消えました
同時に原病巣も大きさには変化がなく痛みもまったくみられなくなりました
患者さんは食欲をとりもどし、退院が可能な状態まで回復されたのです
おそらくは上記の「15」に当てはまるのではと思っています
その他にも自然治癒あるいは退縮とまではいかないまでも、癌の発育が止まったと考えられ合併症も改善に向かった例も経験しています
人間の体はほんとうに不思議なものだとつくづく思いました
「癌はほっておいても自然によくなるものだ」との考えに同調することは決してありませんが、患者さんやご家族にとってみればこのような出来事は喜ばしいことであり、私たちもいっしょに祝福したいと思います