私の外来に長年通院されている中年の男性がいます
ある日元気がないのでそのわけを尋ねました
「実は妻が先月亡くなったのです。進行癌でした。病院にかかったときにはもう治療もできないと言われ、そこからはあっと言う間でした」
診察のあともまだこの場を離れがたい雰囲気を漂わせています
ちょうど予約の患者さんもいなかったのでもう少しお話をうかがうことにしました
「入院期間は2か月あまりでした。病気の告知を受けた後、私も妻も突然のことでうろたえましたが、妻は翌日にはしっかりと受け止めようとしていました」
でも私はだめです
と、ご自分を責められています
「家のことはすべて妻にまかせっきりでした。洗濯の仕方ひとつできません。そんな私を気遣うように一つひとつ家でのことを教えてくれるのです」
聞いていて泣きそうになりました
「少しずつ食事が減ってきました。幸いにも痛みはほとんど感じることがありませんでした」
そのことが救いですとおっしゃいます
「仕事の帰りに病院に寄り、消灯時間まで付き添いました。妻は気にせずに早く帰ってねと言いますが、私はうなづくだけです」
「ある日妻と私の共通の友人がお見舞いにきてくれました」
「私は遠慮して席をはずしました。2時間ほどたったころでしょうか。デイルームで本を読みながら待っていた私のところに友人がやってきました。真剣な顔で私に言うのです」
――あなたは彼女にご自分の想いをきちんと話したの?
「何もいえませんでした
ただ苦笑いするだけです」
――彼女はあなたの言葉を待ってるよ
「その日の夜、私は一睡もできませんでした
しかたなくインターネットを見ながら時間をやり過ごしていたのです
そのときに偶然ある絵本の紹介が目にとまりました」
「翌日の昼休み、書店に行くと、幸いにもその絵本がありました
公園のベンチで広げました……」
ご主人は仕事の帰り
いつものように病院に寄ります
「妻は変わらず笑顔で迎えてくれました」
「私は思い切って妻の手を握り、目を見つめました
妻の緊張が手に伝わってきます」
「ずっと、ずーっとだいすきだったよ!
とうとう口にしました」
「それからはふたりして抱き合って泣きました……」
長いお話が終わりました
私は彼から絵本の題名をお聞きし、さっそく通販で取り寄せました
このような絵本です
解説の一部を紹介します
愛する者との死別がテーマの作品です。死んでしまってからでは、もう「好きだ」と言えなくなってしまうから、気持ちをきちんと伝えよう、と語りかけています。
「すきなら、すきと いってやればよかったのに だれも、いってやらなかった。いわなくっても、わかると おもっていたんだね。」
読みながら途中でおもわず目頭が熱くなりました
まだご存じでない方はぜひ目を通してみてください
秀逸な絵本です