――皆様お元気でしょうか

私にとって早かったような、長かったような1年でした

 

という書き出しでお手紙が病棟に届きました

看護師さんたちがご家族に届けた手紙とメッセージカードへのお返事が返ってきました

329-01

“ホスピス・緩和ケア病棟で提供された遺族ケアとして、最も多くの対象者が経験していたのは「病院スタッフからの手紙やカード」であり、各種遺族ケアサービスに対して多くの遺族が肯定的に評価していた”という調査があります

新型コロナウイルス感染が拡大する前には、家族会などを定期的に催し、家族の方々のケアを積極的に行ってきました

しかしコロナ禍のもと、たくさんの取り組みができなくなり、四十九日レターや折に触れてのお手紙・メッセージカードなどを送らせてもらっています

 

お手紙の内容に心を打たれ、ご家族(娘さん)の同意をいただきその一部(若干変更させていただきました)を引用したいと思います

 

――ことあるごとに母を思い出し

どうしようもなく切なく、悲しく、会いたくなります

 

――(母がいないことが)頭ではわかっていても、心で理解できていないままです

母の姿がどこにもいない家はがらんとしていて

無駄に大きく感じます

 

1年たっても、2年たっても思い出しては涙されているご家族がいました

ある日偶然街で出会い、涙ながらに今の生活を話されました

私は口をはさまず、ご家族の話を静かにお聴きしました

 

またある人は

最愛の奥様を見送られ

一人での生活が始まりました

最初に困ったことは

いつゴミをどこに出せばいいのかということでした

食事はコンビニや食堂ですませることができます

でも日常の小さな、それでいて生活するためには必要な様々なことがわからず

途方に暮れたと話されていました

 

ご家族の日用品、化粧品や歯ブラシなどを捨てられずにいたり

テレビを見ていてふと亡くなられたご家族に呼びかけ、そこにはいないことに気づき哀しみが込み上げてきたりします

 

あとになってかけがえのない存在だったことに思い至ることもあります

 

――母がいない人生がこんなにもつまらないなんて…

いつでもそばにいた(母の)うっとうしいくらいの優しさが恋しくてしかたがない…

抱きしめてごめんねって言いたい

愛してくれてありがとう…って伝えたいです

 

最期のとき

娘さんたちはずっとそばを離れず

頬ずりをされたり

声をかけたり

されていました

見ていてほんとに優しいご家族だと感じていました

 

そのときも今も

様々な感情のなかにおられます

329-02

生まれ変わることがあれば、もういちど家族になりたい

その日はきっと来ると信じている

と、ある人は話していました

 

――やっぱり私は自分を責め続けているし

普段明るく振舞っていても

ひとりになった途端に

いろんな感情があふれ出てしまいます

 

抗癌剤治療を受けている姿を見て、とてもつらそうに思われたそうです

他の治療法にも出会うことができれば

もっと長くいっしょにいることができたのではと

ご自分を責められていました

 

何度もなんども同じ言葉を口にされ

そのつど看護師さんたちは黙って話を聴いたり、背中をさすったり

身体へのケアをともに行ったりしながら

寄り添っていました

 

――病院の方々が私に言ってくれた言葉や、泣きじゃくる私の背中を撫で続けてくれた温かい手を思い出します

皆様の優しさに私たち家族は本当に救われました

 

このとき看護師さんたちは

今この時間を大切にしてね

と声をかけられたそうです

娘さんはその声かけで楽になりました

と話されています

 

ある本には次のような記載がありました

 

「どれだけ悲しいかではなくて、(患者さんが)あなたにくれた素敵な思い出でこの部屋

いっぱいにしてあげて。(いっしょに何かをしたり旅に出かけたりしたことなど)患者さんが忘れていることも思い出させてあげて」

「それが患者さんから与えてもらったものをお返しすることになるの」

329-03

 

患者さんは病気との闘いを選択してこられました

あきらめたくない、できることは何でも挑戦してみたい

とつよい意志をもって

 

その心のうちには「家族のため」ということが多くを占めていたように思われます

その思いは娘さんたちご家族に十分に伝わっています

 

――おかあさんありがとう

おかあさん大好き

わたしたちはおかあさんのような人になるからね――

 

カルテに書かれていた言葉です

 

患者さんはいちど自宅に帰られ

望んでいたことを行い

ふたたび私たちのもとに来られました

 

 

今、私は「看取り」のことを考えます

様々な理由からその場にご家族がいることができないときもあります

そこに居ることのみが「看取り」ではなく

向き合ってきたこと、向き合った想いが

「看取り」そのものではないだろうかと考えています

 

 

娘さんが最後に述べられています

 

――同じ思いを抱える方々とぜひ一緒にお話ししたかったのですが、コロナの影響で叶わなくなりすごく残念です

機会があれば(家族会に)ぜひ参加させていただきたいです

 

 

私たちの取り組みがご家族の癒しに少しでもなることができればうれしいです

コロナ禍が落ち着けば必ずお会いしましょう

 

 

看護師さんたちは今も、一人ひとりの患者さんのお顔やいっしょに過ごした日々を思い返しながら、ご家族へのメッセージを心を込めてしたためています

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このお話は2020年9月のブログ「患者さんからの贈り物」と併せて見ていただければ有難いです

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