あるときひとりの医師と話をすることがありました
その医師は「ぼくは患者さんから無理に『したいことはないですか?』と聞きだしたり、それをなんとか叶えようと一生懸命にこだわることには反対なんです。きっとこのままそっとしておいてほしいと願っている患者さんもいるはずなんです」と言われました
「希望」とそれを支える「援助」
私もずっと考え、ときには現実とぶつかりながら悩んできたことです
「急な入院になってしまって、自宅でやり残したことがあります。家族のためにどうしてもやり遂げたいのです」
「入院して痛みは楽になりました。歩ける間に○○さんのコンサートに行きたい」
「娘の出産が近いのです。初孫の顔をみるまではこの世とさよならはできません」
など、ほんとになんとか実現できたらなあと思うことを話されることがたくさんあります
このような方々の希望を叶えるお手伝いはぜひとも必要です
一方では何を聞いてもこのままでいいんですとおっしゃる患者さんがいます
残された時間はそう長くないのに本当にそれでいいのかしらとみんなは思いますが、誰が聞いてもいつも同じ答えが返ってくるだけ
さいごにはうっとうしそうな顔をされることもあります
最近読んだ本につぎのような文章がありました
勝手に引用させていただきます
“「無力でかわいそうな患者さんに、健康で力のある私たち医療者が何かできることをしてあげる」ことだけが希望を叶えることだと勘違いしてはいけません。「何かしたいこと」を考える余裕もなく、ただ今このときを生きることだけで精一杯の患者さんにとっては、とにかく目の前の苦痛がこれ以上悪くならず、「今」の時間を過ごせることが一番の希望という方もいるのです。何か新しいものを手に入れることや、やり残したことをやり遂げること、生きている時間を延ばすといった「手に入れる」系のことだけが希望を叶えることなのではなく、いまその人の手の中にある小さな希望が失われないようにすることだって、れっきとした「希望を叶えること」なのです” (西 智弘 医師)
重い文章です
持ち時間がわずかであることを告げること
しておきたいことは何かないですか と聞き出すこと
病状が悪化して入院してこられ、やっとコントロールができた患者さん
今から苦痛が強くなることが確実に予測される患者さん
やっとこの病院にたどり着いた患者さん
に、短いお付き合いの中でどこまでお話ができるのか……
縁があり緩和ケアの世界に飛び込んで、目の前に出現した悩みのひとつです
最大の悩みといってもいいくらいです
患者さんにとってみれば、言いたいことがあっても言い出せないことは少なくないでしょう
「こんなこといってもいいんだろうか」
「きっとむりだろうな」
「みんなにめいわくをかけるから」
「じぶんががまんすればいいんだ」
などなど、様々な思いがあることでしょう
あるスタッフは
「そのために緩和ケア病棟ではたっぷりと時間があるんだよ」
と言いました
ある人は
「とても話ができなくて…」
とも言っていました
何がよくて、何がわるいということではなく
こうするべきだ、こうしないといけない でもなくて
毎日、毎日考えながら、悩みながら、相談しながら、目の前の患者さんの人生とお付き合いしていくことだと今は思っています