折に触れ思い出すことがあります
笑顔の患者さんとご家族、その横に主治医の姿
病室にコーヒーの香りが漂い
会話が弾んでいます
これは私が緩和ケアの勉強をさせていただいた病院で目にした光景です
あこがれていました
いつか同じ場に自分も参加できればいいなと
……いまそれは夢物語なのでしょうか?
入院相談の面談のとき
「申し訳ないのですが面会や外出・外泊はできないのです」
とお話しすることが普通になってしまいました
面会が可能な場合は
1.入院時に患者さんと一緒に来ていただくとき
2.病状が急に悪化し、会話ができるチャンスと判断されたとき
3.いよいよのとき
となりました
そのことをふまえたうえでスタッフは努力をしています
・衣類や日常品、差し入れの受け渡しのときにご家族に患者さんの様子や病状をお伝えします
・ウェブ面会やラインなどITを活用した顔の見える面会
・病状の変化や検査結果をこまめに電話でお知らせしています
・直接の面会はできなくても来院していただいて病状説明を行うことが以前よりも頻回かつ丁寧になったように思います
緩和ケア病棟だけでもなんとか…と思うことが当初はあったのですが
病院全体の方針であり
緩和ケア病棟はよくても、それじゃ他の病棟はどうなるの?
といった2つの基準の存在はぜったいに望ましくありません
悩むところです
★一方では心配なことが増えてきました
1月のブログで入院患者さんとご家族や知人との面会の持つ意味を述べました
※非日常に直面した患者さんにとっての安心の保証
※慣れた人との会話を通じて日常を取り戻す役割
※人とのつながりから社会的役割を改めて確認するということ
など大切なイベントなのです
患者さんの中には心の整理がつかないままの入院となられた方も少なくありません
これまではご家族がそばにいて、そのことが安心の材料となっていました
いきなりの環境の変化により不安やときには恐怖の感情からせん妄を引き起こされることがあります
できる限りそばに寄り添い安心を提供するのですが、やむなく薬に頼らざるを得ないことがあり、そこから悪循環に陥ってしまいかねません
見知った人とのつながりを絶たれることで、特に高齢の患者さんにとっては精神的な打撃にもなってしまいます
その結果身体の不調につながってしまった場面がありました
認知機能が低下した患者さんにとって
なぜ誰とも会うことができないのか理解がむずかしく
「ほったらかしにされている」
「家に帰りたい」
と強い口調で訴えられることがあります
大切にしてきたACPが
おろそかになってしまう心配があります
―――患者さんの権利の問題にもかかわることです
★もうひとつの現象が生まれています
入院を控える患者さん、ご家族
「会えないのなら退院します」と自宅での療養を希望される患者さん、ご家族
「面会ができないのなら入院せずに自宅で最期のときを過ごします」と在宅での看取りが増えています
できるかぎり訪問診療や訪問看護で対応していますが
遠方の場合には近くの医療機関にお願いをし、快く引き受けていただいているのがとても有難いことです
「ほんとは家に帰りたいんだけれど、夫(あるいは妻)に迷惑をかけるので…」と
断念される患者さんもいます
話をうかがうたびに辛い思いをさせていることに申し訳なさを感じています
★私たちはジレンマを感じています
提案している「7つの指針」にも述べていますが
(05 | 1月 | 2021 | 神戸協同病院 緩和ケア病棟 スタッフブログ (kobekyodo-hp.jp)
私たちは患者さんやご家族から「しっかりとお話を聴く」ことを心がけています
たいていの患者さんとは初対面であり、短期間で信頼関係を結び、患者さんやご家族の生活や希望、人生の信念などをお聞きすることが求められています
その中から最善のケアを提供することに努めています
その機会が「面会制限」というかたちで限られてしまい、不全感が残ってしまうのは私だけではないでしょう
・医療スタッフとご家族との間の認識の「ずれ」が生まれていないでしょうか?
・患者さんとご家族がお互い言いたいことを話しあえていないのではないでしょうか?
・スタッフは患者さんのイメージをしっかりと持つことに苦労し、薬に頼ってしまっていないでしょうか?
・医療者の説明から受け取られた患者さんの様子と、のちにご家族が会われたときの印象にギャップが生じていないでしょうか?
でも今こそ「7つの指針」にこだわりをもつことが大切だとも切実に感じています
緩和医療学会が『新型コロナウイルス感染症が拡大しているこの時期に、いのちにかかわるような病気で入院中の患者さんのご家族にお伝えしたいこと』という文章を出しています
http://www.kanwacare.net/news/2020/0608_803.php
「…病気と闘っておられる患者さんとそれを支えるご家族が『つながり』や『きずな』を感じつつ過ごしてもらうために……」と
6項目にわたって具体的な方法を提案しています
その5番目の項目です
「患者さんのことをたくさん教えてください――患者さんの性格、嗜好、大切にしておられること、気がかりなどを是非遠慮なく私たちに教えてください」
その他の項目もふくめ、実践のお手本となるものでしょう
「面会の制限」が
患者さん、ご家族、そして私たちをも傷つけています
それでも困難な状況のなかでの努力を少しでも広げ、続けていかないといけません
コロナウイルスに負けないためにも
さいごにもう一度私たちの取り組みを掲載します
〇衣類や日用品、差し入れの受け渡しのときにご家族に患者さんの様子や病状、ご家族からの伝言・患者さんからの伝言をお伝えしています
手紙でのやり取りをされた方もいました
〇WEB面会やライン面会などITを活用した顔の見える方法で積極的にお手伝いしています
声だけでなく表情がわかってありがたいと喜ばれています
〇病状の変化や検査結果を医師や看護師からこまめに電話でお知らせしています
〇直接の面会はできなくても来院していただいて病状説明や相談を行うことが以前よりも頻回かつ丁寧になってきています
いま、緩和ケアの原点に帰ることが求められていると痛感しています