(栄養士さんからのお話)
お酒とタバコが大好きだったある男性(Aさん)は、自分で食べたいものを買われることが多かったため、栄養科からは希望のある時に合わせてお食事をお出ししていました。
ある時お部屋に伺うと、お酒の話に。
緩和ケア病棟では、お酒も楽しめます。(もちろん酔っ払いは厳禁ですが)
一般病棟から移ったばかりのAさんにそのことを伝えると、Aさんの目がぱっと光りました。
「僕、お酒大好きなんですよ。」
聞けばAさん、かなりの酒豪だったようで、入院前はジョッキ5・6杯は軽々飲んでいたとのこと。病気をきっかけに徐々に飲みづらくなり、病気になってからは飲酒後に一度熱を出した経験から怖くて飲めなくなってしまったとのこと。
「ここでなら、病院だし、安心して飲めますよね!せっかくお酒飲むんだから、酔っ払うまで飲みたいなあ。病院で飲んだら、帰る心配しなくていいですよね!眠剤も飲まなくていいし・・・酔っ払ってベットに倒れこむ・・・!今日からの人生の楽しみができました。」
私もお酒が大好きなので、同じお酒好きとしては、酔っぱらう楽しさもよくわかる。でも…うーん。そんなに酔っ払うまで飲むのは、先生がOKしてくれるかなあ・・・?
先生に確認したところ、お酒はビール1~2杯にしましょうということになり、それを伝えにいくとAさんは「それでもいいです。」と笑顔で答えてくれました。
そして当日・・・薄く雲のひろがる、風が気持ちいい絶好のビアガーデン日和。
私は夕方頃から簡易のイスと机を屋上に引っ張り出し、調理師さんたちが昼休みに材料を買いに行って作ってくれたばかりの揚げ物やサラダを並べます。
Aさんは、私が部屋にお迎えに行くと、いそいそ楽しそうに焼酎のカップ酒を取り出します。あれ?ビール1~2杯じゃなかったかな?焼酎のほうがアルコール度数高いんだけど・・・大丈夫かな?
担当の看護師さんが「後で行くからね。」と声かけしてくれ、さっそく乾杯し、ビアガーデンスタート。
「今から病院でビアガーデンするんやって会社の上司に電話したんですよ。そしたら絶対嘘やって言われて。本当なのにね。」
Aさんはうれしそうに話してくれます。
病院の屋上から空を眺めていると、飛行機が何機も飛んでいきます。お酒とおつまみを食べながら、Aさんはいろいろな話をしてくれます。飛行機が好きで、一度だけタイに行ったことがあること。中学時代はこのあたりが地元で、新長田の南側の景色はちっとも変わらないと思うこと。Aさんは独身ですが、結婚の話も少ししてくれました。昔は結構遊んでいたようです。
病院の南側は海なので、飛行機以外に時折船が通りすぎていくのも見えます。
外で飲むお酒はおいしい。
こうしてAさんは、協同病院でビアガーデンをした第一号の患者さんになりました。
少し寒くなってきたので、そのあとは院内に移ってお酒を飲みました。主治医の先生をはじめ、MSWや病棟の看護師さん、色んな人が来て、一緒に食事を食べました。
「入院して、誰かと食べる食事が一番美味しいというのを本当に感じました。おいしいものも、一人で食べるより、誰かと食事をするほうがずっとおいしく感じます。」
Aさんは結局この後、チューハイも1本開けて楽しそうにみんなと話をしながら飲んでいました。
「また、ビアガーデンしましょうね!」
次の週に訪問すると、Aさんはそう言いました。
Aさんは、本当にお酒とたばこが大好きでした。
食事には体に栄養を補給するということと同じかそれ以上にコミュニケーションを図る力があります。それは心の栄養の栄養になります。
「楽しみが増えました。」
Aさんは食事のメニューや食べたいものを提供できるように私が提案すると、いつもそう言ってくれました。
ワードローブにたくさん詰め込んだおつまみをうれしそうに見せてくれる姿と、焼酎をおいしそうに飲む姿が、ずっと残っています。
とても印象に残った試みだったので、
無理なお願いをして栄養士さんに投稿
していただきました!