「まだ到着されていません」
受け付けからの連絡です
基幹病院からの紹介で当院の緩和ケア病棟に転院となった患者さんをお待ちしているときのことです
…病院を間違えたのかしら?
…道に迷っていないかな?
…途中で調子がわるくなったのでは?
様々な憶測が飛び交います
30分ほど遅れて来院されました
「タクシー代がかかるので、電車を乗り継いできました」
と患者さんはもちろんご家族も
息を切らしています
OR
問診をとり、一通りの身体診察をすませたのちに
気がかりなことを思い切ってたずねました
これまでの治療でたくさんの医療費がかかっていました
やはり緩和ケア病棟での自己負担がご心配だったようです
医療ソーシャルワーカー(MSW)に連絡したところ
すぐにベッドサイドを訪問してくれました
年金や過去の仕事のこと、ご家族のこと、自宅に帰れたらやりたいことなどいっぱいお話をされたと聞きました
費用面のことをとくに詳しく説明してもらい
いつでも相談に応じますと
伝えてくれました
前後して
若い患者さんが入院されました
率直に費用のことを話され
もし負担が多くなるのなら退院したいとまで言われます
MSWと相談しました
病気になってから収入がまったくなく
蓄えを切り崩しながら療養されていました
この患者さんの置かれている状況を考えて
「無料低額診療」の対象となることがわかり
さっそくその手続きをしました
(無料低額診療事業とは、低所得者などに医療機関が無料または低額な料金によって診療を行う事業です。厚生労働省は、「低所得者」「要保護者」「ホームレス」「DV被害者」「人身取引被害者」などの生計困難者が無料低額診療の対象と説明しています。
https://www.min-iren.gr.jp/?p=20135)
このおかげで入院の費用の心配や退院後の往診などの負担への不安を解消することができました
https://nursepress.jp/226765
私たち医師はとくに社会的苦痛に関しての理解が得意ではありません
日頃の患者さんやご家族との話の中から
アンテナを高くして気づかなければならないことが多くあります
幸いなことに私たちの病院は患者さんたちの経済的な心配を少しでも減らすための努力を行ってきました
先ほどの「無料低額診療事業」はそのひとつです
また
緩和ケア病棟は全室個室ですが
すべてのお部屋は差額ベッド代をいただいておりません
このことは病院ができてから先輩たちが苦しい経営事情の中でもずっと守ってきた信念です
「下町の緩和ケア病棟」を目指す私たちの特徴でもあります
日常の現場では
身体的な、あるいは精神的な苦痛については訴えがストレートな場合もあり、把握できることが少なくありませんが(それでも良好な関係が作れていないと難しいです)、経済的な苦痛やスピリチュアルペインは見逃してしまい、毎回反省しています
緩和ケアチームはそのためにも存在しているのだと、その都度気づかされます
患者さん・ご家族とのコミュニケーションとともに、スタッフ間のコミュニケーションをさらに密にしていかねばとふたりの患者さんのことを振り返りながら考えています