私たちの病院には理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリスタッフが20人あまりいます

急性期病棟、回復期リハビリ病棟、デイケア、訪問リハビリなど活躍の場は多彩です

大半が若い職員です

 

孫のような職員といっしょに頑張っている患者さんのお話をしましょう

 

 

Kさんはがんの骨への転移のために強い痛みを1日中訴えられていました

時々さらに強い痛みが襲ってきます(いわゆる「突出痛」です)

 

医療用の麻薬もたくさんの量を使わないといけない状態だったようです

そのためかときどき「せん妄」がみられていました

 

このような状態で私たちの病院に移ってこられました

当初は痛みのために絶えず顔をしかめているような状況で、薬も多く使わざるを得ませんでした

ベッドから起き上がることもできず、寝返りがやっとです

 

スタッフといっしょにケアの方針を考えるカンファレンスをもち、「ほかの薬の併用がひょっとすると効くのじゃないでしょうか」との意見のもとに、一時的には薬の量が増えることを覚悟して、Kさんやご家族に説明させていただき治療を開始しました

 

すると少しずつですが痛みを訴える回数が減ってきました

2週間たち、4週間が過ぎ、こんどは薬を減らす検討です

時間をかけながら慎重に薬の調整を行いました

 

とうとう最初のほぼ半分量まで減らすことができました

ご家族と外出や外泊も可能となりました

 

すると新しい変化が生まれたのです

Kさんから「歩く練習がしたい」という希望が出されました!

リハビリが開始されました

 

ベッドサイドで立つ練習

車いすに移る練習

平行棒を持って一歩ずつ歩く練習

 

若い理学療法士さんは粘り強く取り組みます

Kさんとも仲良くなりました

 

今では……

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ご覧のように背筋も伸びて歩行器使用でスムーズに歩けるまでに改善しました!

ほとんど寝たきりだったKさんが、ご自分の足で歩いています

 

 

リハビリは緩和ケア病棟では診療報酬上の算定が認められていません

それでもスタッフたちは患者さんのQOL(「生活の質」と訳されています)の改善のためには、と頑張ってくれています

 

ある方の場合には「急な入院だったので、一度自宅の様子を見てみたい」との望みから、車いすでの外出にむけての練習が始まっています

 

患者さんは私たち以上に頑張っています

その「やる気」に感動しながら私たちも頑張ることができるのです

Tさんが亡くなられてしばらくしてから、担当の看護師さんと奥様を訪ねました

病院から自転車ですぐのところにお住まいです

そこが下町のいいところです

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まずお線香をあげさせていただきました

見上げるとりっぱな姿をされたTさんがほほ笑んでいました

「私の足が悪いので、息子たちがテーブルを運んでその上にきれいに飾ってくれたんですよ」

 

「とても凛々しいお姿ですね、でも優しそうな笑顔で」

 

入院中のこと、それまでのことなど、いくつかお話を聞かせていただきました

診察のためにお部屋を訪れると、いつもにこやかに笑ってくださったTさん

寝ているTさんに優しく頬ずりをされていた奥様をほほえましく見ていました

 

ご主人とふたりで仲良く暮らされていた奥様は、息子さんたちがそれぞれの日常に戻られたあと、急に一人になってしまいました

その日の夜、

いてもたってもいられなくなった奥様は病院のまわりを一人で歩きました、

とおっしゃっていました

――お父さんと出会えるんじゃないか、と

 

まだまだ受け入れるまでには時間がかかるかもしれません

でも少しずつ慣れていこうとされている姿をみて、思わず声をかけました

「さみしくなったり辛くなったりしたときには、いつでも病院に来てくださいね」

――私たちは大歓迎ですよ

 

ふと見ると、奥様はTさんお気に入りの椅子に腰かけていらしゃいました

私の目にはふたりで並んでいるように映っています

 

 

私たちみんなの胸に、Tさんの「ありがとう」の言葉と人懐っこい笑顔はいつまでも住みつづけることでしょう

多彩な趣味をおもちのTさん

90歳になるまで音楽やスポーツ、カメラなどなど、私にとってはうらやましい限りです

 

奥様とも二人でたくさんの旅行をされたとお聞きしました

 

でも普段は仕事ひとすじのまじめな方です

 

そのTさんが病気になり、食事がとれなくなって私たちの病棟に入院してこられました

 

入院までの間、奥様は1時間ごとにTさんのお世話をされていました

その頑張りには頭が下がります

 

食べたいものはきっとたくさんあるのに、食べると通らなくなって吐いてしまうことの繰り返しです

奥様も息子さんたちも「できるだけ苦痛なく、安らかに永眠できること」を当初から望まれていました

――食べれない姿を見ていることがとてもつらいです

奥様は点滴を希望されました

そのことでご家族が安心されるのなら、ということで点滴を開始しました

しばらくの間点滴を続け、ご本人だけでなくご家族の思いに対しても効果は見られたように思います

車いすに乗っていただき、ピアノの前までいくと、Tさんはおもむろに手を差し出されます

鍵盤をたたく指の力が弱くなっていますが、“ポロン”と心地よい響きです

 

息子さんたちはとても優しく、情が深い方々です

Tさんを見守る眼はこれまでのご家族の素晴らしい関係を想像させてくれました

 

でもやはり病は少しずつTさんの体を蝕んでいます

 

ちょうどそのころです

「おとうさんのお気に入りの椅子に座らせてあげたい」という希望がご家族の中からでてきました

さっそく自動車に載せて病院へ

――病院に家を持ち込もう!

 

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ご覧のようにとってもすてきな椅子です

 

Tさんに座っていただこうと頑張りましたが体力が持ちませんでした

残念ながらベッドの横にいてもらうことに……

ご家族やお見舞いの方が時々座っています

 

病気の進行はわかるけれど、「少しでも長生きしてほしい」というみんなの思いは一緒です

Tさんもその期待に応え頑張りました

 

けれども点滴が入らなくなり何度も針を刺す行為がTさんにとっては苦痛となるときがきました

みんなで相談し、いやなことはできるだけ控えましょうということで合意しました

 

 

……最期の日、

Tさんはしだいに意識状態が悪化、呼吸も弱くなってきました

そして…

悲しみと暖かさの空気が漂う病室でご家族が見守る中、天国に旅立たれました

 

 

「ここに入院して、あきらめるということができました」

「弱っていくことを受け入れつつ、見送ることができました」

「悲しいけれど、穏やかに見送れました」

奥様が私たちにおっしゃられたいくつかの言葉です

 

お父さんの椅子もきっとこれからもご家族を見守ってくれることでしょう

 

 

Sさんは住み慣れた町の病院からご家族が近所にある私たちの緩和ケア病棟に引っ越してこられました

 

高齢ですが判断力と記憶力はしっかりとされた女性です

「センセイ、今日は4回来てくれたね」

「夜にも来てくれると言ったのに、まだ・・・」

 

Sさんにはとっても大きな困りごとがあります

それはいつ襲ってくるのかわからない頭痛でした

日によっても変わります

天気の影響か気圧の変化なのかは誰にもわかりません

1日のなかでも大きく症状は変化します

 

でも娘さんがいらっしゃるときには落ち着かれていることが多いようにも感じていました

 

「……いつもありがとうございます、でも頭が痛い、どうしてなんやろう?」

あれこれとお薬を試してみるのですが、最初はいいこともありますが、すぐに「あれは効かない」とおっしゃいます

「どうしてなんでしょうね? だけどいろいろと方法をいっしょに考えましょう」

 

ある日のこと、

看護師さんから、「Sさんの誕生日がもうすぐです、お誕生会をご家族と考えています」と報告を受けました

「それはすばらしい! ぜひみんなでお祝いをしましょう」

 

それからはSさんには内緒で準備にとりかかります

仕事の合間(?)も、仕事が終わってからも

ご家族も計画があるようです

 

食事量が少ないSさん

誕生日には大好物を食べていただこうと栄養士さんと調理師さんが知恵を絞りました

 

当日のお昼ご飯の内容です

・ミキサー粥

・うなぎのかば焼き

・根菜の盛り合わせ

・とろろゼリー

・ゼリー、牛乳、のりの佃煮、梅びしお

「うなぎ」と「とろろ」はSさんの希望でした

 

この日はいつになくたくさん食べていただきました

 

ベッドサイドには看護師さん手作りの飾りつけ

折り紙で作った花束もあります

Sさんは三角の帽子をかぶって(かぶらされて?)います

お孫さん、ひ孫さんの参加もありました

みんな笑顔で写真をとりました

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「みなさんありがとうございます。でも頭が痛い・・・」

 

目の前には大きなケーキ

 

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♫ ハッピーバースデイ Sさん ♫

みんなで合唱しました

 

つらいことにはまだ十分にお応えすることができていませんが、これからも穏やかな生活が送れるように努力をしていきます

 

緩和ケア病棟が始まって約6週間がたちました。

この間たくさんのことがあり、ブログにアップする暇(?)がないまま、時間だけが過ぎていきました。

決して短い時間ではありません。どちらかといえば1日1日がとても長く感じられています。

 

朝8:30 看護師さんたちの申し送りに参加

気づけなかったことの多さに驚いています。

 

午後1:30からは新入院や気になる患者さんのカンファレンス

看護師さんをはじめ薬剤師さんや臨床心理士さんと一緒にディスカッションです

ときにはゲストとして以前の担当医や研修医の先生の参加があり、MSWさんや栄養士さん、リハビリスタッフ、臨床工学士さんなどにもそのときの患者さんの抱える課題にあった人に来ていただいています。

 

ショートレクチャーを行ったりしながらみんなで共有をはかるべく努力を重ねています。

 

 

開設直前にNsたちが全員そろい、簡単な勉強会をしました。

そのときに私が読んだ本からの引用をしています。

 

“回診は小まめに、説明も小まめに、忙しさは大敵と知り、知りつつ忙しさをこなすこと。患者さん・家族が「見守られている」と思ってもらえるよう努めること”

 

これは私が尊敬するホスピスの先輩医師である徳永進先生のコトバです。

勝手に引用させていただきました。

 

毎日がこのことを意識しながらの実践です。

ずっと昔、研修医時代のこと、回診は毎日(休日も)行うことを自分の義務と考えていました。

形式も大事なのかもしれませんが、緩和ケア病棟で仕事をすることで、回数が問題じゃないことがよくわかりました。

 

 

患者さんが必要としています

ご家族が求めています

私たちスタッフはいつでもそばにいること…

たった数分の時間…

それがとても貴重なのです

 

――「時間を注射する」というコトバを聞いたことがあります

 

未熟な病棟ですが、いちばんに心がけたいことです!